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会計制度2023.07.12 「グループ監査における特別な考慮事項」のポイントと企業に与える影響

2023年1月、日本公認会計士協会(JICPA)は、「グループ監査における特別な考慮事項」(改正監査基準報告書600、以下「改正監基報600」)を公表しました。改正監基報600は、連結財務諸表の監査の進め方に影響を与えると考えられますが、今回はこの改正のポイントについてお話させて頂きます。

 

1.従前の考え方


 

今回の改正のお話をする前に、従前のグループ監査の考え方がどのようなものであったのか、少しお話をさせて頂きたいと思います。

グループ財務諸表(連結財務諸表)に含まれる財務情報のとなる企業等のことを構成単位と呼び、その中でも、以下のような構成単位を重要な構成単位と位置付けていました。

グループ全体に対して個別の財務的重要性を有するもの

・特定の性質または状況によって、グループ財務諸表に係る特別な検討を必要とするリスクが含まれている可能性があるもの

 

 

その上で、各構成単位に対しては、次のような考え方で監査を実施することが求められていました。

<重要な構成単位である場合>

(1) グループ全体に対して個別の財務的重要性を有する場合

→ 当該構成単位の監査を実施する

 

(2) 特定の性質または状況によって、グループ財務諸表に係る特別な検討を必要とするリスクが含まれる可能性がある場合

→ 以下のいずれかの対応を行う

① 当該構成単位の監査を実施する

② 当該特別な検討を必要とするリスクに関連する特定の勘定残高、取引種類、開示等の監査を実施する

③ 当該特別な検討を必要とするリスクに関連する特定の監査手続を実施する

 

<重要な構成単位でない場合>

グループ・レベルでの分析的手続を実施する

 

 

 

2.改正後のポイント


 

それでは、改正監基報600では、グループ監査の考え方がどのように改正されたのかを見ていきたいと思います。

 

(1)構成単位の定義

 

改正監基報600では、構成単位の定義は「グループ監査における監査手続の計画及び実施を目的として、グループ監査人(連結財務諸表に意見表明を行う監査人)により決定される企業、事業単位、機能もしくは事業活動またはそれらの組み合わせ」となりました。基本的な考え方は改正前と大きく異なるものではありませんが、グループの組織構造や共通の情報システムや内部統制が存在することにより、複数の企業を1つの構成単位として取り扱ったり、いわゆるシェアード・サービス・センターが構成単位となる(シェアード・サービス・センターを監査することによって、複数の企業の特定の勘定科目の監査を行う)場合があることが例示されています。

 

(2)重要な構成単位の概念の廃止

 

個人的には、今回の改正の1番のポイントだと感じているのですが、改正前の重要な構成単位の考え方が廃止され、これに伴って、「1.従前の考え方」で述べたグループ監査の実施のアプローチの考え方も廃止されました。

 

これにより、改正監基報600は、リスクアプローチの基本的な考え方(グループ財務諸表の虚偽表示リスクを識別して評価し、評価したリスクに適切に対応するためのリスク対応手続を立案し実施する)に基づいて監査を行うことを前提とした上で、グループ監査を行うにあたって、特に注意すべき点が纏められているとご理解頂くとよろしいかと思われます。では、改正監基報600の記載内容を確認していきましょう。

 

(3)グループ財務諸表の虚偽表示リスクの識別・評価

 

グループ監査人がグループ財務諸表の重要な虚偽表示リスクを識別・評価するにあたっては、以下の事項を理解する必要があります。従前のグループ監査では、グループ全体統制と連結プロセスという切り分けがなされていましたが、今回の改正で、リスクアプローチによる監査の基本的な考え方に沿ったものに改正されています。

 

① グループ及びグループ環境

・グループの組織構造及びビジネスモデル(業務等が行われている場所、業務等の性質やそれらがグループ全体で類似する程度、ビジネスモデルが情報技術(IT)を活用している程度など)

・グループの企業(事業単位)に影響を及ぼす規制等の要因

・企業(事業単位)の業績評価を行うために使用される測定指標

 

② 適用される財務報告の枠組み及びグループ全体における会計方針と実務の一貫性

 

③ グループの内部統制システム

・共有化された内部統制の程度

・グループが財務報告に関連する活動を集約している場合のその方法

・グループの連結プロセス及び連結修正

・情報システム及びその他の構成要素において、グループ財務諸表の作成を支援する重要な事項及び関連する財務報告責任について、グループ経営者が企業(事業単位)の経営者に伝達する方法

 

③のグループの内部統制システムの理解については、付録2において、より詳細な事例が示されています。

 

