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国際税務2022.08.17 国際税務の基礎②~居住者と非居住者の裁判例~

前回のブログでは居住者と非居住者の課税される所得の違いと居住者か非居住者の判断基準となる「住所」の考え方について説明しました。

税法における「住所」は民法の概念を借用し「生活の本拠」をいい、「生活の本拠」の判断は客観的事実に基づくとされています(所得税法基本通達2-1)。

生活の本拠とは、ある人が日常生活を送る場合に、主として活動する場所であるとされており、人によっては、仕事の本拠地である場合もあると考えられます。

今回はこの税法上の住所の有無の判断について争われた裁判例を紹介いたします。

 

1.武富士事件(最高裁平成23年2月18日判決)


 

住所や居所の判断基準の要素として住居、滞在期間、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の存否及び資産の所在等の客観的事実を総合して判断するのが相当とされた例です。

 

納税者の概要は以下の通りです。

本件は消費者金融業を営む会社(以下「本件会社」という)の代表取締役Aの長男(納税者)に対し、Aのオランダ法人への出資持分である国外財産を納税者に贈与した件について争われたものです。納税者は贈与時において香港子会社の駐在役員として香港に住所を構えていました。

 

◇納税者の日本出国日から香港出国日までの期間(以下「本件滞在期間中」という)の香港滞在日数の割合は、約65.8パーセント、日本滞在日数の割合は、約26.2パーセントでした。

 

◇住居については、香港には、衣類程度しか携帯せず、香港滞在期間中は、家財が供えられたアパートを2年契約で借り住んでいました。日本滞在期間中は、出国前と同様の自宅に起居していました。

 

◇職業について、複数の香港現地法人の取締役に就任していました。また、月に1度日本に帰国し、消費者金融業を営む日本法人(以下、本件会社という)の取締役会その他の業務に従事していました。

 

◇親族等について、納税者に親族はおらず、独身でした。

 

◇資産の所在等について、香港には、約5,000万円の預金のみを有しており、日本には、評価額1,000億円超の本件会社株式、23億円超の預貯金及び182億円超の借入金を有していました。

 

◇租税回避の意図について、香港での滞在目的が租税回避であることにつき、公認会計士より本件贈与の実行に関する提案を受け、国内に長く滞在した時期には、早く香港に戻るよう指導されていました。

 

 

最高裁の判断は以下の通りです。

〇滞在日数について、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではないから、現に香港での滞在日数が本件期間中の約3分の2(国内での滞在日数の約2.5倍)に及んでいる事実関係等の下で本件香港居宅に生活の本拠たる実体があることを否定する理由とすることはできない。

 

〇住居について、本件期間中、国内では家族の居住する本件杉並居宅で起居していたことは、帰国時の滞在先として自然な選択である。

 

〇職業活動について、本件会社内における地位ないし立場の重要性は、約2.5倍存する香港と国内との滞在日数の格差を覆して生活の本拠たる実体が国内にあることを認めるに足りる根拠となるとはいえない。

 

〇住所判定に係る親族の判断要素について、原告が成年男性であり、独身であったことから、親族については住所判定の要素として触れていません。

 

〇資産の所在等について、金融資産が容易に国境を越えて移動する国際化の時代に、資産の所在と生活の本拠を密接不可分なものと判断することは相当ではない。

 

〇租税回避の意図について、租税回避の意図をもって居住者としての認定課税するのであれば、明文をもって規定する必要がある。個別否認規定がない限り、租税回避行為について否認することはできない。

 

 

本判例は、租税法律主義の観点から租税回避の意図があったとしても、明確な法律根拠が認められない以上、租税回避の否認をして課税することは許されないとしたことに意義があると考えられます。

 

 

2.ユニマット事件(東京高裁平成20年2月28日判決)


 

株式譲渡時に日本に住所を有していたか否かについて、所得税法2条1項3号に定める居住者の住所の解釈をめぐって争われた事案です。

 

納税者の概要は以下の通りです。

◇納税者は、シンガポール法人の特別顧問としてシンガポールに平成12年12月4日に渡航後、平成13年1月12日に保有する内国法人の株式を譲渡しました。

 

◇納税者は、シンガポールの居住者であったため、日本での平成13年度分の譲渡所得にかかる申告をしなかったところ、課税当局は、納税者が日本の居住者であるため所得税の株式譲渡所得があるとして、所得税の賦課決定処分を行いました。

 

◇住居について、シンガポールへの渡航を機に、それまで住んでいたアパートは、明け渡しています。
日本滞在中は居住する場所を保有していたことはなく、不特定多数のホテルやスポーツクラブ等を利用していました。シンガポール滞在中は、サービスアパートメントαを賃貸契約し利用していました。

 

◇滞在日数について、平成12年からの2年以上の期間、シンガポールにおける滞在日数は、わずかだが日本における滞在日数よりも多くなっていました。

 

◇職業活動は、シンガポール渡航後も、日本の内国法人の代表取締役又は取締役として、株式取引や不動産取引等の経済活動を行っていたが、その内国法人の業績は、不調でした。

その一方で、本件株式譲渡時において、納税者のシンガポールにおける特別顧問としての活動は行われていなかったものの、その後シンガポールの事務所で助言等の役務提供業務を行い、役員、営業者として職業に従事しており、多くの収益を上げることが期待できました。

 

