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会計制度2021.02.18 JICPA リモートワーク対応の監査上の留意事項を公表(4)

日本公認会計士協会(JICPA)は、リモートワークに対応した監査上の留意事項として、「構成単位等への往査が制限される場合の留意事項」(リモートワーク対応第4号)を公表しました。今回は、この概要について、ご説明させて頂きたいと思います。

 

 

 

1.構成単位とは?

 

監査基準委員会報告書600「グループ監査」は、いわゆる連結財務諸表に対する監査のアプローチを示したものですが、その中で、連結財務諸表に含まれる財務情報の作成単位となる企業またはその他の事業単位のことを「構成単位」といいます。

 

グループ監査においては、これらの構成単位に往査して監査手続を実施したり、構成単位の監査人を訪問してその作業に関与することが想定されていますが、昨今の状況から、これらをリモートワークによって(電話回線またはインターネット等の送受信記述を活用して)実施することが考えられます。このことを留意事項の中では「リモートワーク方式」と呼んでいます。

 

 

2.リモートワーク方式に対する基本的な考え方

 

監査人は、過年度の監査において構成単位に往査し、監査証拠(企業及び企業環境に係る情報)を入手していることが考えられます。しかし、時の経過につれて重要な事象等が発生することにより、企業や企業環境が変化していることが考えられるため、当年度の監査において、以下の作業を実施することが求められています。

 

① 構成単位において重要な事象等により企業及び企業環境に変化が生じていないか検討する

 

② ①で変化が生じている場合、過年度に入手した情報の適合性に影響を及ぼすかどうか(当年度の監査において利用可能かどうか)を検討する

 

③ 適合性を維持できていない場合は、生じた変化の内容に基づいて情報を更新する

 

④ ②及び③の結果を当年度のリスク評価に反映し、重要な虚偽表示リスクを評価する

 

⑤ ④の結果、重要な虚偽表示リスクを許容可能な低い水準に抑えることが可能と判断されればリモートワーク方式により監査証拠を入手し、重要な虚偽表示リスクを許容可能な低い水準に抑えることが困難と判断されれば構成単位に往査し監査証拠を入手する

 

 

3.リモートワーク方式の実施において想定されるリスクと対応策

 

リモートワーク方式の実施においては、監査証拠の入手も電子媒体に変換されて入手されることが多くなると考えられるため、監査証拠のデジタル化に伴う監査リスクなど想定されるリスクが自ら往査して監査手続を実施する場合とは異なることを認識し、入手した情報の真正性を確認する必要があるとされています。(詳しくはこちら

 

また、リモートワーク環境下において監査手続の実施に必要な情報を入手する場合、監査人は情報セキュリティに係るリスクを認識し、情報技術の進歩に合わせた情報セキュリティ対応策についても考慮することが適切であるとされています。(詳しくはこちら

 

なお、以下のような状況にある場合は、構成単位への往査を実施するか構成単位の監査人による監査手続の実施を考慮することに留意するとされています。

・過年度の往査時から相当の年数が経過して監査に必要な情報を更新する必要があると考えられる場合

 

・構成単位において過年度と比較して状況に重要な変化が生じている場合(それが合理的に見込まれる場合を含む)

 

・リモートワーク方式によって入手した監査証拠が過年度の往査の際に入手した監査証拠と矛盾する場合

 

 

4.構成単位の監査人とのコミュニケーションの内容や方法の見直し

 

監査人はグループ監査チームとして、グループ経営者及びグループの統治責任者と一層のコミュニケーションを図り、構成単位の財務情報の作業(監査等)における十分かつ適切な監査証拠を入手できるような環境を醸成するように配慮する必要があるとされています。

 

しかし、構成単位の監査人が監査人(グループ監査チーム)と同じネットワークに所属していない場合、構成単位へ往査する場合に比べて、当該監査人とのコミュニケーションが希薄になることが考えられたり、同じネットワークに所属している場合であっても、そのコミュニケーションが形式的な結論のみを記載した文書のやり取りのみとなることも考えられます。

 

そこで、リモートワーク方式で構成単位の監査人が実施する作業に関与する場合は、以下のようなコミュケーション方法を採用することが考えられるとされています。

 

・電話やウェブを利用した会議等により、構成単位の監査人に質問する

 

・構成単位の監査人から、監査調書を郵送・電子メール等により送付・ウェブ上に設置されたデータキャビネット等で共有してもらい、質問を行う

 

・ネットワークファーム共通の電子調書管理システムが備えられている場合には、これを利用して監査調書のレビューを行う

 

 

 

3月決算会社においては、期末の監査に向けて、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から海外子会社への往査等に大きな影響が出ていると考えられます。この点、リモートワーク方式によって監査証拠を入手するケースが増えると予想されますので、その際のご参考になればと思います。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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