お問い合わせ

BLOGブログ

会計制度2022.10.05 金融審議会DWG報告の概要(その2)

今年の6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下、DWG報告)の内容を取り上げるシリーズの2回目をお届けします。

 

(第1回)

日本におけるサステナビリティ開示の対応と有価証券報告書におけるサステナビリティ開示

 

(第2回)→今回

有価証券報告書における気候変動対応、人的資本・多様性、コーポレートガバナンスに関する開示

 

(第3回)

四半期開示の方向性、その他のテーマ

 

 

1.DWG報告とは?(おさらい)


 

DGW報告の冒頭では「中長期的な企業価値にとって重要な課題を開示事項とすることを通じ、企業がそれらの課題について必要な検討と取組みを行うことが期待される。投資家は開示された企業の取組みを深く理解し、建設的な対話を通じて、企業価値の向上を促すことが期待される。」との記述があります。

 

今回のDWG報告では、昨今の経済社会情勢や「新しい資本主義」・「国際金融センター」の実現といった国の政策を背景として、以下の4つのテーマで審議がなされました。

 

①サステナビリティに関する企業の取組みの開示

②コーポレートガバナンスに関する開示

③四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング

④その他の開示に関する個別課題

 

 

 

2.気候変動対応に関する開示


 

気候変動に関連する開示については、国際的にも法令等に基づく開示の義務化や開示基準の整備が急速に進められている状況です。

 

今回のDWG報告においては、そのような動向を踏まえ、日本独自の開示基準を定めるのではなく、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の気候関連開示基準などの国際的なルール形成に積極的に参画し、その内容を踏まえて、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)において具体的開示内容の検討を行うことが期待されるとしています。

 

よって、現時点においては、有価証券報告書に設けるサステナビリティ情報の記載欄(詳しくはこちら)において、企業が気候変動が重要なテーマであると判断した場合には、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の枠で開示することを提案しています。

 

なお、気候変動対応に関する「指標と目標」の1つとして重要と考えられる温室効果ガス(GHG)排出量については、国際的にも気候変動に関する指標として確立しつつあることから、企業の重要性の判断を前提としつつも、Scope1・Scope2の排出量については積極的に開示することが期待されるとしています。

 

(参考)温室効果ガス(GHG)排出量の開示ついて

一般に、温室効果ガス(GHG)排出量の開示は、サプライチェーン全体での排出量を開示することが求められており、通常、以下の3つのScopeに区分して開示することとされています。

<Scope1>

事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセスなど)

<Scope2>

他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

<Scope3>

Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

 

 

3.人的資本、多様性に関する開示


 

岸田首相が掲げた「新しい資本主義」の実現に向けた議論においては、人への投資の重要性が強調されており、人件費を単にコストと捉えるのではなく、人的投資が持続的な価値創造の基盤となる(=資産と捉える)ことについて、企業と投資家との間で共通の認識を持つことを目指しているとされています。

 

また、人的資本や多様性に関する情報は、長期的に企業価値に関連する情報として着目されており、国際的なサステナビリティ開示のフレームワークにおいても開示項目となっています。(注.国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)での議論の対象となるかどうかは未定の状況です。)

 

これらの状況を踏まえ、人的資本、多様性に関する開示の方向性として、以下の3点が示されました。(注.有価証券報告書のサステナビリティ情報の記載欄についてはこちらを参照ください。)

 

①中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」を有価証券報告書のサステナビリティ情報の記載欄の「戦略」の開示項目とする。

 

②①の方針と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の記載欄の「指標と目標」の開示項目とする。

 

③女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の開示項目とする。

 

 

 

 

4.コーポレートガバナンスに関する開示


 

コーポレートガバナンスに関する開示については、これまでのコーポレートガバナンスコードや企業内容の開示に関する内閣府令の改訂を通じて、整備が進められてきましたが、今回のDWG報告においては、更に3つの観点から、開示の充実を求める方向性がしめされました。

 

(1) 取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況

 

取締役会の機能発揮に向けた取組みが進められ、また、指名委員会・報酬委員会を設置する企業が年々増加する状況する等、これらの動きに対する投資家の関心も大きく高まっています。

 

これらの点について、既に有価証券報告書において、一定の開示は行われていますが、

 

・取締役会や指名委員会・報酬委員会をはじめとする各種委員会の活動状況の開示については、コーポレートガバナンス報告書や任意開示書類おいて一定の進展が見られること

 

・アメリカ、イギリス等の諸外国において、取締役会や指名委員会・報酬委員会の活動状況が法定書類で詳細に開示されていること

 

・先にも述べた通り、取締役会や各種委員会の機能発揮の状況に対する投資家の関心の高まりが見られること

 

を踏まえ、有価証券報告書に取締役会や各種委員会の活動状況の記載欄を設けることが提案されています。また、各企業の状況に相当の幅があるため、当初の記載項目として、「開催頻度」「主な検討事項」「個々の構成員の出席状況」が挙げられています。

 

なお、これらの開示情報を補足し、また、これまでの開示の進展を生かすとの観点から、コーポレートガバナンス報告書や任意開示書類を参照することも有用とされています。

 

(2) 監査の信頼性確保に関する開示

 

監査の信頼性確保に関する開示についても、既に有価証券報告書において、一定の開示が行われていますが、

 

・前回のDWG報告において、有価証券報告書における財務報告に係るガバナンスに対する監査役等の責任の明確化が中長期的な検討課題とされたこと

 

・独立監査人の監査報告書に監査上の主要な検討事項(KAM)が導入されたが、監査人の視点だけでなく、企業の監査役等の視点で検討を行った過程等を開示することで信頼性や有用性の向上に寄与すると考えられること

 

・コーポレートガバナンスコードの改訂により、内部監査部門と取締役・監査役等との連携確保が求められているが、現状、その連携体制を開示している企業と開示していない企業が存在すること

 

を踏まえ、現在の有価証券報告書の枠組みの中で、以下の項目を開示項目に含めることが提案されています。

 

・監査役または監査委員会等の委員長の視点による監査の状況の認識と監査役会等の活動状況等の説明

 

・監査上の主要な検討事項(KAM)についての監査役等の検討内容

 

・デュアルレポーティングラインの有無を含む内部監査の実効性の説明

 

 

(3) 政策保有株式等に関する開示

 

政策保有株式に関する開示についても、既に有価証券報告書において、一定の開示は行われていますが、政策保有株式の存在自体が、コーポレートガバナンス上の問題であるとの指摘もあり、投資家と企業との対話において、政策保有株式の保有の正当性について建設的な議論が行われるようにするための情報が提供ことが望ましいとされています。

 

この点を踏まえ、

 

・政策保有株式の発行会社と業務提携等を行っている場合の説明(開示)

 

・政策保有株式の議決権行使の基準に関する積極的な開示

 

・政策保有株式を純投資目的とすることによるいわゆる開示逃れへの適切な対応

 

が求められるとされています。

 

(次回につづく)

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

プロフィールはこちらをご覧くださいませ!