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国内税務2021.12.08 役員賞与が損金算入できる可能性が!?~事前確定届出給与~

中小、中堅企業で業績が良い場合に計上されれる「役員賞与」。

 

役員賞与が損金算入できる余地があるのに別表上加算処理をしており、かつ納税者の方がそのことをご存じないケースが散見されます。

 

今回は役員賞与が損金算入される可能性がある「事前確定届出給与」について確認したいと思います。
 
 

1.定期同額給与


 

「事前確定届出給与」の話をする前に、役員報酬に関する基礎知識「役員賞与」や「定期同額給与」について確認してみたいと思います。

中小・中堅の同族企業の役員報酬については、オーナー一族が任意に決めることが出来るケースが多く、役員賞与や、好きなタイミングでの役員報酬改定を認めると、課税上弊害(不公平)が生じることとなります。

 

例えば役員報酬を100ずつ支給していた株式会社Aが、業績好調につき利益が1,000(役員報酬計上前利益が2,200)出る見込みだとします。決算月に役員賞与を1,000支給すれば、利益はゼロとなるため、法人税は発生せず、結果として節税できてしまうこととなります。

 

役員賞与でなくても、決算月から遡って2ヶ月間の役員報酬を600ずつに昇給しても同様に利益はゼロとなるので節税できてしまいます。

 

そこで、任意のタイミングで大きな経費を捻出できる「役員賞与」や、恣意性の高いタイミングでの「役員報酬改定」については法人税法上損金(経費)として認められてこなかった歴史がありました。

 

この、「恣意性が高いタイミングでの役員報酬改定」に該当しない役員報酬のことを「定期同額給与」と呼ぶと思って下さい。

 

税法上、「定期同額給与」の改訂時期が定められており、「事業年度開始後3ヶ月以内(※1)」とされています。

(※1)株主総会が期末から3ヶ月を超えて開催される等やむを得ない場合は、事業年度開始後4ヶ月以内改定も認められるケースがあります。

 

税務調査では、定期同額給与に該当するかどうかを確認するため、株主総会議事録や取締役会議事録の提示を求めるケースが多いので不備無く保管しておくことが肝要です。

 

なお、定期同額給与は決算開始後3ヶ月以内(定時)に決定したら、期末までその支給額を維持する必要がありますが、定時以外の改定として、業績等の悪化による減額改定(※2)や、職掌変更等による増額改定(※3)が認められるケースもあります。

 

(※2)業績等の悪化による減額改定

財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じていれば、これも含まれることになります。
このため、例えば、次のような場合の減額改定は、通常、業績悪化改定事由による改定に該当することになると考えられます。
① 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
② 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
③ 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

 

(※3)職掌変更等に伴う増額改定

当該事業年度において法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定は「定期同額給与」と認められるため、例えば期中で代表取締役に就任されるケース等は、その就任のタイミングからの役員報酬改定が認められています。
 
 

2.事前確定届出給与とは


 

1,で述べたとおり、役員報酬の改定には厳密なルールが設けられており、また役員賞与は損金不算入(税法上経費に出来ない)と定められていますが、適正なタイミングで事前に支給することが決まっていた役員に対する一時金(役員賞与)については、きちんと手続きを踏めば損金算入が認められています。

これが『事前確定届出給与』制度です。

 

以下、ポイント毎に内容を説明します。

 

(1)事前に決まっていた役員賞与を支給すること

決算間際になって急に決めた役員賞与が税法上経費と認められない点は従来から変わっていません。

 

この事前確定届出給与は、「事前に決まっている」ことが必要で、それを証する意味合いで下記のいずれか早い日までに所定の届出書を所轄税務署長に提出する必要があります。

・期首から4ヶ月以内(3月決算なら7/31)

・株主総会等で役員報酬を決議した日から1ヶ月を経過する日(5/25決議なら6/25)

 

税務署に提出する届出書イメージは下記の通りです。

 

役員賞与を支給する人については、その人毎に明細を作成する必要があります。

 

(2)決議された役員賞与額を決定額・支給時期に支給すること

決議された役員賞与について、その決議通りに支給しないと損金不算入になります。

例えば3月決算で、7月と12月に100万円ずつ役員賞与を支給する旨の決議がなされ、同内容で届出が済んでいた場合で、7月は100万円支給したが、12月に誤って99万円支給したケースでは、12月賞与のみならず7月賞与も含めた199万円(100万円+99万円)が損金不算入となります。

また、7月は予定通り100万円支給したが、2回目の賞与を誤って1月に支給したケースでは、200万円(100万円+100万円)損金不算入となるので要注意です。

 

上記に届出書のイメージを貼っていますが、その支給額・支給日について明示させられることが分かっていただけると思います。

 

なお、届出はしたが実際には全く支給しなかった場合はどうなると思いますか。

例えば上記の例で、7月100万円・12月100万円支給で届け出ていた場合、業績が芳しくなく、7月・12月共に支給を取り止めた場合も200万円(100万円+100万円)損金不算入となるのでしょうか?

このケースは、そもそも役員賞与の支給が全く無く、加算対象となる経費がないので、結果として損金不算入額はゼロ円となります。そもそも経費処理していないので損得ナシ、と理解して下さい。
 
 

3.まとめ


 

冒頭で述べましたが、確定決算において役員賞与引当金(又は未払役員賞与)を計上(引当金や未払金は加算留保)し、翌期の支給年度において加算流出(引当金や未払金は認容減算)処理されているケースが散見されるように思います。

 

このように、決算時点で翌期に支払う役員賞与額が確定しているケースはもとより、決算後の株主総会で翌年の役員報酬を定める際に、その一部を役員賞与として支給する場合があると思います。

そのような場合は、「事前確定届出給与」の適用を検討されては如何でしょうか。

 

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あすか税理士法人

【国際税務担当】高田和俊

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