これらの理解のもとに、グループ監査人は連結プロセスを含むグループ財務諸表の重要な虚偽表示リスクの識別と評価を行います。この際、付録3において、グループ財務諸表の重要な虚偽表示リスクを生じさせる可能性のある事業または状況が例示されています。

 

 

(4)重要性の考え方

 

改正監基報600では、グループ監査における重要性に関する考え方を以下のように整理しています。

 

① 合算リスク:未修正・未発見の虚偽表示の合計が(グループ)財務諸表全体としての重要性の基準値を上回る可能性のこと

 

② 構成単位の手続実施上の重要性:構成単位に関連する監査手続の計画及び実施の目的で、合算リスクを適切な低い水準に抑えるためにが設定する金額

 

③ グループ・レベルの手続実施上の重要性:グループ財務諸表全体における手続実施上の重要性

 

合算リスクに対応するため、構成単位の手続実施上の重要性は、グループ・レベルの手続実施上の重要性よりも低く設定することが要求されています。また、個別に監査手続が実施される構成単位が増加するほど、合算リスクは高まるとされています。

 

(5)評価された重要な虚偽表示リスクへの対応

 

グループ監査人は、グループ評価された重要な虚偽表示リスクに対して、前述の重要性も踏まえ、リスク対応手続を実施する構成単位、実施される作業の種類、時期及び範囲を決定します。

 

ただし、監査の作業を実施する構成単位の決定に影響を与えるものの例示として、以下の事項が取り上げられています。

 

① グループ財務諸表におけるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを生じさせる可能性のある以下のような事象及び状況

・新しく設立されたまたは買収された企業(事業単位)

・重要な変化が生じた企業(事業単位)

・関連当事者との重要な取引

・通常の取引過程から外れた重要な取引

・グループレベルで実施した分析的手続において発見された異常な変動

 

② グループ財務諸表における重要な取引種類、勘定残高、注記事項の構成単位にわたる分散の程度(グループ財務諸表に対する企業(事業単位)における資産、負債及び取引の規模や内容も考慮)

 

③ 識別された構成単位の財務情報について計画された監査の作業から十分かつ適切な監査証拠が入手されると見込めるかどうか

 

過年度の監査において構成単位で発見された虚偽表示や内部統制の不備の内容及び範囲

 

⑤ グループにわたり共通化された内部統制の内容及び範囲、また、グループに関連する活動の集約化の程度及びその方法

 

 

その上で、評価した重要な虚偽表示リスクに対応して、構成単位において以下のいずれの作業の範囲が適切であるかと決定する場合があるとされています。

 

① 構成単位の財務情報全体に対するリスク対応手続の立案・実施

 

② 特定の取引種類、勘定残高、注記事項に対するリスク対応手続の立案・実施

 

③ 特定のリスク対応手続の実施

 

 

(6)グループ経営者及びグループ・ガバナンスに責任を有する者とのコミュニケーション

 

グループ監査人はグループ経営者(親会社の経営者)及びグループ・ガバナンスに責任を有する者(親会社の監査役等)と以下の項目について、コミュニケーションを行うことが求められています。

 

<グループ経営者に対して>

・計画した監査の範囲とその実施時期の概要(構成単位で実施される作業の概要を含む)

・不正または不正が存在する可能性の情報

・企業(事業単位)の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある事項で、企業(事業単位)の経営者が把握していない可能性がある事項

 

<グループ・ガバナンスに責任を有する者に対して>

通常のコミュニケーション項目に加えて

・構成単位において実施する作業及び構成単位の監査人が実施する作業に関してグループ監査人が予定している関与の内容の概要

・グループ監査人が構成単位の監査人の作業を査閲したことによって判明した作業の品質に関する懸念事項及びグループ監査人による当該懸念への対処方法

・グループ監査の範囲に関する制約(例.人や情報へのアクセス制限に関する重要な事項)

・不正または不正の疑い

 

<その他>

・グループ経営者及びグループ・ガバナンスに責任を有する者に対して識別されたグループの内部統制システムの不備を報告する必要があるかどうかの判断を行う

 

 

いかがでしょうか。従前の重要な構成単位に焦点を当てたアプローチからグループ財務諸表全体にリスクアプローチを適用するというアプローチに変わるため、これまで詳細な監査(手続)が行われていなかった構成単位や勘定科目に光が当たることも考えられます。このため、企業側(特に子会社)において、追加の監査対応等が必要になることも想定されるため、早い段階からグループ監査人と監査方針についての協議を行っておくことが望ましいのではないかと考えれらます。

 

なお、改正監基報600は、大規模監査法人では2024年4月1日以後開始する事業年度(3月決算会社の場合は、2025年3月期)、その他の監査法人では2024年7月1日以後開始する事業年度(3月決算会社の場合は2026年3月期)より適用されます。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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