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国際税務2023.07.26 【国際税務】租税条約の取扱事例~レンタカー代は源泉徴収が必要か~

前回までは租税条約の基礎として、各種所得の取扱を説明してきました。

今回から租税条約の取扱事例を紹介していきたいと思います。

 

【前提】

X社はフィリピン、インド、アメリカでの事業に使用するため現地でレンタカーを利用していました。
レンタカーの費用は現地事務所から直接支払うこともあれば、日本の本社から送金する場合もありました。
このたび税務調査にて、当該レンタカーの使用料について日本で源泉徴収が必要と指摘されました。
X社の支払う使用料について源泉徴収は必要でしょうか。

 

1.フィリピン、インドとの租税条約


 

車両の使用料については、租税条約の「使用料」の条項に該当します。
日本フィリピン間及び日本インド間の租税条約は限度税率の違いはありますが、規定の構造は同じです。
ポイントは、①使用料の支払国でも課税が可能という点②使用料の定義に設備が含まれるという点です。
このことからレンタカーが租税条約に規定する設備に該当する場合は日本から支払いの際に源泉徴収が必要ということになります。

 

〈租税条約の使用料条項〉

1)一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料及び技術上の役務に対する料金に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。(フィリピン又はインドで課税が可能)

 

2)1の使用料及び技術上の役務に対する料金に対しては、これらが生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる(日本でも課税可能)

 

3)この条において、「使用料」とは、・・・産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として・・・受領するすべての種類の支払金をいう。(使用料に設備が含まれる)

 

2.アメリカとの租税条約


 

フィリピンやインドとの租税条約と違い、日米租税条約では使用料の受益者が居住する国でのみ課税できると規定されています。
さらに、使用料の定義において設備が含まれておりません。
このことからアメリカのレンタカー会社に支払うレンタカー代は日本で源泉徴収が不要ということとなります。
使用料の条項において「設備」という記載がないことから、レンタカーに限らずその他設備の使用料については源泉徴収が不要と判断ができます。

 

〈租税条約の使用料条項〉

1)日米租税条約12条1項
一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

 

2)日米租税条約12条2項
この条において、「使用料」とは、・・・産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領されるすべての種類の支払金等をいう。

 

 

3.設備に車両が含まれるか


 

租税条約の内容で疑義が生じた場合は原文の言語にて判断を行います。
フィリピンは英語、インドはヒンドゥー語ということになります。

 

1)フィリピンとの租税条約上の設備
日フィリピン租税条約では商業上の設備を英語で「INDUSTRIAL, COMMERCIAL OR SCIENTIFIC EQUIPMENT」と表現されています。
EQUIPMENTの日本語訳を調べると「設備、備品、機器、装置、機材」という翻訳が表示されます。
日本の税法における固定資産の区分として、車両を”設備”と表現することは通常は考えづらいため、日本で発生するレンタカー代は使用料には該当しないと考えられます。
次に英語では車両は「VEHICLE」と表現することが一般的です。つまり、英語でもEQUIPMENTに車両は含まないと考えることが妥当だと思います。
つまり、日フィリピン間の租税条約においては”車両”は商業上の”設備”には該当しないことから、これに係る使用料は源泉徴収が不要と判断できます。

 

2)インドとの租税条約上の設備
日本での取り扱いは上記のフィリピンの場合と同様です。
一方でヒンドゥー語では設備のことを「ウパカラン(ヒンドゥー語なので間違いがあるかもしれません)」というようです。インドではこの”ウパカラン”に車両を含むようです。
つまり、日本からインドへ車両のレンタカー代を支払う場合は設備の使用料の支払いということになり、租税条約の適用を受ける場合は限度税率である10%の源泉徴収が必要になると判断ができます。

 

なお、日本からインドのレンタカー会社へ直接支払う場合は源泉徴収の対象となりますが、インドの事業所(PE)の口座へ日本から送金し、そこからレンタカー会社へ支払う場合はPEに帰属する費用となりますので源泉徴収は不要となります。

 

いかがでしょうか。使用料については対象範囲が国によって微妙に異なります。何らかの使用料の支払いは外国に対して行う場合は以下の手順で今一度確認してください。
①課税権がどこにあるか(双方にある場合は要注意)、

②対象となる使用料の範囲はなにか(設備がある場合は要注意)、

③対象となる範囲について現地の法令を調べる(日本では対象とならなくても、現地法令では対象範囲に含まれる可能性がある)

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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