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会計制度2022.11.30 金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表

これまで、私の担当回では、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(DWG報告)の内容について、ご説明をしてきましたが、その内容を受けて、金融庁は、有価証券報告書等の記載事項について改正を行うため、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表しました。(12月7日まで意見募集が行われており、その後、正式決定される見通しです。)

 

 

1.サステナビリティに関する考え方及び取組の開示


 

今般の改正によって、「第2 事業の状況」の中に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」が加えられることとなりました。これによって、事業の状況の記載は、一般的に以下の構成になると考えられます。

1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

2.サステナビリティに関する考え方及び取組

3.事業等のリスク

4.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

5.経営上の重要な契約等

6.研究開発活動

 

この新設される「サステナビリティに関する考え方及び取組」においては、連結会社(企業グループ)としての考え方や取組状況の記載が求められます。

 

具体的には、「ガバナンス」「リスク管理」について、すべての企業で記載が求められます。

ガバナンス = サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続

 

リスク管理 = サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、管理するための過程

 

さらに、「戦略」指標及び目標」ついては、重要なものについての記載が求められます。

戦略 短期、中期及び長期にわたり経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組

 

指標及び目標 = サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、監視するために用いられる情報

 

なお、人材の多様性を含む人的資本については、人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例.人材の採用・維持や従業員の安全及び健康に関する方針)を「戦略」において記載し、この方針に関する指標の内容・当該指標を用いた目標と実績を「指標及び目標」において記載することが、すべての企業で求められますので、ご留意ください。

 

また、記述情報の開示に関する原則(別添)案も公表されており、サステナビリティ情報の開示に関する考え方が示されました。有価証券報告書を作成する上でのポイントとなる点をまとめてみました。

サステナビリティ情報には、国際的な議論を踏まえると、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティ等が含まれると考えられる。

 

気候変動対応が重要であると判断される場合、重要性の判断を前提としつつも、温室効果ガス(GHG)排出量のうち、Scope1(事業者自らによる直接排出)とScope2(他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出)については、積極的に開示することが期待される。

 

・「サステナビリティに関する考え方及び取組」における「戦略」と「指標及び目標について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合には、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される。

 

・現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であることから、開示の「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後国内外の動向を踏まえながら、原則の改訂を行うことが考えられる。

 

 

 

2.人的資本、多様性に関する開示


 

人的資本や多様性については、前述のサステナビリティに関する考え方及び取組での開示に加え、女性活躍推進法に基づいて「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表している提出会社及び連結子会社について、「第1 企業の概況」の中の「従業員の状況」において、これらの指標を記載することが求められます。また、任意の追加的な情報を記載することもできるとされています。(改正後の企業内容等開示ガイドライン5-16-3)

 

※企業内容等開示ガイドライン=「企業内容等の開示に関する留意事項について」

 

また、記述情報の開示に関する原則(別添)案では、上記の指標については、会社ごとの開示に加えて、投資判断に有用な連結ベースでの開示に努めるべきであるとされています。

 

 

3.コーポレートガバナンスに関する開示


 

「第4 提出会社の状況」の中の「4.コーポレート・ガバナンスの状況等」においては、新たに以下の内容を記載することが求められます。

・最近事業年度における提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会、企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会の活動状況(=開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役(委員)の出席状況等)

 

・最近事業年度における提出会社の監査役会、監査等委員会(監査等委員会設置会社の場合)、監査委員会(指名委員会等設置会社の場合)の具体的な検討内容(従前は主な検討事項とされていました。)

 

内部監査の実効性を確保するための取組(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会ならびに監査役及び監査役会に対して直接報告を行う仕組み(=デュアルレポーティングライン)の有無等を含む)

 

政策保有株式の保有目的が株式発行会社(相手先)との間の営業上の取引、業務上の提携等を目的とする場合のその概要

 

 

 

4.将来情報の記述と虚偽記載の責任


 

将来に関する事項(将来情報)についての記述については、記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、以下のような場合には、直ちに有価証券報告書の虚偽記載等の責任を負うものではないとされています。(改正後の企業内容等開示ガイドライン5-16-2)

・当該将来情報に関する経営者の認識や当該認識の前提となる事実、仮定及び推論過程に関する合理的な説明が記載されている場合

 

・当該将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経た上で、その旨が検討された事実、仮定及び推論過程とともに記載されている場合

 

有価証券報告書等の記載上の注意においては、これまで、将来情報を記載する場合には、当該事項は提出日現在において判断したものである旨を記載することが求められていましたが、今回の改正において削除されていますので、ご確認ください。

 

 

5.任意開示書類の参照


 

今回新設される「サステナビリティに関する考え方及び取組」や年々開示内容の充実が図られている「コーポレート・ガバナンスの概要」の記載にあたっては、記載上の注意に定められている内容に加えて、それらを補完する詳細な情報について、企業が任意に公表している書類を参照する旨の記載ができることとされました。(改正後の企業内容等開示ガイドライン5-16-4)

 

また、参照先の書類に虚偽の表示または誤解を生ずるような表示があっても、当該書類が明らかに重要な虚偽の表示または誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合のように、当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の虚偽記載等になり得る場合を除いては、ただちにその責任を問うものではないことも示されています。

 

 

 

 

最後になりましたが、この改正された内閣府令等の適用は、2023年(令和5年)3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書等に適用されることとなっており、3月決算会社においては、この進行期(2023年3月期)の有価証券報告書に盛り込む必要があります。

 

改正内容は、概ねDWG報告からの提言に沿ったものとなっており、DWG報告に関する私のブログ記事もお読み頂けると、理解を深めて頂けるのではないかと思います。

 

特に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示については、有価証券報告書を作成される担当者の方が1人で対応できる内容ではないため、ガバナンス体制やリスク管理体制の整備を進め、「重要性(マテリアリティ)」があるテーマに対しては、対応するための戦略や評価指標等まで整備しておくことが必要と考えられます。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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