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国内税務2023.03.29 令和5年3月決算法人から適用!大企業向け「賃上げ促進税制」のポイントとは?

1.はじめに


 

令和4年4月1日開始事業年度以降適用される「賃上げ促進税制」。令和5年3月決算法人はいよいよ決算間近、ということで大企業向け「賃上げ促進税制」のポイントをお伝えしたいと思います。

中小企業向け「賃上げ促進税制」については、過去のブログで取り上げておりますので、是非こちらもチェックしてみてください。

 

税額控除の上乗せ!教育訓練費について解説! ~賃上げ促進税制(※旧 所得拡大促進税制)~

 

 

2.大企業向け「賃上げ促進税制」の要件


 

この税制は、賃上げや人材育成への投資を積極的に行う企業に対し、雇用者給与等支給額の前事業年度からの増加額の一定割合を、法人税額又は所得税額から控除するものです。企業が得た収益を従業員に還元する、賃上げの促進が目的とされています。

前事業年度より、従業員の給与や賞与の賃上げを実行された会社は是非押さえておきたい税制です。従前の「人材確保等促進税制」の要件からの変更点も含め、注意が必要な点を取り上げたいと思います。

 

【対象法人】

対象となるのは、青色申告書を提出する全企業です。ただし、次の中小企業者等に該当する場合には中小企業向け「賃上げ促進税制」とどちらか一方のみの選択適用となります。

 

※中小企業者等

・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(大規模法人の出資を受ける法人は出資割合により判定が必要)、資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

・常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

・協同組合等

 

※判定の時期

資本金等や従業員数については適用事業年度終了の日で判定を行いますので、減資や増資をされた場合はご注意ください。

 

【適用要件と税額控除】

では、どのような場合に税額控除を受けられるのでしょうか。

下記の通常要件を満たし、さらに一定の要件を満たした場合には上乗せで税額控除を受けることができます。

 

①通常

《要件》

継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より3%以上増えていること

(資本金10億円以上かつ従業員数が1,000人以上の企業については、マルチステークホルダー方針を公表しておく必要あり)

 

《税額控除》

控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除

(法人税額又は所得税額の20%が税額控除上限額)

 

②上乗せ要件(いずれか一方のみの適用や併用も可)

継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より4%以上増えていること

税額控除率をさらに10%上乗せ

 

・教育訓練費の額が、前事業年度より20%以上増えていること

税額控除率をさらに5%上乗せ

 

上記2つの上乗せ要件は併用することができるため、最大の税額控除率は30%となります。ただし、法人税額又は所得税額の20%が税額控除上限額となります。

 

継続雇用者給与等支給額とは、前事業年度及び適用事業年度2期の全期間において国内で雇用していた者(使用人兼務役員や役員の特殊関係者は除く)に支給した給与等の支給額を言います。給与等には退職金など、給与所得とならないものは、原則として含みません。なお、継続雇用者は雇用保険の一般被保険者であり、高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象者は除かれます。また、グループ通算制度を適用している場合であっても、要件の判定や税額控除の額については、それぞれ単体の法人毎に行います。

 

言葉が複雑であるため、改めて用語の整理をすると下記の通りです。

 

継続雇用者給与等支給額(適用要件に当てはまるかどうかの判定に必要)

継続雇用者に対する給与等の支給額の合計額

継続雇用者は、前事業年度及び適用事業年度の全ての月分の給与等の支給を受けており、前事業年度及び適用事業年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者(継続雇用制度に基づき雇用されている者ではない者)であることが要件

 

・雇用者給与等支給額

全ての国内雇用者に対する給与等の支給額の合計額であり、継続雇用者に限定しない。

その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には控除する(ただし、雇用安定助成金(※)については控除不要)

※雇用安定助成金:雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、緊急雇用安定助成金

 

控除対象雇用者給与等支給増加額(税額控除額を求める際に必要)

雇用者給与等支給額から前事業年度における雇用者給与等支給額を控除した額

ただし、調整雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額から雇用安定助成金を控除した額の前事業年度から適用事業年度の増加額)が上限

 

継続雇用者給与等支給額の判定とは異なり、税額控除額を求める際には雇用保険の一般被保険者や継続雇用制度の対象者についての要件の制限はありません。

また、税額控除額を算定する際、控除対象雇用者給与等支給増加額は雇用安定助成金を控除する必要はありませんが、控除対象雇用者給与等支給増加額の上限として調整雇用者給与等支給増加額設けられています。これは、賃上げの要因が雇用安定助成金である場合を除くためであると考えられます。

 

 

3.「人材確保等促進税制」からの変更点


 

従前の「人材確保等促進税制」は、新規雇用者給与等支給額が全事業年度より2%以上増加しているかどうかが要件でしたが、新規雇用者の給与等ではなく、2期全期間に所属していた従業員の給与をピックアップし、その増加額を比較するという点では事務的負担は増えたように感じます。採用に力を入れた企業ではなく、あくまで既存の従業員の賃上げを行ったかどうかに着目しているのが特徴といえます。

また、税額控除率については、通常要件の場合には15%の控除率、上乗せ要件のうち教育訓練費については20%の控除率という点では「人材確保等促進税制」と変わりありません。もう一つの上乗せ要件である、継続雇用者給与等支給額、前事業年度より4%以上増えている場合にはさらに10%の控除が受けられるとういう点と、上乗せ要件はどちらか一方の適用や併用での適用も可能である点は押さえておくべきポイントです。

 

 

 

4.まとめ(決算にむけて)


 

全体賃金のベースアップを行った企業は本税制の適用の対象となる可能性があるため、決算に向けて次の手順を踏むと良いのではないでしょうか。

 

・適用事業年度(決算期)と前事業年度の2期を通して在籍している従業員をピックアップ(継続雇用制度の対象である従業員は除いておく)

・ピックアップした従業員の「給与等支給額」の前事業年度からの給与等支給額の増加額を算出

⇒前事業年度と比較し、3%以上アップしていれば適用アリ

・適用事業年度や前事業年度において雇用安定助成金(雇用調整助成金等の雇用安定のため国や地方公共団体から受ける助成金)がある場合には金額を集計

・3%以上の賃金のベースアップを行っていることが確実な場合には教育訓練費の集計(期中から、教育訓練費の対象となるような支出については整理をしておくことをオススメします)

 

教育訓練費については上記で紹介したブログで詳しく取り上げておりますので、併せてご確認ください。

 

あすか税理士法人

【スタッフ】中村麻侑子