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会計制度2021.11.24 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(その1)

先日、当ブログで2022年4月よりスタートするグループ通算制度の概要についてご説明をしましたが、企業会計基準委員会(ASBJ)では、グループ通算制度の開始に伴い「グループ通算制度を適用した場合の会計処理や開示の取扱い」(実務対応報告第42号、以下「実務対応報告」)を公表しています。

今回と次回(12月下旬を予定)の2回にわたって、この内容についてご説明したいと思います。

 

 

 

 

1.はじめに


 

連結納税制度とグループ通算制度は申告手続は異なるものの、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであることから、基本的には連結納税制度における会計処理や開示に関する取扱いが踏襲されています。

 

なお、グループ通算制度において損益通算や欠損金の通算を行った場合に、通算による税金の減少額(通算税効果額といいます)について、企業間で金銭の授受を行うことは任意とされています。ただし、実務的にはこの授受を行うケースは多いと考えられており、通算税効果額の授受が行われることを前提に実務対応報告が作成されている点に留意が必要です。(第3項)

 

 

2.会計処理について


 

(1)法人税及び地方法人税に関する会計処理

 

連結納税制度においては、個別帰属額が各社の課税所得に対する法人税及び地方法人税として負担すべき額であったことから、個別帰属額を「法人税、住民税及び事業税」と同様に取り扱うものとされていました。

 

グループ通算制度における通算税効果額についても、グループ通算制度を適用したことによる税額の減少額であるため、当該事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準するものとして取り扱うこととされています。(第7項)

 

 

(2)税効果会計に関する会計処理

 

①はじめに

 

住民税及び事業税についてはグループ通算制度の対象とされていないため、法人税及び地方法人税とは区別して税効果会計を行う必要があります。住民税の税額計算はグループ通算制度によって算定された法人税額からグループ通算制度の影響を控除して算定しますが、この点を考慮して繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があります。(第8項)

 

 

②個別財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性の判断

 

将来加算一時差異(繰延税金負債の発生要因)の解消見込額と相殺し切れなかった将来減算一時差異(繰延税金資産の発生要因)については、以下の手順により回収可能性を判断することとされています。

 

最初に企業単独の将来の課税所得(正確には「一時差異等加減算前通算前所得」といいます)と解消見込年度ごとに相殺

 

その後に損益通算による益金算入見積額と解消見込年度ごとに相殺

 

・上記で相殺し切れなかった部分については、解消見込年度の翌年度以降において特定繰越欠損金(※)以外の繰越欠損金として取り扱われるため、控除見込年度ごとのスケジューリングに従って回収可能性を判断

 

※グループ通算制度を適用する前に生じた税務上の繰越欠損金で一定の要件を満たす場合にグループ通算制度適用後にも控除可能なもの

 

 

また、企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(いわゆる区分1から区分5で示される分類のことです)については、通算グループ内すべての企業を1つに束ねた単位(通算グループ全体)の分類と企業単独の分類をそれぞれ判定する必要があります。その上で、

 

<将来減算一時差異(税務上の繰越欠損金以外)に係る繰延税金資産の回収可能性>

 

通算グループ全体の分類が企業単独の分類より上位または同じ通算グループ全体の分類に応じた判断

 

通算グループ全体の分類が企業単独の分類より下位企業単独の分類に応じた判断

 

<税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性>

 

特定繰越欠損金以外の繰越欠損金通算グループ全体の分類に応じた判断

 

特定繰越欠損金損金算入限度額計算における課税所得ごとに通算グループ全体の分類と企業単独の分類に分けて判断

 

 

③連結財務諸表における法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性の判断

 

連結財務諸表においては、通算グループ全体について回収可能性の適用指針に従って判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は連結上修正することとされています。(第14項)

 

 

④適用時、加入時及び離脱時の取扱い

 

a.グループ通算制度を新たに適用する場合

グループ通算制度の適用の承認があった日(または承認があったものとみなされた日の前日)を含む年度から、翌年度よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計を適用します。(第21項)

 

b.株式の取得等により新たにグループ通算制度に加入する企業がある場合

新たに加入する企業が、加入前の時点で連結子会社である場合は、グループ通算制度に加入する意思決定がなされ、かつ、それが実行される可能性が高いと認められた時点から、グループ通算制度適用の影響を考慮して税効果会計を適用します。(第22項(1))

一方、新たに加入する企業が、加入前の時点で連結子会社ではない場合は、グループ通算制度に加入した時点から、グループ通算制度適用の影響を考慮して税効果会計を適用します。(第22項(2))

 

c.株式の売却等によりグループ通算制度から離脱する企業がある場合

離脱の意思決定がなされ、かつ、それが実行される可能性が高いと認められた時点から、グループ通算制度離脱の影響を考慮して(単体納税制度を適用されるものとして)、税効果会計を適用します。(第23項)

 

 

いかがでしょうか。連結納税制度を適用されていた企業の方にとっては、納税制度の違いはあるものの、会計処理の基本的な考え方は連結納税制度に関するものと同じであることがご確認頂けたかと思います。

 

一方、新たにグループ通算制度の適用を検討されている企業の方にとっては、特に税効果会計(繰延税金資産の回収可能性)の部分で、法人税及び地方法人税と地方税及び事業税を区分する必要があったり、通算グループ全体で考える場面と企業単独で考える場面が出てきたりと、これまでより細かな検討が必要になることがお分かり頂けるかと思います。新たにグループ通算制度を適用される場合には、会計処理の負担についても検討事項の1つに含められることをお薦めします。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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