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国際税務2022.01.26 日米租税条約における合同会社の利益配当に係る源泉

2021年11月に質疑応答事例が一部更新されました。

その中から国際関連の事例を紹介いたします。

 

また、2020事務年度の法人税等の税務調査の実績も公表されています。

コロナにより実地調査の件数は大幅に減少していますが、海外取引に関する否認の割合は増加している印象です。今後CRSを活用した調査はより活発になっていくことが想定されますので、海外取引のある法人・個人は対応を検討していくことをお勧めします。

 

1.照会要旨


 

A社は国内で小売業を行う合同会社であり、米国親法人の全額出資により設立された完全子会社です。

日米租税条約第10条第3項では、配当を支払う内国法人の「議決権のある株式の50パーセント以上」を米国法人が所有する場合には、この米国法人への配当については免税とされ、所得税の源泉徴収を行う必要がないとされています。

A社は合同会社であり株式を発行していないため、米国親会社は、当社の「議決権のある株式」を所有していません。
A社が米国親会社に支払う利益の配当は、配当免税条項の要件を満たさないと考えられますので、当社は当該利益の配当について所得税の源泉徴収をする必要があると解してよいのでしょうか。

 

〈日米租税条約10条3項〉

「当該配当の受益者が次に該当する場合には、当該配当を支払う法人が居住者とされる締約国においては租税を課することができない。

・他方の締約国の居住者であり、かつ、当該配当の支払を受ける者が特定される日をその末日とする十二箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の五十パーセントを超える株式を直接に所有する法人」

なお条文上の特定される日とは、期末配当の場合には事業年度終了の日、期中配当の場合にはその計算の対象となった臨時会計年度の終了の日である臨時決算日となります。

 

 

2.回答


 

A社が米国親会社に支払う利益の配当については、所得税の源泉徴収の必要はありません

 

日米租税条約(他の国との租税条約も概ね同様)において、親子会社間配当に対して一般の配当よりも軽減した税率や免税を設けているのは、課税の繰越を避け、二国間の直接的な投資交流(国際投資)の促進を図ることにあるためです。

 

この考え方からすると、配当免税条項における「議決権のある株式」の一定割合の所有についての要件は、親法人の子法人に対する支配関係を判定する基準として、親法人が子法人の意思決定権の一定割合を有していることを要求するものであると考えられます。これは、株式を通じて意思決定権を有する株式会社だけではなく、持分を所有することを通じて意思決定権を取得することができる合同会社にも該当するものと解されます。

 

また、合同会社の意思決定は、持分を有する社員の員数に基づいてなされるものとされていますので(会社法590条、591条)、配当免税条項における上記の考え方を踏まえると、米国親法人がその子会社である合同会社の業務執行権を有する社員の員数に占める割合で判定するのが相当と解されます。

 

したがって、本件のように合同会社である内国法人が米国親法人の完全子会社である場合には、社員が1人であり、その者が業務執行権を有する社員の100パーセントを占めることから、議決権のある株式の50パーセント以上を所有するという配当免税条項の要件を満たしていると考えられますので、所得税の源泉徴収をする必要はありません。

 

〈会社法590条〉

社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。

〈会社法591条〉

業務を執行する社員を定款で定めた場合において、業務を執行する社員が二人以上あるときは、持分会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、業務を執行する社員の過半数をもって決定する。この場合における前条第3項の規定の適用については、同項中「社員」とあるのは、「業務を執行する社員」とする。

 

なお、合同会社の場合についても親会社が租税条約の適用を受けるためには支払を受ける日の前日までに租税条約に関する届出書を提出する必要がありますので忘れないようにご注意ください。

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