お問い合わせ

BLOGブログ

国内税務2022.08.03 居住用賃貸建物の仕入税額控除制限 ~仕入税額控除の計算方法をざっくりと確認~

令和2年の消費税法改正により、2020年10月1日以降に行う居住用賃貸建物の購入または建設にかかった消費税の仕入税額控除が制限されるようになっています。

 

「税額控除が制限=事業者が納付しなければならない消費税額が増えた」ということなんですね。

 

今回はこの令和2年度の改正を取り上げつつ、消費税の仕入税額控除の計算方法についてざっくりと述べたいと思います。

 

 

 

居住用賃貸建物とは??


 

ざっくりというと、住宅用に貸付ける建物で、その購入または建設に要した金額が税抜1,000万円以上のものをいいます。

 

例えば、住宅用に貸付けるために居住用マンションを1,000万円以上かけて購入または建設した場合は、この居住用賃貸建物に該当します。

 

 

 

 

なぜ改正が必要だったのか??


 

では、なぜ居住用マンションなどにかかった消費税が引けなくなったの??ということになるのですが、消費税の税額控除の仕組み・計算方法・基本的な考え方が関係し、それを利用した節税スキームが横行していたからなんです。

 

その節税スキームを封じるための改正と言えます。

 

以下では、この消費税の税額控除の仕組み・基本的な考え方について述べたいと思います。

 

 

 

 

税額控除(仕入税額控除)の仕組み


 

納付する消費税は、ざっくりと以下のように計算しています。

 

納付する消費税額 = 売上時にお客さんから預かった消費税 △ 仕入時に支払った消費税

 

この、「△ 仕入時に支払った消費税」を控除することを「仕入税額控除」といいます。この仕入税額控除が大きければ大きいほど、納付する消費税額が低くなり、お得なのです。

 

 

 

 

仕入税額控除の計算方法と基本的な考え方


 

仕入税額控除の計算方法には以下の3種類があります。

 

①全額控除

 

②個別対応方式

 

③一括比例配分方式

 

 

え、なぜ3種類もあるの??

単純に支払った消費税額の全額を控除すればいいんじゃないの??と思われるかもしれません。

 

重要なポイントなのは、消費税法のそもそもの基本的な考え方として

課税売上に対応している部分しか仕入税額控除を認めない」ということです。

 

上記②③の方法はこの基本的な考え方に基づいて、支払った消費税額に一定の計算をして控除できる税額を計算しているので、全額を税額控除できない方法です。

 

たとえば、非課税売上に対応している課税仕入れに仕入税額控除を認めるということは、消費税を預かってもいないのに、消費税を控除してしまうことになります。これでは適正な消費税額を徴収できません。

 

ただ、どの仕入が売上と対応しているのか?を把握することは結構大変なので、小規模な事業者(課税売上高が5億円以下かつ課税売上割合が95%以上)に関しては、簡便的にその支払った消費税額の全額控除が認められているというわけです。

 

 

住宅の貸付けは非課税売上です。

 

 

この点で、居住用賃貸建物の購入建設費用の消費税控除を認めるということは、そもそもの消費税法の基本的な考え方に反していのです。

 

 

 

 

 

仕入税額控除の計算方法


 

 

1. 課税売上高が5億円以下「かつ」課税売上割合が95%以上のケース(比較的小規模なケース)

 

〇全額控除

基本的に、支払った消費税の全額を控除できます。

 

 

2. 課税売上高が5億円を超える場合「または」課税売上割合が95%未満の場合(比較的大規模なケース)

 

「個別対応方式」または「一括比例配分方式」の選択適用が可能です。

 

〇個別対応方式

課税仕入れを、下記の3種類に分類して計算します。

 

①課税売上にのみ要するもの(課のみ)

②非課税売上にのみ要するもの(非のみ)

③①と②に共通して要するもの(共通)

 

<計算式>

控除できる消費税=①の消費税額+③の消費税額×課税売上割合

 

⇒①は、課税売上に対応しているので、その分消費税を預かっているので全額を仕入税額控除OK。

②は、非課税売上に対応しているので、その分消費税を預かっていないので仕入税額控除は一切認めない。

③は課税・非課税両方の売上に対応しているので、課税売上割合分だけ仕入税額控除OK。

 

 

〇一括比例対応方式

上記①②③の合計(仕入時に支払った消費税額の合計)に課税売上割合を乗じて計算します。

 

<計算式>

控除できる消費税額=①②③の消費税額×課税売上割合

 

 

 

⇒「個別対応方式」と「一括比例配分方式」は、

「課税売上に対応している部分しか仕入税額控除を認めない」という消費税法の基本思考に基づき、課税売上割合を用いて課税売上対応の仕入税額を算出しています。

 

 

 

※課税売上割合とは??

課税売上割合=課税売上高(税抜)/課税売上高(税抜)+非課税売上高

その課税期間中の売上高のうち、課税売上の割合を示したものです。すなわち、これが大きいほど商売のメインが通常の課税取引であることを示します。

 

 

 

 

改正前は何が問題だったのか??


 

ここまでみてみると、事業者(特に居住用建物の賃貸業者)の気持ちとしては

 

可能な限り全額控除を選択したい!

 

全額控除を選択できないにしてもできるだけ課税売上割合を上昇させて仕入税額控除できる金額を増やしたい!(一括比例配分方式を選択)

 

となるわけです。

 

そこで、本業とは別に金地金のなどの投資商品の売買(課税取引)を意図的に増やして課税売上割合を上昇させ全額控除を選択できるようにしたり、仕入税額控除の金額を増加させたりするという方法の節税スキームが横行していたというわけです。

 

建物は高額なものですので、節税効果は高いものだったのです。

 

 

 

 

改正の効果


 

今回の改正により居住用賃貸建物にかかる課税仕入れについては仕入税額控除が全面制限されることとなったので、節税スキームは封じられることとなりました。

 

すなわち、非課税売上に対応する課税仕入れの仕入税額控除は認めないという適正な課税方式になったと言えます。

 

 

 

居住用賃貸建物の消費税を控除できる場合


 

なお、一定の場合であれば消費税を控除できる場合もあります。

①居住用賃貸から事業用賃貸に変更した場合

②3年以内に居住用賃貸建物を売却した場合

 

この場合、後の課税期間において一定の方法により計算した消費税額を調整し、一部の控除が認められることになります。

 

 

 

 

まとめ


 

今回は、居住用賃貸建物についての仕入税額控除を題材に、消費税の仕入税額控除についてのお話をしました。

 

2023年10月にはインボイス制度が始まり、消費税は大きな変革を迎えます。そのインボイス制度の仕入税額控除では請求書に登録番号があるか?といった点が論点になりますが、基本的な考え方は同じです。そのため基本的な考え方についてご理解いただければ幸いです。

 

それでは、今回のまとめです。

 

居住用賃貸建物の購入や建設にかかる消費税が控除できなくなっている

 

住宅の貸付けは非課税売上

 

本来消費税が引けるのは課税売上に対応した仕入だけ

 

一定の場合は後から消費税を控除できる場合もある

 

あすか税理士法人

【スタッフ】西浦 翔太