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会計制度2022.04.13 収益認識に関する注記事項の取扱い(1)

2021年4月1日以降開始する事業年度より、収益認識に関する会計基準が適用され、財務諸表(決算書)においても、収益認識に関する様々な注記が記載されることとなりました。今回はこの収益認識に関する注記の規定について、整理してみたいと思います。

 

※以下、文中では以下の通り表現しています。

会計基準:「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)

適用指針:「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)

 

 

1.収益認識に関する注記の基本的な方針


 

収益は、企業の主な営業活動からの成果を示すものとして、企業の経営成績を表示する上で重要な財務情報と考えられます。このため、財務諸表の利用者は、収益に関する情報によって、企業の顧客との契約及びその契約から生じる収益を適切に理解できるようになり、より適切な将来キャッシュ・フローの予測ができるようになると考えられます。(会計基準101-3)

 

一方で、すべての状況において有用な情報を開示できるように会計基準を定めることは困難であるため、開示目的を定めた上で、企業の実態に応じて、企業自身が開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとした方が、より有用な情報を財務諸表の利用者に提供できると考えられました。(会計基準101-5及び101-6)

 

このようなことから、

包括的な定めとして、国際会計基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」と同様の開示目的及び重要性の定めを取り入れ、原則としてIFRS第15号の注記事項のすべての項目を会計基準に含める。

企業の実態に応じて、個々の注記事項の開示の要否を企業が判断し、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にする。

とされています。(会計基準101-2~101-6)

 

 

2.開示目的と重要性の定め


 

前述の通り、企業が注記の要否を判断できるようにするため、会計基準では、開示目的と重要性の定めが置かれています。

 

開示目的(会計基準80-4)

顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示する。

 

重要性の定め(会計基準80-6)

収益認識に関する注記を記載するにあたり、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを第80-4 項の開示目的に照らして判断する。

重要性に乏しい詳細な情報を大量に記載したり、特徴が大きく異なる項目を合算したりすることにより有用な情報が不明瞭とならないように、注記を集約または分解する。

 

基準には、収益認識に関する注記項目として、どのようなものを記載すべきかが列挙されていますが、開示目的を達成できるように、その記載の仕方(程度)や情報量に十分気を付けながら、注記を作成する必要があるという点に留意する必要があります。

 

 

3.重要な会計方針の注記


 

会計基準では、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、以下の2つを記載することとされています。(会計基準80-2)

・主要な事業における主な履行義務の内容

・その履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)

また、上記以外の項目であっても、重要な会計方針に含まれると判断したものは重要な会計方針と記載することとされています。(会計基準80-3)

 

なお、履行義務を充足する通常の時点と収益を認識する通常の時点は同じとなりますが、代替的な取扱い(出荷基準等の取扱い)を適用した結果、両者の時点が異なる場合も考えられます。このような場合には、収益を認識する通常の時点を重要な会計方針として記載することとされています。(会計基準163)

 

 

4.収益認識に関する注記


 

先に述べた開示目的を達成するため、会計基準では、収益認識に関する注記項目として、大きく3つの項目が挙げられています。(会計基準80-5)

 

(1)収益の分解情報

 

既に、上場会社では四半期開示でも記載されている注記項目ですが、収益及びキャッシュ・フローの性質・金額・時期・不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報のこととされています。(会計基準80-10)

 

この区分の例としては、財・サービスの種類、地理的区分、市場または顧客の種類、契約の種類、契約期間、財・サービスの移転の時期、販売経路等が考えられるとされています。(実務指針106-5)

 

また、セグメント情報の開示がある場合には、各報告セグメントについて開示する売上高と収益の分解情報との間の関係が理解できるように記載する必要がある点にも留意が必要です。

 

(2)収益を理解するための基礎となる情報

 

契約及び履行義務に関する情報(会計基準80-13~80-15)

収益として認識する項目がどのような契約から生じているかを理解するための情報であり、履行義務(企業が顧客に移転することを約束した財・サービス)の内容に関する情報と重要な支払条件(変動対価や金融要素の存在を含む)が該当します。

 

取引価格の算定に関する情報(会計基準80-16)

取引価格の算定方法について理解するための情報であり、取引価格を算定する際に用いられた見積方法やインプット・仮定に関する情報が該当します。

 

履行義務への配分額の算定に関する情報(会計基準80-17)

顧客との契約の中に複数の履行義務が存在する場合、取引価格を各履行義務に配分することが必要となります。この際に用いられた見積方法やインプット・仮定に関する情報が該当します。

 

履行義務の充足時点に関する情報(会計基準80-17)

履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)の記載の他、一定の期間にわたり充足される履行義務の場合の収益を認識するために使用した方法(アウトプット法かインプット法かなど)の記載等も含まれます。

 

なお、重要な会計方針として記載した内容については、収益認識に関する注記として記載しないことができるとされているため(会計基準80-8)、履行義務の内容や充足時点に関する情報については、注記の要否(重要な会計方針のみの記載とするか)を検討しておく必要があると考えられます。

 

(3)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

 

契約資産及び契約負債の残高等(会計基準80-20)

履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるような情報として、以下のような情報を記載することとされています。

✔ 顧客との契約から生じた債権、契約資産、契約負債の期首残高及び期末残高(貸借対照表において区分表示していない場合)

✔ 当期に認識した収益の額のうち、期首現在の契約負債残高に含まれていた額

✔ 当期中の契約資産及び契約負債の残高に関する重要な変動の内容

✔ 履行義務の充足の時期が通常の支払時期にどのように関連するのか及びそれらの要因が契約資産及び契約負債の残高に与える影響の説明

✔ 過去の期間に充足(または部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益(例.取引価格の変動)がある場合の当該金額

 

残存履行義務に配分した取引価格(会計基準80-21~80-24)

既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるような情報として、以下のような情報を記載することとされています。

✔ 当期末時点で未充足(または部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額

✔ 上記の金額を、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるか

 

なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、①収益の分解情報及び③当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報を注記しないことができ、また、②収益を理解するための基礎となる情報について、連結財務諸表に関する記載を参照することができるとされています。(会計基準80-26及び80-27)

 

 

基準においては、たくさんの注記項目が列挙されていますが、「2.開示目的と重要性の定め」のところで述べたように、財務諸表の利用者が企業の収益認識の状況を理解できるような注記の作成を心がける必要があり、どのような項目について重点を置いた会計方針や注記情報の記載を行うのか、事前に十分に検討しておく必要があると考えられます。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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