


令和7年分の年末調整では、基礎控除・給与所得控除の見直しと「特定親族特別控除」の新設がありました。令和8年分は、これらの控除額や扶養の所得要件がさらに見直されています。
今年は「本人に所得税がかかる基準」「親などが扶養に関する控除を受けられる基準」「毎月の源泉徴収で使う基準」を分けて理解することが大切です。改正の背景から、令和9年の給与計算への影響まで、順に確認していきましょう。

背景にあるのは、物価上昇による家計負担と、税負担を意識して働く時間を抑える「就業調整」です。控除額が固定されたまま物価や賃金が上昇すると、生活に余裕ができたわけではなくても実質的な税負担が増えることがあります。
令和7年度改正では、こうした問題への対応として基礎控除等が引き上げられました。また、人手不足の中で大学生年代のアルバイトの就業調整を緩和するため、特定親族特別控除が設けられました。
令和8年度改正では、物価上昇を踏まえて基礎控除等を見直す仕組みを導入するとともに、中低所得者への配慮などから特例を上乗せしました。給与収入のみの方の所得税の負担開始水準は、令和7年の160万円から令和8年は178万円へ引き上げられています。
基礎控除は、本人の合計所得金額に応じて、所得から一定額を差し引く制度です。令和8年分は、次のように控除額が引き上げられます。
合計所得金額の後ろの括弧内には、令和8年分について、収入が給与だけの場合の給与収入額を記載しています。
| 本人の合計所得金額 (令和8年分の給与収入の目安) |
令和7年分 基礎控除額 |
令和8年分 基礎控除額 |
|---|---|---|
| 132万円以下 (給与収入206万円以下) |
95万円 | 104万円 |
| 132万円超336万円以下 (給与収入206万円超475万1,999円以下) |
88万円 | 104万円 |
| 336万円超489万円以下 (給与収入475万1,999円超665万5,556円以下) |
68万円 | 104万円 |
| 489万円超655万円以下 (給与収入665万5,556円超850万円以下) |
63万円 | 67万円 |
| 655万円超2,350万円以下 (給与収入850万円超2,545万円以下) |
58万円 | 62万円 |
※括弧内の給与収入額は、令和8年分の給与所得控除に基づく目安です。令和7年分の給与収入の区分を示すものではありません。特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合には、表の金額と異なります。
給与以外に所得がある場合は、それらも含めて合計所得金額を判定します。なお、合計所得2,350万円超の区分には変更ありません。
今回の金額には令和8・9年分の時限的な上乗せが含まれます。昨年の手引きに記載された「令和8年分」の控除額も、その後の改正で更新されているため、必ず今年の資料を使いましょう。
給与所得控除は、給与収入から給与所得を計算する際に差し引くものです。所得控除の一つである基礎控除とは、計算上の役割が異なります。
令和7年分は、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円へ引き上げられました。令和8・9年分は、さらに74万円へ引き上げられます。今回変更される範囲を、給与収入ごとに比較すると次のとおりです。
| 年間の給与収入 | 令和7年分の 給与所得控除額 |
令和8年分の 給与所得控除額 |
|---|---|---|
| 190万円以下 | 65万円 | 74万円 |
| 190万円超 220万円以下 |
給与収入×30% +8万円 |
74万円 |
※給与収入が220万円を超える場合の給与所得控除額に、今回の改正による変更はありません。
上の表は給与所得控除額の改正を比較したものです。実際の年末調整では、収入区分ごとの計算方法や端数の取扱いがあるため、令和8年分の「給与所得控除後の給与等の金額の表」を使用してください。
給与収入のみの場合、基礎控除104万円と給与所得控除74万円を合わせると178万円になります。これが、令和8年分の所得税についていわれる「178万円の壁」の基本的な仕組みです。
たとえば給与収入が178万円の場合、給与所得控除74万円を差し引いた給与所得は104万円となり、そこから基礎控除104万円を差し引くと、課税される所得は0円になります。ただし、住民税や社会保険の基準まで178万円になるわけではありませんのでご留意ください。
