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国際税務2023.05.03 国際税務の基礎⑩~非居住者が課税される国内源泉所得その8(給与・報酬・年金)~

前回の工業所有権等の使用料は租税条約と国内法の取り扱いで異なるケースがあり、また、国によって対象資産の範囲にばらつきがあるので実務上はよく判断に迷います。事例毎に判断することをおすすめいたします。

今回は給与、報酬、年金の取り扱いについて解説します。
旅費、宿泊費については認識不足から給与に含まれることを失念するケースが散見されることから、対象となる範囲はしっかり確認しましょう。

 

1.国内源泉所得となる給与等


 

次の所得は国内源泉所得に該当します。
1)給与等

俸給,給料,賃金,歳費,賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち,国内において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するもの。ただし,内国法人の役員としての勤務で海外において行うもの(当該役員としての勤務を行う者が同時にその内国法人の使用人として常時勤務を行う場合の当該役員としての勤務を除く。)及び居住者又は内国法人が運航する船舶又は航空機において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するものは,国内源泉所得に含まれます(所得税法施行令285条)。

 

2)公的年金等
公的年金の範囲は所得税法35条3項に規定されていますので、そちらをご参照ください。

ただし,外国の法令に基づく年金は国内源泉所得の範囲から除かれます

 

3)退職手当等
その支払を受ける者が居住者であった期間に行った勤務その他の人的役務の提供に基因するもの。
ただし,上記1)のただし書の勤務又は人的役務の提供で当該勤務等を行う者が非居住者であった期間に行ったものに基因するものは,国内源泉所得に含まれます。

 

2.旅費、滞在費等の取り扱い


 

人的役務提供事業の通達に次の規定があります。
人的役務提供事業の対価には非居住者が人的役務を提供するために要する往復の旅費、国内滞在費等の全部又は一部を当該対価の支払者が負担する場合におけるその負担する費用が含まれる(所得税基本通達161-19)。

 

この規定は給与、報酬にも準用され、違う表現をすると、国内源泉所得の対象となる人的役務の提供に対する報酬には,その報酬の支払者から航空会社,ホテル,旅館等に直接支払われ,かつ,その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内であるときは,その範囲内の往復の旅費,交通費等として支払う金銭を含まないくてよいこととされています(所得税基本通達161-40)。

 

 

3.勤務等が国内と国外の双方で行われる場合


 

非居住者の方は日本国内と日本国外の双方で勤務することも珍しくありません。
この場合の国内勤務部分の算定方法が所得税基本通達161-41において次のように規定されています。

国内において行った勤務又は人的役務の提供に係る部分の金額は,国内における公演等の回数,収入金額等の状況に照らしその給与又は報酬の総額に対する金額が著しく少額であると認められる場合を除き,次の算式により計算するものとする。

 

給与・報酬の総額 ✖ 国内に行った勤務又は人的役務提供の期間 ➗ 給与又は報酬総額の計算基礎となった期間

 

注)国内において勤務し又は人的役務を提供したことにより特に給与又は報酬の額が加算されている場合等には,上記算式は適用しないものとする。

 

 

4.使用人として常時勤務するとは


 

1)海外支店の支店長など
上記1のカッコ書きに規定する内国法人の使用人として常時勤務を行う場合とは、内国法人の役員が内国法人の海外にある支店の長として常時その支店に勤務するような場合をいい,例えば,非居住者である内国法人の役員が,その内国法人の非常勤役員として海外において情報の提供,商取引の側面的援助等を行っているにすぎない場合は,これに該当しないとされています(所得税基本通達161-42)。
つまり、海外支店長などとして常時勤務しない限り、内国法人の役員報酬についてはすべて国内源泉所得に該当すると考えることが妥当となります。

 

2)海外子会社に常時勤務する場合
次の要件をすべて満たす場合は使用人として常時勤務する内国法人の役員となります(所得税基本通達161-43)。

①その子会社の設置が現地の特殊事情に基づくものであって,その子会社の実態が内国法人の支店,出張所と異ならないものであること。

 

②その役員の子会社における勤務が内国法人の命令に基づくものであって,その内国法人の使用人としての勤務であると認められること。

 

つまり、実質的に海外支店の支店長と同様と認められるケースのみ、内国法人から支給される役員報酬が国内源泉所得から除かれることとなります。
現地の法令で海外法人の支店設置が認められないケースなどは認められることになります。

 

 

いかがでしょうか。
給与、報酬で重要となるのは、旅費等の取り扱い、国内勤務期間の算定方法が挙げられます。
なお上記に加え、使用人については海外勤務部分は国内源泉所得にならず、役員については海外勤務部分も国内源泉所得となることから、内国法人の役員が海外で勤務する場合は現地で使用人としての地位で業務を行っているかどうかも合わせて確認するようにしてください。

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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