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会計制度2022.08.10 JICPA「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」を公表

日本公認会計士協会(JICPA)は、「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」(経営研究調査会研究資料第9号)を公表しました。今回は、この研究資料から会計不正の傾向について分析してみたいと思います。

 

 

 

1.会計不正の発生件数とその発生場所


 

この研究資料は、各証券取引所における適時開示制度等で会計不正に関する公表があった上場会社等が集計対象となっています。過去5年間の発生件数の総数とその発生場所の内訳は以下の通りとなっています。

 

総数については、昨年(2021年3月期)に大きく減少傾向が認められましたが、新型コロナウイルス感染症の影響からリモートワークが進展し、その結果、不正会計の発見が遅れている(水面下に潜んでいる)リスクも指摘されていました。

 

今年(2022年3月期)は、総数では若干の増加傾向が認められましたが、海外子会社で発生した不正会計の件数が極端に少ない点は特徴的であると考えられます。この点、海外への渡航制限もかなり解除され、海外子会社とのコミュニケーションもこれまでよりは充実すると考えられる中で、今後どのような傾向が出るのか、注目しています。

 

また、ここ3年間、国内子会社での不正の発生件数が非常に多くなっていることも特徴的です。国内・海外を問わずですが、グループレベルでのガバナンスや内部統制の考え方が浸透してきている中で、子会社での不正発見に繋がっているケースも少なくないのではないかと考えられます。

 

 

 

2.会計不正のタイプ別分類


 

会計不正は、大きく「粉飾決算」と「資産の流用」に分類されますが、いずれに属する事案が発生しているのでしょうか。

 

上記の通り、全体の約80%が粉飾決算に該当するものであったとされていますが、ここで興味深い別のデータがありますので、ご紹介します。

 

ACFE(公認不正検査士協会)という団体が公表している「2020年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」によると、資産の流用に関する事案は不正事案全体の86%を占めており、粉飾決算に関する事案は10%程度であるとされています。一方で、粉飾決算の影響額(損失額)は資産の流用の10倍近くにもなるという結果が示されています。

 

先程も述べた通り、この研究資料は各証券取引所における適時開示制度等で会計不正に関する公表があった上場会社等が集計対象となっており、適時開示のレベルになると、粉飾決算の発生に十分気を付ける必要があるということが言えるかと思います。(とはいえ、大泥棒もいるにはいるのですが・・・)

 

 

 

3.粉飾決算の内容別分析


 

では、発覚した粉飾決算の内容はどのようなものだったのでしょうか?

 

一般的に言われれていることですが、売上の過大計上が全体の約3割を占めています。次いで、架空仕入や原価操作、経費の繰り延べ、在庫の過大計上が続きます。

 

ですが、売上の過大計上の占める割合が全体の約3割というのは、私の感覚からすると、ちょっと少ないイメージでした。ここで、気を付けなければいけないのは、複数の事案が同時に起こる案件が増えているということです。

 

例えば、売上の過大計上だけを行うと、ある月の利益率が異常になってすぐに発見されてしまいます。そこで、架空仕入や原価操作を組み合わせることで利益率の異常も粉飾し、粉飾決算を発見されにくくするというようなことが行われます。粉飾の手法が非常に巧妙になってきており、それだけ発見が難しくなっているということが言えるかと思います。

 

 

 

4.不正の主体的関与者と共謀者の有無


 

では、組織の中で、不正を実行したのは誰なのでしょうか? 驚くべき結果(?)が出ています。

 

全体の約半分は役員クラスの方が不正の実行者になっています。この役員の範囲については研究資料では示されていないため推測になるのですが、子会社の役員(親会社からの出向者)も含まれるのではないかと思われます。

 

では、役員クラスの方による不正事案がなぜ多くなるのか?ということですが、1つは、経営者による内部統制の無効化が発生していることが考えられます。いくら内部統制の仕組みを整備していても、経営者は内部統制の仕組みを無視する(無効化する)ことができる立場にあるということです。このため、経営者の動きを監視する(モニタリングする)仕組みが必ず必要になってきます。

 

もう1つは、共謀者の利用です。この点は、上司から指示を受けると、それが例え間違ったことであっても断ることが難しい日本の企業文化も多分に影響していると考えられます。パワハラと不正の発生には一定の相関関係があるとも言われているほどです。

 

 

 

5.会計不正の発覚経路


 

最後に、会計不正はどのようにして見つかったのでしょうか?

 

 

ここで注目して頂きたいのは、会社内部で会計不正を発見できた(内部統制等・内部通報・内部監査)割合は、全体の約5割程度であるということです。残りは、外部からの指摘によって発覚していることになりますが、こうなると、会社の内部管理体制や自浄能力に疑問符がつき、ひいては、レピュテーションリスクが顕在化する(会社の評判に影響する)ことにも繋がりかねません。

 

内部監査によって、会計不正が発見される割合が非常に低くなっていますが、個人的には、不正リスクのマネジメントは会社にとって非常に重要であり、その中で内部監査部門が果たせる役割は大きいのではないかと考えています。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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