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会計制度2023.11.29 日本監査役協会「グループ監査における親会社監査役会の役割と責務」を公表(その2)

2023年10月、日本監査役協会(関西支部・監査役スタッフ研究会)は「グループ監査における親会社監査役会の役割と責務」(以下、報告書)を公表しました。今回は、グループ監査の実態についての報告から、親会社の監査役会等はグループ監査においてどのような役割を果たすべきなのか、考えてみたいと思います。

 

報告書では、子会社の管理体制、海外子会社の管理体制、親会社監査役の連携、 子会社監査役から見た親会社監査役との連携という4つの視点から、研究会に参加している各社のグループ監査等の状況が取り纏められていますが、印象的であった箇所を中心にご紹介したいと思います。

 

 

1.子会社の管理体制


 

子会社の管理状況全般については、以下のポイントで整理されています。

・グループ全体の基本的な経営方針や考え方をグループ各社に共有する

(例)グループベースでの経営理念、ビジョン、基本方針等の制定

 

・グループ各社との情報交換や意思決定を図る

(例)子会社の社長が出席するグループ経営会議等の開催

 

・企業集団における業務の適正性を確保する体制を整備する

(例)グループ経営管理規程等を制定し、必要な事項を明確にするとともに、親会社に対して事業運営に関する事前協議や報告を行う体制を整備する

 

 

また、コンプライアンスやリスク管理においても、指針や規程類の整備、担当部署や委員会の設置等を通じて、グループ全体としてのコンプライアンスの徹底やリスク管理の対策が図られているケースが多いようです。

 

いわゆる3ラインモデルに子会社管理を当てはめた場合、管理部門(第2ライン)は、現業部門(第1ライン)が導入した業務の手順やリスクマネジメントのプロセスが適切に設計され、確実に運用されているかをモニタリングし、必要な支援・助言・監督を行う責任があるとされています。この点について、一部の監査役から管理部門がリスク管理において十分に機能していないという指摘があったようです。親会社は制度の整備を行うだけでなく、親会社から子会社への支援にも力を入れる必要があると考えられます。

 

 

2.海外子会社の管理体制


 

海外子会社の管理体制については、海外進出の度合いや海外での事業展開の状況によって大きく左右されるものの、大きくは①親会社が直接的に海外子会社を管理する方法と②海外の各地域に地域統括会社を設立する方法に分けられるとしています。また、規模の大きな海外子会社が存在する場合には、子会社内にモニタリング機能や内部監査機能が設けられるケースも考えられます。

 

いずれのケースにおいても、重要なことは子会社の実情が正確かつ詳細に親会社に伝達され、親会社からの指揮命令が行き届く体制が構築されていることであると指摘されています。既存の体制の中で十分ではないと感じられるのであれば、体制の見直しやグループ管理・支援を行う専門部署の設置等大きな取組を行うことも検討の余地があると指摘されています。

 

また、海外子会社は、物理的な距離も遠く、コミュニケーションが取れる相手が限られることが多いために疎遠になりがちになる傾向があると指摘されています。この観点から、グループ内部のコミュニケーションに加え、現地会計監査人とのコミュニケーションも有用であると指摘されています。

 

 

3.親会社監査役の連携


 

(1) 親会社監査役と子会社監査役の連携

 

報告書では、子会社監査役の配置に関する基準についての実態調査が行われていますが、明確な基準を定めて運用している会社が少数のようです。これは、基準の策定や経理・法務等の専門知識を有する人材の確保が難しい面があることが背景にあると指摘されています。このため、子会社に常勤監査役が設置されず、親会社の役員(監査役等や管理部門の担当役員)あるいは経営管理職の方が子会社監査役を兼務しているケースが多いようです。

 

個人的には、グループガバナンスやグループ内部統制の監査を考える上で、監査役をどのように配置するかという点は非常に重要なことと考えられ、一定程度の方針が定まっており、重要な子会社においては、常勤監査役が設置されていることが望ましいのではないかと感じます。(海外においては、監査役制度が存在しない国もあるようですが)

 

では、子会社監査役が親会社監査役との連携を考える場合はどうでしょうか? グループ経営(グループ監査)においては、子会社監査役もグループ内部統制システムの構築・運用の一翼を担っているという意識の下で、能動的・積極的な権限の行使、意見の発信が求められると指摘されています。

 

(2) 親会社監査役と子会社取締役の連携

 

では、子会社取締役との連携については、どうでしょうか? この点も、子会社取締役会への出席、子会社への往査、子会社の取締役会議事録の確認等、子会社取締役の職務執行を確認する仕組みを構築して運用しているケースが多く見受けらたようです。

 

また、コミュニケーションを図る上では、親会社に対する要望、親会社取締役の関心事項、本音を引き出す工夫、話しやすい関係性の構築などが意識されており、子会社の経営状況の実態を把握するために、親会社監査役が工夫をされていることも見て取れました。

 

(3) 親会社監査役と内部監査部門との連携

 

親会社監査役と内部監査部門の連携については、内部監査部門の監査結果報告、双方の監査についての意見交換、双方の監査計画作成時の調整等、頻度を高くして、連携・コミュニケーションが図られているようです。

 

一方で、会計監査人も含めた三様監査の観点では、各監査視点での経営課題やリスク、重点監査事項等を意見交換し、それぞれの監査に活かすことで、より有効な監査の実施が期待されますが、この実践が難しいという意見も少なくないようです。このため、三様監査の成功事例等の共有が監査の質的向上のために期待されると指摘されています。

 

(4) 親会社監査役と事業部門との連携

 

ここでは、事業部門の情報を入手する手段として、内部通報制度を活用するという観点が示されていました。重要な通報案件が監査役にも報告される仕組みを構築しているケースでは、早い段階から監査役は執行側の対応の適切性を確認することができ、必要に応じて助言を行うことができるとされています。この点については、透明性の確保や秘匿性の担保等について、監査役はモニタリングを行う必要もあり、社内の関係部門の理解も踏まえた情報の共有(仕組みの構築)が求められることが指摘されています。

 

 

4.さいごに


 

報告書の最後には、グループ監査の監査体制協会に向けた研究会としての意見が取り纏められています。

 

企業には、グループガバナンス機能を更にブラッシュアップすること、すなわち、日々の監査業務や関連組織との連携の中で、いかにして企業グループの実情や課題を把握し、グループ全体の更なる監査品質向上を実現するかが求められるとされています。

 

そのような観点からすると、先にも述べたように、子会社における常勤監査役の未設置(執行側と兼務する非常勤監査役のみの設置)や監査役スタッフの未配置等十分な体制が敷かれているとは言い難い会社が多くあることは、グループガバナンス体制そのものに改善の余地があると言えそうです。

 

そのために、監査役業務の重要性に対する認知度の向上と、それに伴う監査役への適正のある人材の配置の好循環を生み出していくことが抜本的な改革になると結ばれています。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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