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国際税務2023.02.08 非居住者となった翌年の株式譲渡に係る住民税~課税される場合と非課税となる場合~

確定申告の時期が近づいてきました。
海外に財産を保有する方の相談が増える時期でもあります。
今回は前回までの国際税務の基礎から少し脱線し、前年に株式を譲渡した後に海外へ出国し、非居住者となった方の株式譲渡に係る住民税について解説いたします。

 

 

1.住民税の課税方法


 

住民税は原則として1月1日に日本に住所がある方に対し、前年の所得について課税されます(地方税法32条)。
所得税とは異なり「翌年度課税」の仕組みとなっています。

住民税の居住者判定は過去のブログ「非居住者でも住民税が課税される場合って?」をご参照ください。

 

例えば、前年は海外に居住していて日本で所得が発生していないという方は今年の1月1日に日本に住所があったとしても住民税については課税されないことが原則となります。
ただし、例外として一部の所得については「現年課税」という所得税と同様、所得の発生した年に課税と納税が行われます。

 

すべての所得が翌年度課税と勘違いされている方もいらっしゃることから、現年課税となる所得について見ていきたいと思います。

 

 

2.住民税のうち「現年」課税となる所得


 

原則として住民税の課税標準が前年の所得であることは上記1の通りです。

一方で、地方税法24条(道府県民税の納税義務者等)の中に以下の規定があります。

 

1)利子等の支払又はその取扱いをする者の営業所等で道府県内に所在するものを通じて利子等の支払を受ける個人
2)特定配当等の支払を受ける個人で当該特定配当等の支払を受けるべき日現在において道府県内に住所を有するもの
3)特定株式等譲渡対価等の支払を受ける個人で当該特定株式等譲渡対価等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在において道府県内に住所を有するもの

 

1)については日本の預貯金の利子などで源泉分離課税(源泉徴収で課税が完結し、申告が不要なもの)にて課税が完結するものについて、確定申告をされた方はいないと思います。
これは典型的な現年課税です。(規定の解説は今回は割愛します)

 

2)と3)については、「現年課税」が明記されています。

2)については、「支払を受けるべき日現在において道府県内に住所を有するもの」

3)については、「支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在において道府県内に住所を有するもの」
となっており、タイミングは違えど所得発生年に課税されることがわかります。

 

では2)の「特定配当」及び3の「特定株式譲渡対価等」とはどういったものを指すのでしょうか。

 

3.特定配当及び特定株式譲渡対価等とは


 

1)特定配当
特定配当とは上場株式の配当や公社債の利子等並びに割引債の償還金を指します。

 

2)特定株式譲渡対価等

特定株式譲渡対価等とは、特定口座の源泉徴収ありの口座にて管理される上場株式等の譲渡対価を指します。

上記1)に該当する株式の配当等及び上記2)に該当する上場株式の譲渡益については所得税及び住民税が源泉徴収されることとなりますので、「現年課税」として所得発生年に課税されることとなります。

 

 

3)その他の上場株式の取り扱い

上記2)に該当する特定口座内の上場株式の譲渡等以外の上場株式の譲渡(一般口座などが該当)については、「翌年度課税」の対象となります。

従いまして、所得発生年の翌年1月1日時点で日本に住所がなければ住民税は課税されないこととなります。

譲渡時に日本居住者である場合は所得税の確定申告は必要となるのでご注意ください。

 

4)非上場株式(一般株式)

非上場株式の譲渡についても「翌年度課税」の対象となります。

3)の上場株式の譲渡と同様、所得発生年の翌年1月1日時点で日本に住所がなければ住民税は課税されないこととなります。

なお、非上場株式の譲渡については上場株式との公平性を保つため税率は所得税15%、住民税5%と上場株式と同様の税率となっています。

 

 

いかがでしょうか。

同じ上場株式の譲渡であっても特定口座と一般口座で住民税の取り扱いが変わります。

売却後に出国することで住民税を節税できる可能性もありますので、国外へ移住前に保有している株式を譲渡するか、保有したまま出国(国外転出時課税の適用可能性あり)するかについては専門家に相談の上、最善の方法を選択してください。

 

〈参考条文〉

(地方税法23条15) 特定配当等 租税特別措置法第八条の四第一項に規定する上場株式等の配当等及び同法第四十一条の十二の二第一項各号に掲げる償還金に係る同条第六項第三号に規定する差益金額をいう。

(地方税法23条16) 特定株式等譲渡対価等 租税特別措置法第三十七条の十一の四第一項に規定する源泉徴収選択口座(以下この号及び第六款において「選択口座」という。)に係る同法第三十七条の十一の三第一項に規定する特定口座内保管上場株式等の
同法第三十七条の十二の二第二項に規定する譲渡の対価又は当該選択口座において処理された同法第三十七条の十一の三第二項に規定する上場株式等の同項に規定する信用取引等に係る同法第三十七条の十一の四第一項に規定する差金決済に係る差益に相当する金額をいう。

(地方税法23条17) 特定株式等譲渡所得金額 租税特別措置法第三十七条の十一の四第二項に規定する源泉徴収選択口座内調整所得金額をいう。

(地方税法第35条の2の2 道府県は、当分の間、道府県民税の所得割の納税義務者が前年中に租税特別措置法第三十七条の十一第一項に規定する上場株式等に係る譲渡所得等を有する場合には、当該上場株式等に係る譲渡所得等については、他の所得と区分し、前年中の当該上場株式等に係る譲渡所得等の金額として政令で定めるところにより計算した金額(当該道府県民税の所得割の納税義務者が特定株式等譲渡所得金額に係る所得を有する場合には、当該特定株式等譲渡所得金額に係る所得の金額を除外して算定するものとする。)に対し、上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額の百分の二に相当する金額に相当する道府県民税の所得割を課する。

 

附則(一般株式等に係る譲渡所得等に係る道府県民税及び市町村民税の課税の特例)
第35条の2 道府県は、当分の間、道府県民税の所得割の納税義務者が前年中に租税特別措置法第三十七条の十第一項に規定する一般株式等に係る譲渡所得等を有する場合には、当該一般株式等に係る譲渡所得等については、
他の所得と区分し、前年中の当該一般株式等に係る譲渡所得等の金額として政令で定めるところにより計算した金額に対し、一般株式等に係る課税譲渡所得等の金額の百分の二
に相当する金額に相当する道府県民税の所得割を課する。

 

 

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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