基礎控除等の改正に伴い、扶養親族だけでなく、ひとり親控除の対象となる子、配偶者控除・配偶者特別控除の対象となる配偶者、勤労学生についても所得要件が見直されます。
主な変更点は次のとおりです。括弧内は、それぞれの年分について、判定対象となる方の収入が給与だけの場合の給与収入額です。
| 区分・判定する所得 | 令和7年分 | 令和8年分 |
|---|---|---|
| 扶養親族 親族の合計所得金額 |
58万円以下 (給与123万円以下) |
62万円以下 (給与136万円以下) |
| ひとり親控除の対象となる子 子の総所得金額等の合計額 |
58万円以下 (給与123万円以下) |
62万円以下 (給与136万円以下) |
| 配偶者控除 配偶者の合計所得金額 |
58万円以下 (給与123万円以下) |
62万円以下 (給与136万円以下) |
| 配偶者特別控除 配偶者の合計所得金額 |
58万円超133万円以下 (給与123万円超201万5,999円以下) |
62万円超133万円以下 (給与136万円超207万円以下) |
| 勤労学生控除 学生本人の合計所得金額 |
85万円以下 (給与150万円以下) |
89万円以下 (給与163万円以下) |
※上記は所得要件の比較です。控除を受けるには、生計関係・年齢・本人の所得制限など、それぞれの制度の要件を満たす必要があります。特定支出控除の適用がある場合には、給与収入の目安が異なります。
【扶養親族:給与136万円以下が所得面の基準に】
扶養親族の所得要件は、58万円以下から62万円以下に引き上げられます。給与所得控除の引上げと合わせ、給与のみの場合の基準は123万円以下から136万円以下になります。ただし、扶養親族に該当すれば必ず扶養控除を受けられるわけではなく、扶養控除は原則として16歳以上の親族が対象です。
【ひとり親控除:子の所得要件が緩和】
ひとり親控除では、生計を一にする子の総所得金額等の合計額の要件が58万円以下から62万円以下へ変わります。給与のみなら136万円以下が目安です。
一方、控除を受ける本人の合計所得金額が500万円以下であることや、事実上婚姻関係と同様の事情にある一定の人がいないことなどの要件は、引き続き確認が必要です。子が他の人の扶養親族等になっていないことも条件となります。令和8年分のひとり親控除額は35万円のままで、所得要件の改正と控除額の改正は分けて考えましょう。
参考:国税庁・ひとり親控除
【配偶者控除・配偶者特別控除:136万円を超えても控除の可能性あり】
配偶者控除の対象となる配偶者の所得要件は、58万円以下から62万円以下へ変わり、給与のみなら136万円以下が基準となります。控除を受ける本人の合計所得金額は、引き続き1,000万円以下である必要があります。
配偶者の給与収入が136万円を超えても、207万円以下であれば、要件を満たすことで配偶者特別控除を受けられる場合があります。配偶者特別控除の上限となる所得金額133万円自体は変わりませんが、給与所得控除の引上げにより、給与収入に換算した上限が広がります。
【勤労学生控除:学生本人の所得要件が89万円以下に】
勤労学生控除は、学生本人が受ける控除です。合計所得金額の要件が85万円以下から89万円以下へ引き上げられ、給与のみなら163万円以下が目安になります。控除額は27万円のままです。
勤労による所得以外の所得が10万円以下であることや、対象となる学校の学生・生徒であることなどの要件も必要です。また、学生本人が勤労学生控除を受けられるかどうかと、親が扶養控除等を受けられるかどうかは別に判定します。
参考:国税庁・勤労学生控除
このように、「本人に所得税がかからないこと」と「家族に関する控除を受けられること」は別の判定です。給与収入170万円の子は、本人に所得税がかからなくても、通常の扶養控除の所得要件は満たしません。ただし、19歳以上23歳未満であれば、次の特定親族特別控除を検討できます。
特定扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、原則として年末時点で19歳以上23歳未満の親族をいいます。要件を満たす場合、親などの所得から63万円を差し引けます。
令和8年分では、親族の合計所得が62万円以下、給与のみなら136万円以下であることが所得面の条件です。
参考:国税庁・扶養控除
一方、令和7年に新設された特定親族特別控除は、同じ年齢層の親族について、収入が増えて扶養控除の対象から外れた場合でも、親などが一定の所得控除を受けられる制度です。
