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国内税務2022.06.08 相続対策の王道「110万円暦年贈与節税ができなくなる!?」とうわさの税制改正大綱を解説!!

 

はじめに


 

 

先日クライアントからこんな質問がありました。「暦年贈与ができなくなるとうわさを聞いたのですが本当ですか?」私は「暦年贈与自体は今後も可能です」とお答えいたしました。質問を聞いた時に真っ先に思い浮かんだのはネットニュースです。実は私もネットニュースを見て暦年贈与ができなくなると誤解を与えるような記事だなと感じたことがありました。誤解を与えるようなうわさとその原因を解説したいと思います。

 

1.暦年贈与とは?そして110万円の非課税とは?


 

暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの間にもらった財産の価額を合計し110万円の非課税枠を控除した残額である課税価格に対して贈与税が課税されるというものです。
この非課税枠である110万円を利用して暦年贈与を積み重ねることで将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減させるのがこれまでの相続対策の王道とされていました。

 

2.うわさの出どころとなった税制改正大綱とは? 


 

うわさの原因となったのは税制改正大綱で贈与税について取り上げられた事が原因だと思われます。
税制改正大綱とは簡単に言うと与党が翌年以降の税制改正の方針をまとめたものです。改正はまだ決まってないが、この税制改正大綱を基に改正を行うか否か国会に諮られます。2022年度税制改正大綱では、暦年贈与について改正される予定には至りませんでしたが、相続対策の王道にメスを入れるような文言が織り込まれました。要約すると「高齢世代に資産が偏り、若年世代への資産移転が進まない状況にある。資産の移転が早期に行われると経済の活性化に繋がることを期待できるが、適切な負担(税負担)を伴うことなしに世代を超えて引き継がれることは所得格差の固定化にも繋がる恐れがある。そのため資産の配分機能(資産移転)の確保を図りつつ、所得格差を縮小する税制を構築することが重要である」と記載されています。
つまり、資産の移転はしてほしいけど税金は確保したいと書いているわけですね。

※令和4年度税制改正大綱より一部引用

 

3.110万円暦年贈与節税廃止のうわさの正体


 

上記のことから巷でうわさされている110万円暦年贈与節税の廃止の正体について解説します。
結論的には2022年度税制大綱では暦年贈与の廃止や非課税枠の見直しについて直接言及されておらず、うわさとなっている贈与税の暦年贈与や110万円の非課税枠がなくなることはありません。ではうわさの出どころの原因となった日本の相続税の仕組みを諸外国と比較してみたいと思います。
日本の現行制度では、相続開始前3年以内の暦年贈与については、相続財産に持ち戻すと言うルールがあります。つまり相続開始前3年以内の贈与はなかったものとみなされ相続財産として認識しなければならないのです。
逆に言えば3年を過ぎた贈与財産は持ち戻しの対象とはならず相続税は全く課税されないのが日本の現状です。
これに対し諸外国でも同様の似たルールがあり、持ち戻しの期間が長期間とされているケースが多く見受けられます。

(例)イギリス:7年、ドイツ:10年、フランス:15年、アメリカ:全期間

この3年以内という期間が延長されれば、今まで課すことができなかった贈与財産についても相続税を課すことができ、所得格差を防ぐことができるというのが税制改正大綱で触れられている裏の真相だと思われます。
つまりうわさの正体は、持ち戻し期間延長の見直しによる相続対策効果の薄まりが原因であると考えられます。
ではもう一つの論点である資産の移転についてはどうでしょうか?持ち戻しの期間が長くなれば贈与が滞りそうに思えますが、逆に富裕層の相続対策への意識が強まり持ち戻しの期間より前に対策をしようとする考えがでてきます。つまり財産の移転を前倒しさせることができ、早期に高齢世代から若年世代に資産を移転させることが期待できると予想できます。

 

まとめ


 

うわさの正体は暦年贈与ができなくなることではなく、持ち戻しの期間延長により相続対策効果が薄まることだと思われます。
税制改正大綱にこのような政府の意思を公表することは、現状問題となっている点について近々変更するかもしれないよ、というメッセージだと捉え、今後の相続対策の早期見直しを行うことをお勧めします。

 

あすか税理士法人

【スタッフ】杉原和樹