◇親族については、日本国内に、経済的支援をしている両親及び長女がいました。長男は、アメリカへ留学しており、長女から長男に滞在費等の送金を行っていました。

 

◇資産については、シンガポールにおいて所有する資産はほとんどありません。それに対し、日本国内には、従前から保有していた不動産(居住用ではない)や債権、多額の預金を有していました。
本件の株式譲渡代金である約19億円も国内の銀行口座に有していました。

 

◇租税回避を目的として、株式譲渡所得に対する課税を免れるべく、日本の非居住者であり、かつ、株式譲渡所得に所得税が課されない香港において、本件株式の譲渡を行うという外形を作出することで、日本の国外源泉所得であるかのような外形を整えるための準備を行っていました。また、特別顧問契約書及び投資顧問契約書の日付を遡らせて作成していたなどの事実もありました。

 

高裁の判断は以下の通りです。

〇住居について、日本に帰国する都度、東京全日空ホテルやウラク等の宿泊施設にチェックインして滞在し、日本を出国する都度、同施設をチェックアウトするなどしていた状況を認めることができるところ、このような状況に照らせば、この間、日本国内において原告の住居といい得る場所は存在せず、賃貸借期間の長さや、αアパートがキッチンなどを備え、日常生活を送る十分な設備を有しているものと認めることができること、身の回りの品などの動産をαアパートに置いて保管することが可能であったことなどの諸事情を勘案すると、シンガポールに存在したものと認めるのが相当であるとした。

 

シンガポールのアパートと日本のホテル等の設備等の実態を比較し、シンガポールのアパートを住居として認めた。

日本とシンガポールの滞在日数については大きな差はなかったが、国内には何ら生活の拠点らしき場所を有さず、来日のたびに異なった場所に滞在していたという事実が、住所を判定する上で大きかったと考えらる。

 

〇職業活動について、特別顧問として具体的にどのような活動をしていたかを客観的かつ明確に示すことができる証拠は見当たらず、本件関係会社の代表取締役若しくは取締役又は匿名組合契約の営業者として日本の内国法人である本件関係会社のために日本の証券会社を通じて株式取引をしていたことからすると、経済活動の実態が日本にあるとする主張に一定の合理性はある。
しかし、本件特別顧問契約に基づく業務の対価としての収入を原告が得ることはなく、株式取引等から収益を上げることが主たる目的であったものと認めることができる。
日本国内において営んでいた経営コンサルティング業も不調であったことから、シンガポールにおいて株式取引に従事する方が、より多くの収益を上げることが期待できるともいえる。
したがって、原告の職業をもって、本件譲渡期日当日、直ちに原告が日本国内に住所を有していたと認めることはできないとした。

 

原告の投資アドバイザーとしての現地での展開がシンガポール法人との顧問契約等により根拠づけられている点や、シンガポールで現実に株式取引等が行われていたことを評価し 、結論を導いていると解される。

日本とシンガポールの各職業活動で、日本の業績は不調であったことからどちらがより収益を上げているかを重視することで、職業活動での重きを置いている場所を判断したと考えられる。

 

〇親族について、納税者の長女及び両親がそれぞれ独立した生計を営んでいたことからすれば、本件株式譲渡契約を締結するような経済規模を有する納税者の家族又は親族間におけるこのような経済的支援をもって、直ちに納税者の住所が日本国内にあったと認めることはできないとした。

 

〇資産の所在について、確かに納税者はシンガポールにおけるよりも日本において多くの資産を有していたものと認められるが、さりとて必ずしも納税者が日本に居住しなければその使用、収益若しくは処分又は管理等が困難であるといえる資産が存在したとまでは認めることはできない。
したがって、資産の所在をもって、本件譲渡期日当時、直ちに原告が日本国内に住所を有していたと認めることはできないとした。

 

資産の多寡という要素は、直接的に生活の本拠を推定する要素とはなり得ず、どこからでも管理可能な金融資産ではなく、居住用の不動産を所有する場合には、住所の判断要素として、資産の所在が重要になってくるものと考えられる。

 

 

〇租税回避の意図について、原告が我が国における課税を回避するためにその住所をシンガポールに移転させたものとうかがう余地もあり得るが、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等の客観的事実に基づき総合的に判定した結果、本件株式譲渡当時、原告が日本国内に住所を有していたと認めることができない。
そうである以上、原告が日本国内に真実の住所を有していたにもかかわらず、シンガポールに住所があるように偽装したと認めることはできず、原告が租税回避目的としていたか否かによってその住所の認定が左右されるものではないとした。

 

客観的事実に基づいて総合的に判定し、その事実に仮装もしくは偽装がない限りその事実により判断し、租税回避の目的など主観的意思は住所判定には考慮しないと判示したものであり、客観主義を採用したものと位置づけることができる

 

 

3.ラジエーター事件(東京高裁令和元年11月27日判決)


 

高裁判決も概ね第一審判決を支持する形となりました。

詳細はこちらのブログを参照ください。

複数の国に滞在している場合の居住者判定(東京地裁判例より)

 

 

いかがでしょうか。

いずれの判例も、住所に関する判断基準として住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等の要件を上げ、客観的事実に基づき総合的に判定することを示している。

一方で、3つの判例では、いずれの判断要素に重きを置いているかについては示されていません。

客観的事実について、考慮要素に軽重があることは当然ですが、主に、住居・滞在日数、職業活動に客観的事実の軸足を置いていると考えることができます。

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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