扶養控除に追加するものではなく、親族の所得に応じて適用する制度が切り替わります。前年と今年の違いは、次のとおりです。
| 親などが受ける控除 | 令和7年分 親族の給与収入 |
令和8年分 親族の給与収入 |
|---|---|---|
| 特定扶養親族として 扶養控除63万円 |
123万円以下 | 136万円以下 |
| 特定親族特別控除 63万円 |
123万円超 150万円以下 |
136万円超 159万円以下 |
| 特定親族特別控除が 段階的に減額 |
150万円超 188万円以下 |
159万円超 197万円以下 |
| 上記の控除なし | 188万円超 | 197万円超 |
※給与以外の所得がなく、生計関係などの要件を満たす場合。大学への在学自体は要件ではなく、配偶者や一定の事業専従者等は対象外です。
参考:国税庁・令和7年分の手引き(PDF)、国税庁・特定親族特別控除
たとえば、生計を一にする20歳の子の給与収入が年間155万円の場合、令和7年分の親の控除額は61万円でした。令和8年分は、155万円から給与所得控除74万円を差し引いた所得が81万円となり、特定親族特別控除は63万円になります。
令和8・9年分は、23歳未満の扶養親族がいる場合、新生命保険料に係る一般生命保険料控除の上限が4万円から6万円になります。ただし、介護医療保険料控除・個人年金保険料控除を合わせた全体の上限は12万円のままです。
ここでも「扶養親族」という要件が重要です。特定親族特別控除の対象となる子がいるだけで、生命保険料控除の特例も自動的に使えるわけではありません。年齢に加え、子の所得要件も確認しましょう。
基礎控除等の改正は、原則として令和8年12月の年末調整で年間税額に反映します。この改正による11月までの月次源泉徴収の変更はありません。
従業員の方は、本人とご家族の年間収入見込額を確認してください。アルバイトを掛け持ちしている場合は給与を合計し、副業など給与以外の所得も含めて判定します。特定親族特別控除を年末調整で受けるには、所定の申告書の提出も必要です。
会社側は、改正に対応した申告書・給与ソフトを使用し、新たに控除の対象となるご家族がいないか確認しましょう。配偶者や子の収入だけでなく、ひとり親控除・勤労学生控除など、従業員本人の控除についても確認が必要です。
提出後に収入見込額や家族の状況が変わった場合は、速やかに申告内容を見直すことも大切です。前年の内容をそのまま転記せず、今年の収入と新しい基準を照らし合わせて、控除の申告漏れを防ぎましょう。
今年の年末調整が終わった後も、翌年の給与計算への対応が必要です。令和9年1月1日以後に支払うべき給与からは、令和9年分の源泉徴収税額表を使用します。月給・日給だけでなく、賞与の表も切替えが必要です。
月々の源泉徴収と年末調整では、特定親族の扱いにも違いがあります。令和9年分について、19歳以上23歳未満の親族を給与の源泉徴収で人数に含めることができる範囲は、給与収入のみの場合、次のとおりです。
| 親族の年間給与 収入見込額 |
毎月の源泉徴収 | 年末調整 |
|---|---|---|
| 136万円以下 | 特定扶養親族として人数に含める | 扶養控除63万円 |
| 136万円超 174万円以下 |
特定親族として人数に含める | 所得に応じた特定親族特別控除 |
| 174万円超 197万円以下 |
特定親族としては人数に含めない | 所得に応じた特定親族特別控除 |
※生計関係等の要件を満たす場合。障害者等に係る人数の加算は別途判定します。特定親族を月々の計算に含める仕組み自体は令和8年1月から始まっています。
たとえば20歳の子の給与収入が年間180万円の場合、月々の給与計算では、その子を特定親族として人数に含めません。しかし、年末時点でも要件を満たしていれば、親は年末調整で特定親族特別控除21万円を受けられます。
月々の対象にならなくても、年末調整の申告を忘れないことが大切です。
また、令和9年分からは、ひとり親控除が35万円から38万円に引き上げられます。令和8年分では子の所得要件が変わり、令和9年分から控除額も変わる、という違いを押さえておきましょう。
会社側は、令和9年最初の給与計算に間に合うよう、扶養控除等申告書の回収と給与ソフトの更新を進めましょう。申告書は、卒業・就職・年齢区分の変更などを踏まえ、令和9年の見込みで記載することが大切です。
年々、要件や計算方法、様式の記載方法などが細かくなってきております。令和8年分の年末調整及び令和9年分以降の源泉徴収事務の参考になれば幸いです。
あすか税理士法人
スタッフ 白川 達也