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国際税務2022.11.09 国際税務の基礎⑤~非居住者が課税される国内源泉所得その3(人的役務提供)~

前々回(恒久的施設帰属所得)前回(国内資産)に引き続き非居住者が課税される国内源泉所得について紹介してきました。
今回は文言から勘違いすることが多い「人的役務提供事業から生じる所得」について解説していきます。

 

1.人的役務提供事業とは


 

自ら人的役務を提供するのではなく、自分と雇用関係にある者や自己に専属する者などの、他人による人的役務の提供を行うことに対する対価を受け取る事業をいいます。

 

自ら人的役務提供を行ったことによる対価は報酬・給与等に区分され、人的役務提供事業とは別の取り扱いとなります。

例えば、外国の芸能法人がアーティスト等を日本へ派遣して対価を受け取る、
IT関連のソフトウェアの利用に係る研修などを外国法人に委託し、その対価を外国法人へ支払うといった事業が該当します(研修は外国法人から派遣された者が行う)。
コンサルタント、先進的技術や知的業務の提供・支援、専門的人材派遣など、高付加価値の人的役務を提供する事業をイメージしてください。

 

2.人的役務提供事業の取り扱い


 

(1)国内源泉所得
人的役務提供事業については、法人税法138条1項4号において、「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う法人が受ける当該人的役務の提供に係る対価は,国内源泉所得に該当する」と定めらています。
さらに、人的役務提供を主たる内容とする事業の具体例として、法人税法施行令179条において次の3つが挙げられています。
① 映画若しくは演劇の俳優,音楽家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供を主たる内容とする事業(芸能法人等)
② 弁護士,公認会計士,建築士その他の自由職業者の役務の提供を主たる内容とする事業(監査法人等)
③ 科学技術,経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者のその知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業(コンサルタント会社等)

 

上記の人的役務の提供事業は,あくまでもそれぞれの人的役務の提供を主たる内容とする事業でなければならず、その人的役務の提供がその法人の事業にとって主たる内容でない場合には,人的役務提供事業からは除外されます。

なお,③に掲げた科学技術等の提供を主たる内容とする事業については,機械設備の販売その他事業を行う者の主たる業務に附随して行われる場合における専門的知識又は特別の技能を活用して行う役務の提供事業のほか,建設又は据付けの工事の指揮監督の役務の提供を主たる内容とする事業も人的役務の提供事業には該当しないこととされています。

すなわち,機械設備の販売等のアフター・サービスや,建設工事の指揮監督などについては,たとえそれが「人的役務の提供を主たる内容とする事業」であつても,所得税の源泉徴収の対象とはなりません。

 

(2)源泉徴収
国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受けるその人的役務提供に係る対価は,所得税法において国内源泉所得とされ,源泉徴収の対象となると規定されています。(所得税法212条1項)。

 

非居住者が行う人的役務提供については所得税基本通達161-21において、「人的役務の提供を主たる内容とする事業」とは,非居住者が営む自己以外の者の人的役務の提供を主たる内容とする事業又は外国法人が営む人的役務の提供を主たる内容とする事業で令第282条各号に掲げるものをいうとされています。
なお、国内において人的役務の提供を行う者の事業が人的役務の提供を主たる内容とする事業に該当するかどうかは,国内における人的役務の提供に関する契約ごとに,その契約に基づく人的役務の提供が所得税法施行令第282条に掲げる事業に該当するかどうかにより判定するとされています。
所得税法施行令282条の内容は上記(1)と概ね同様とご理解ください。

 

また、所得税基本通達161-20において、国内において人的役務の提供を行う者の事業が人的役務の提供を主たる内容とする事業に該当するかどうかは,国内における人的役務の提供に関する契約ごとに,その契約に基づく人的役務の提供が所得税法施行令第282条に掲げる事業に該当するかどうかにより判定するものとするとされています。
すなわち、上記(1)で記載したように人的役務提供に該当したとしても、その人的役務提供が主たる事業に付随する補助的なものである場合は除外されます。

 

3.租税条約の取扱い


 

租税条約の多くは国内法とは異なった取扱いをしており,人的役務の提供事業の対価を「企業の利得」又は「産業上又は商業上の利得」としてとらえています。
そのような条約の場合には,国内に有する恒久的施設を通じて事業を行わない限り,原則として,日本の租税は免除されることとなります。
なお,人的役務提供事業の中でも芸能人又は運動家の役務提供事業の対価については,恒久的施設の有無にかかわらず役務提供地国において課税することとしている条約があるので、新たに取引を行う場合は租税条約を確認するようにしてください。

 

〈その他参考規定〉
法人税基本通達20-2-12(機械設備の販売等に付随して行う技術役務の提供)
令第179条第3号⦅人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲⦆に掲げる「科学技術,経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者の当該知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業」から除かれる「機械設備の販売その他事業を行う者の主たる業務に付随して行われる場合における当該事業」とは,次に掲げるような行為に係る事業をいう。
(1) 機械設備の販売業者が機械設備の販売に伴いその販売先に対し当該機械設備の据付け,組立て,試運転等のために技術者等を派遣する行為
(2) 工業所有権,ノウハウ等の権利者がその権利の提供を主たる内容とする業務を行うことに伴いその提供先に対しその権利の実施のために技術者等を派遣する行為

 

法人税基本通達20―2―10(旅費、滞在費等)
人的役務の提供に係る対価の支払者がその人的役務を提供する者の往復の旅費,国内滞在費等の費用を負担する場合には,その負担する費用もその対価に含めることを要する。
ただし,その費用として支出する金銭等が,人的役務を提供する者に対して交付されるものでなく,その対価の支払者から航空会社,ホテル,旅館等に直接支払われ,かつ,その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときは,この限りでない。

法人税基本通達20―2―11(芸能人等の役務の提供に係る対価の範囲)
人的役務の提供事業の対価には,国内において当該事業を行う外国法人が当該芸能人又は職業運動家の実演又は実技,当該実演又は実技の録音,録画につき放送,放映その他これらに類するものの対価として支払を受けるもので,当該実演又は実技に係る役務の提供に対する対価とともに支払を受けるものが含まれる。

 

法人税基本通達20―2―15(損害賠償金等)
人的役務の提供事業の対価には,当該対価として支払われるものばかりでなく,当該対価に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するもの(その支払が遅延したことに基づく遅延利息等に相当する金額を含む。)も含まれる。

 

所得税基本通達161―21 (人的役務の提供を主たる内容とする事業の意義)
所得税法第161条第1項第6号に規定する「人的役務の提供を主たる内容とする事業」とは,非居住者が営む自己以外の者の人的役務の提供を主たる内容とする事業又は外国法人が営む人的役務の提供を主たる内容とする事業で令第282条各号に掲げるものをいうことに留意する。
したがって,非居住者が次に掲げるような者を伴い国内において自己の役務を主たる内容とする役務の提供をした場合に受ける報酬は,法第161条第1項第6号に掲げる対価に該当するのではなく,同項第12号イに掲げる報酬に該当する。
(1) 弁護士,公認会計士等の自由職業者の事務補助者
(2) 映画,演劇の俳優,音楽家,声楽家等の芸能人のマネージャー,伴奏者,美容師
(3) プロボクサー,プロレスラー等の職業運動家のマネージャー,トレーナー
(4) 通訳,秘書,タイピスト

 

 

あすか税理士法人

【国際税務担当】街 有帆

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