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国際税務2023.08.23 【国際税務】租税条約の取扱~米国で取得したRSUの課税関係~

最近は報酬を自社の株式で支払う会社も多くなっているように感じます。

今回は海外でRSUが付与され、日本居住時に権利確定された場合の課税関係について解説いたします。

 

【前提】
米国籍のA氏は米国のX社勤務時にRSU(Restricted Stock Unit)を付与(Grant)されました。
2年後、A氏はX社を退職し、日本へ移住しました。
その1年後、当該RSUの譲渡制限が解除され(Vested)ました。
その数年後X社は上場し、A氏当該株式を売却しました。

A氏の課税関係はどのようになるでしょうか。

 

1.RSU付与時の課税関係


 

RSUは業績や勤務条件に応じて従業員へ自社株式を報酬として支払う制度の一つで、一定期間経過後に株式を受け取る権利が付与されるものです。
従って、勤務応じて支払われる報酬制度であることから所得税法上は給与所得の対象となります。

では、RSU付与時に給与所得として認識されるのでしょうか。

結論はNOです。

RSU付与時は株式を受け取る権利が確定していないことからこの時点では経済的利益は発生していないことになります。

 

2.日本移住時の課税関係


 

この時点ではRSUの譲渡制限は解除されていないので、日本での課税関係は生じません。

 

3.RSUの譲渡制限解除時(Vested)の課税関係


 

RSUの譲渡制限が解除された時点で株式が付与されます。このタイミングで所得税法上は給与所得として認識します。
では課税の対象となる金額はいくらでしょうか。

 

ex)2023年8月31日にA氏が保有するRSUがVestされ、A氏に株式1,000株が付与されました。この時の株式の時価は1株100ドルとします。
A氏は米国籍のため、RSUによる株式取得時に米国にて20,000ドルが源泉徴収され、源泉徴収税額相当の株式200株が差し引かれた、800株を実際に取得しました。
なお、RSUが付与されたのは2020年1月1日、日本へ移住したのは2022年9月30日です。

 

(給与所得の対象額)
日本において給与所得の対象となるのは、日本居住期間に対応した部分となります。
2020年1月1日~2022年9月30日→33ヶ月(非居住者)
2022年10月1日~2023年8月31日→11ヶ月(居住者)

1,000株×100ドル×11ヶ月÷(30ヶ月+11ヶ月)=25,000ドル
25,000ドル×140(8/31のTTM)=3,500,000円

 

(外国税額控除額)
アメリカで源泉徴収されていることから、源泉徴収された20,000ドル(すべて連邦税とします)のうち日本居住期間分は控除対象となります。
米国では連邦税、州税、社会保障税などが控除されると思いますが、外国税額控除の対象となるのは連邦税のみです。

20,000ドル×11ヶ月÷(30ヶ月+11ヶ月)5,000ドル
5,000ドル×140円(8/31のTTM)=700,000円

 

4.株式売却時の課税関係


 

取得した株式を売却した時点で譲渡所得として日本の所得税が課税されることとなります。

 

なお、Vested時の源泉徴収された株式については権利確定と売却が同タイミングで発生していることから、譲渡所得は生じません。

 

ex)A氏は取得した80株を2023年12月末にすべて売却しました。この時の株式の時価は1株200ドルでした。この時のレートは145円とします。

(譲渡所得額)
売価(80株×200ドル×145円)-取得費(80株×100ドル×140円)=1,200,000円

株式の譲渡所得は日米租税条約により居住地国でのみで課税とされていることから、日本において申告分離課税(20.315%の税率)として計算された所得税を納付することで完結します。
(米国籍の方やグリーンカード保有者は米国においても確定申告が必要となるのでご注意ください)

 

 

いかがでしょうか。
RSUの付与時から譲渡制限解除時の間で居住者期間と非居住者期間が混在する場合は上記のように国内勤務期間を按分して求める必要があります。
給与所得として課税される部分と外国税額控除の対象となる部分の双方で計算が入りますので、ご注意ください。

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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