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会計制度2024.03.27 東証 プライム市場における英文開示の拡充を要請

東京証券取引所(以下、東証)は、「プライム市場における英文開示の拡充に向けた上場制度の整備の概要」を公表しました。今回はその内容について、確認してみたいと思います。

 

 

1.趣旨と留意点


 

東証は、プライム市場をグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場位置付けた上で、海外投資家からは、日本語と英語の情報量や開示のタイミングの差といった情報の非対称性が投資の制約になっており、改善の必要性が指摘されているとしています。

 

そこで、プライム市場上場会社への更なる海外投資家の投資を呼び込み、対話を通じた企業価値向上を促していく観点から、英文開示の拡充に向けた上場制度の見直しを行うとしています。

 

英文開示の拡充に向けた上場制度の見直しにあたっての留意点として、以下の点が指摘されています。

投資判断に重要な影響を与える会社情報の開示は、適時・適切に行われる必要があること

 

英文開示の拡充は、日本語での適時・適切な開示が行われていることを前提として、参考訳としての英文開示の拡充を求めるものであること

 

英文開示の負荷を考慮して日本語での開示を控えたり、英文の同時開示のために日本語の開示が遅延することがないように留意すること

 

 

 

2.プライム市場における英文開示の拡充の内容


 

まず、プライム市場の上場会社は、重要な会社情報について、可能な限り、日本語と同時に、英語で同一の内容の開示を行うように努める旨の努力義務が新設されます。

 

その上で、上場会社における実務上の負荷も鑑みつつ、具体的な義務化の内容を以下のように定めています。

英文開示が義務化される事項

決算情報・・・決算短信、四半期決算短信(決算補足説明資料を含む)

適時開示情報

 

開示のタイミング

日本語と同時

ただし、英語による同時開示を行おうとすると、日本語による開示の遅延が生じるときは、同時でなくても可(日本語を優先して開示)

 

留意事項

全ての書類・全文について同時開示することが望まれるが、日本語における開示の内容の一部または概要を英語により開示することでも可

 

適用時期

2025年4月1日以後に開示するものから適用(事業年度ではないことにご留意ください)

 

先にも述べた通り、英文開示は日本語の開示の参考訳として位置付けられているため、英文開示の内容の正確性については規則違反に対する措置の対象外とされていますが、英文開示自体を行っていない場合等は、規則違反に対する措置(公表措置など)の対象になるとされています。

 

また、開示内容の充実や対象書類の拡大(例えば、有価証券報告書の英文開示など)については、継続検討されることとなっています。

 

 

3.よくある質問と回答


 

今般公表された資料の中では「よくある質問と回答」として、英文開示に関する要請内容の詳細が説明されています。この中から、いくつかポイントとなりそうな内容をご紹介します。

 

先にも述べた通り、すべての情報が英文開示されることが望ましいとされていますが、開示の一部や概要を英文開示することも認められています。英文開示の範囲については、 英文開示の範囲については、海外投資家との対話の内容(ニーズ)等も踏まえて検討することが求められています。

 

英文開示への対応によって、日本語での開示が遅れることに対して、投資家から強い懸念が示されているとのことです。このため、決算発表日を後ろにずらさずに日英同時開示ができる体制を構築することが求められています。また、英文開示に時間を要する場合は、対応可能な範囲で日英同時開示を行った上で、その後に追加して英文開示を行う等の対応も考えられるとされています。

 

四半期決算短信について、監査人による期中レビューを受けている場合であっても、英文開示は日本語の開示の参考訳と位置付けられており、また全文の英文開示が義務付けられていないことから、英語の四半期財務諸表等に対する期中レビューは義務付けられないこととなります。

 

適時開示情報は、上場会社がTDnetを利用して適時開示する決算情報を除く会社情報を指します。このため、上場規則において適時開示が求められている会社情報以外に、会社が任意で適時開示している会社情報についても英文開示が必要になるとのことです(軽微基準に該当する適時開示であっても英文開示が必要とのこと)。一方、PR情報や縦覧書類(株式総会招集通知やコーポレートガバナンス報告書等)の英文開示は必須ではない(任意)とのことです。

 

 2025年4月の施行のタイミングで英文開示が困難な場合は、2025年1月6日~3月14日までの間に、英文開示の具体的な実施予定時期を記載した書面を提出する必要があります。また、この書面を提出する場合でも、2026年4月1日以後開示するものからは義務化の対象となります(この猶予措置を受ける会社の一覧は東証のウェブサイトで公表される予定とのことです)。

 

 

 

東証が公表しているプライム市場上場会社の英文開示実施状況によると、決算短信や決算説明会資料については実施済の企業が多い一方、適時開示資料については半数近くの会社がまだ実施していない模様です。

 

決算情報はある程度スケジュールを立てることが可能であると考えられますが、適時開示情報は突発的な対応が求められると考えられるため、英文開示体制の整備について十分に検討しておく必要があると考えられます。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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