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会計制度2022.05.18 収益認識に関する注記事項の取扱い(2)

前回私が担当させて頂いたブログでは、2021年4月1日以降開始する事業年度より適用される収益認識に関する会計基準で定められている様々な注記事項をご紹介しました。今回は、注記事項を作成する上での留意点について、整理してみたいと思います。

 

※以下、文中では以下の通り表現しています。

会計基準:「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)

 

 

 

1.収益認識に関する注記事項(前回のおさらい)


 

本題に入る前に、収益認識に関する注記事項はどのようなものであったか、少しおさらいをしてみたいと思います。(お時間がある方は、前回私が担当させて頂いたブログをご覧ください。)

 

(1)開示目的と重要性の定め

 

収益認識に関する注記を記載する場合には、以下の開示目的と重要性の定めに照らし合わせて、企業が注記の要否を検討することが求められています。

 

開示目的(会計基準80-4)

顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示する。

 

重要性の定め(会計基準80-6)

収益認識に関する注記を記載するにあたり、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを第80-4 項の開示目的に照らして判断する。

重要性に乏しい詳細な情報を大量に記載したり、特徴が大きく異なる項目を合算したりすることにより有用な情報が不明瞭とならないように、注記を集約または分解する。

 

(2)収益認識に関する注記事項

 

その上で、収益認識に関する注記事項として、以下の項目が列挙されています。この内容は、国際会計基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」において定められている注記事項と同じものとなっています。

 

重要な会計方針の注記

・主要な事業における主な履行義務の内容

・その履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)

 

収益認識に関する注記

・収益の分解情報

・収益を理解するための基礎となる情報

→契約及び履行義務に関する情報、取引価格の算定に関する情報、履行義務への配分額の算定に関する情報、履行義務の充足時点に関する情報

・当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

→契約資産及び契約負債の残高等、残存履行義務に配分した取引価格

 

 

 

 

2.有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項


 

金融庁から、有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和4年度)が公表されています。

 

この中で、令和3年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項(以下、「留意すべき事項」)が示されていますが、昨年の有価証券報告書レビューでは、国際会計基準(IFRS)を任意適用している企業のIFRS第15号に基づく開示の状況が重点テーマ審査項目に挙げられていました。このため、日本基準を適用して開示する企業にとっては、非常に参考になるものと考えられます。

 

(1)全般的な留意事項

 

まず、全般的な留意事項として、以下の3つのポイントが示されています。

 

・一貫性のある開示

 

個々の開示内容は基準に従っているものの、項目間の関係性が読み取れない事例が見られたとのことです。個々の開示要求に形式的に対応するだけでなく、関連する開示が全体として開示目的を達成できるような十分な情報となっているか検討することが必要とされています。

 

・開示の要否の判断

 

先にも述べたように、開示目的と重要性の定めに照らし合わせて開示の要否を判断する必要がありますが、「特殊な履行義務ではないため」「業界慣行に従い処理しているため」「(国際会計基準と)日本の会計基準による会計処理と差異がないため」「非財務情報等において記載しているため」のような理由で開示を省略することは適切ではないとの見解が示されていますので、注意が必要です。

 

・重要性の判断

 

開示目的と重要性の定めは一体で考慮すべきであり、重要性がないものとして開示を省略する際には、省略することによって開示目的の達成に必要な情報の理解も困難になっていないかどうか検討する必要があるとされています。

また、重要性が乏しい事項について、開示されている定量的情報等からはそのことが読み取れない場合には、重要性が乏しいことについて簡潔な説明を加えることも有用であるとされています。

 

 

(2)個別の留意事項

 

さらに、個々の注記項目について、留意すべき事項が示されていますが、私が個人的に気になったものを取り上げてみました。

 

重要な会計方針の注記

 

→ 会計基準等の表現を転記する等抽象的な内容にとどまっており、企業固有の収益認識の状況が具体的に説明されていない。

 

収益の分解情報

 

収益の分解情報とそれ以外の情報(履行義務の内容やセグメント情報等)との関係性について、十分な説明がなされていない。

 

収益を理解するための基礎となる情報

 

・契約及び履行義務に関する情報

重大な支払条件(通常の支払期限、重大な金融要素の有無、変動対価の有無等)が説明されていない。

 

・履行義務の充足時点に関する情報

一定の期間にわたり充足する履行義務について、収益を認識するために使用した方法(アウトプット法かインプット法か等)やその方法が財・サービスの移転を忠実に描写すると判断した理由に関する説明がなされていない。

一時点で充足される履行義務について、顧客が財・サービスに対する支配を獲得した時点を評価する際に行った重要な判断に関する説明がなされていない。

 

当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

 

・契約資産及び契約負債の残高等

契約資産や契約負債の残高に関する定性的な説明がなく、これらの残高と履行義務の充足や通常の支払時期との関係性が不明瞭である。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。全般的な留意事項で示されている通り、個々の要求事項を満たすだけでなく、注記情報全体として、企業の収益に関する状況が理解できるような情報になっている必要があり、情報の十分性や関連性に配慮して注記を作成する必要があると考えられます。

令和4年度の有価証券報告書レビュー重点テーマ審査項目は「収益認識に関する会計基準」となっています。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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