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会計制度2023.09.06 JICPA「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を公表

2023年8月、日本公認会計士協会(JICPA)は「財務報告に係る内部統制の監査」(財務報告内部統制基準書第1号、以下「改正内基報第1号」)の改正を公表しました。今回は、この内容について、ご説明します。

 

 

1.改正の背景


 

既に、このブログでも、企業会計審議会内部統制部会から「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」が公表されたことを取り上げましたが、その改訂内容に対応した改正が行われています。

 

※財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準・実施基準の改訂内容については、以下の記事も是非お読みください。

企業会計審議会 内部統制報告制度の改訂を公表(2023年5月17日)

企業会計審議会 内部統制報告制度の改訂案を公表(2023年1月25日)

 

また、その他の監査基準報告書(重要な虚偽表示リスクの識別・評価やグループ監査における特別な考慮事項)の改正内容との整合性を図る改正も行われています。

 

 

2.改正のポイントは?


 

「1.改正の背景」でも述べたように、改正の内容の多くは、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準・実施基準の改訂内容に沿ったものとなっていますが、一部内部統制評価の実務に影響を与えるのではないかと思われる改正もありましたので、その点を中心に触れてみたいと思います。

 

(1)内部統制の評価範囲について

 

全社的な内部統制や全社的な観点から評価することが適切な決算・財務報告プロセスの評価範囲

 

財務報告に対する影響の重要性から評価を行わない事業拠点を設ける場合には、経営者(企業)が、必要に応じて監査人と協議するべきものであり、特定の比率(筆者注.いわゆる5%ルールを指しているものと思われます)を機械的に適用すべきものではないことに留意することとされています。

 

重要な事業拠点の選定

 

財務諸表監査ではアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価に基づいて、監査の作業を実施する構成単位に対してリスク対応手続を実施する一方、内部統制監査では経営者(企業)が内部統制評価基準に従って重要な事業拠点を選定し、選定した事業拠点における業務プロセスに対して内部統制監査手続を実施することになります。

 

このように、財務諸表監査と内部統制監査において、監査手続が行われる事業拠点(構成単位)は、必ずしも一致するものではありませんが、重要な虚偽表示リスクを潜在的に有するという点では共通しているため、両者の評価対象の決定手法は異なるものの、監査人は一体監査の効果的かつ効率的な実施の観点から、両者の関係には留意する必要があるとされています。

 

また、付録7として、重要な事業拠点の選定方法に関する参考例が、改正前よりも様々なパターン分けで説明されています。この点については、「3.重要な事業拠点の選定方法に関する参考例」で詳しく触れます。

 

全社的な内部統制に良好でない項目がある場合には、その評価結果を踏まえ、

・関連する事業拠点を重要な事業拠点として選定する方法

・良好でない項目の影響を受ける事業拠点の業務プロセスを追加する方法

などが考えられるとされています。

 

評価範囲外の事業拠点や業務プロセスから開示すべき重要な不備が識別された場合

 

この場合、当該事業拠点や業務プロセスについて、少なくとも当該開示すべき重要な不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切であるとされましたが、評価範囲に含める対象とした事業拠点や業務プロセスについて、時間的制約により経営者による評価が不可能な場合は、内部統制監査上は監査範囲の制約(監査が行えなかった領域)として取り扱うこととされています。

 

 

(2) 全社的な内部統制の評価の検討について

 

全社的な内部統制の整備・運用状況の評価にあたり、事業拠点への往査や他の監査人を利用するかどうかについて、改正前は重要な虚偽表示の発生するリスクが高い場合とされていましたが、重要な虚偽表示の発生するリスクを考慮して決定することとされています。

 

 

(3) 内部統制監査における他の監査人の利用について

 

内部統制監査における他の監査人の利用については、監査基準委員会報告書600の内容を踏まえた留意事項が示されていますが、その内容に重大な懸念事項がある場合には、他の監査人を関与させることなく、十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならないことが明示されています。

 

 

3.重要な事業拠点の選定方法に関する参考例


 

「2.改正のポイントは?」でも述べたように、改正内基報第1号では、重要な事業拠点の選定方法に関する事例の説明が大幅に加筆されています。詳しくは、改正内基報第1号の内容をご確認頂きたいと思いますが、重要な事業拠点の選定に関して、参考となる考え方が示されているものと思われます。

 

・売上高を設定指標として、売上高の大きい順に重要な事業拠点を選定しているが、事業分野が主力分野と異なっていたり、海外子会社である点を考慮して、一部売上高の小さな子会社を重要な事業拠点として選定している例(設例1)

 

・売上高を選定指標として、売上高の大きい順に重要な事業拠点を選定した結果、一定の水準に達したが、全社的な内部統制に良好ではない項目があった子会社を追加して重要な事業拠点に選定している例(設例2)

 

・売上高に加えて売上原価を選定指標とすることによって、製造子会社(売上高は100%グループ会社向け)を重要な事業拠点に選定している例(設例3)

 

・売上高の計上において、総額で計上している会社(本人取引)と純額で計上している会社(代理人取引)が混在しているため、売上総利益を選定指標としている例(設例4)

 

・売上高に加えて税引前売上総利益を選定指標とすることによって、売上高の構成割合は高くないものの税引前売上総利益の構成割合が高い子会社(高い収益率の会社)を重要な事業拠点に選定している例(設例5)

 

 

以上のように、売上高の大小だけに囚われずに、リスクアプローチの考え方で重要な事業拠点を選定する必要性があると考えられます。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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