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会計制度2022.03.16 JICPA「監査上の主要な検討事項(KAM)の適用2年目に向けて」を公表

3月に入り、暖かさが感じられる日も増えてきました。3月決算会社の皆様におかれては、期末に決算に向けた準備も進んでいることと思います。今日は、日本公認会計士協会(JICPA)が公表した「監査上の主要な検討事項(KAM)の適用2年目に向けて」の内容について整理してみたいと思います。

 

 

1.監査上の主要な検討事項(KAM)とは?


 

まずは、監査上の主要な検討事項(以下、KAM)の内容についておさらいしてみたいと思います。詳しい内容については、このブログでも取り上げておりますので、そちらもご参照ください。

・監査上の主要な検討事項(KAM)とは?

・JICPA 監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用事例分析レポートを公表

 

KAMは、当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項のことであり、①その内容、②KAMとして選ばれた理由、③監査におけるKAMへの対応状況を監査報告書に記載することが求められています。

 

KAMが監査報告書に記載されることによって、①監査の品質を評価するための新たな検討材料が提供される、②財務諸表そのものや監査に対する理解が深まる、③監査人と経営者や監査役等との対話が促進され、コーポレートガバナンスの強化やリスク認識の共有が図られるといった効果が期待されています。

 

 

2.適用初年度のKAMの記載状況について


 

適用2年目の留意事項のお話に入る前に、適用初年度の状況はどのようなものであったのかを確認しておきたいと思います。日本公認会計士協会(JICPA)は、「「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート」を公表しています。

 

強制適用初年度の総括としては、KAMの内容を想起させるような端的な小見出しが付されており、その記載内容も概ね平易かつ丁寧な記載がなされていたと一定の評価がある一方で、KAMが財務諸表利用者にとって有意義な記載となるように、継続的な記載の改善に努める必要があるとされており、具体的には、以下の点が指摘されています。

 

KAMを決定した理由の明確化は、KAMに対する監査人の対応状況の記載を改善することの方策の1つである。

※KAMを決定した理由が財務諸表の注記の写しのようになっていたり、監査人の対応状況について会社ごとの違いが分かりにくかったり、記載が簡素であるといった指摘があったようです。

 

小見出しにKAMの範囲を特定できる固有名詞や、監査人がKAMであると判断した根拠等を端的に示すような用語を含めることは有用である。

※範囲を特定できる固有名詞とは、「○○事業の」や「○○社の」という枕詞を入れることで、KAMの対象をより明確に判断できるという意味かと思われます。また、監査人がKAMであるとした根拠等を端的に示すような用語とは、「のれんの評価の妥当性」というように監査要点をより明確に示すという意味かと思われます。

 

財務諸表の注記を上手く活用することによって、KAMの内容及び決定理由を簡潔で分かりやすく記載することができる。

 

前期からのKAMの変化に関する記載は、財務諸表利用者にとって有益になる。(前期から追加・削除したKAMの小見出しや追加・削除した理由の記載を行うことが考えられる。)

 

KAMの監査報告書への記載においては、いわゆるボイラープレート化の懸念が指摘されています。このボイラープレート化には、①どの会社も記載内容が同じ(ヨコのボイラープレート化)と②毎年記載内容が同じ(タテのボイラープレート化)の2つが考えられますが、強制適用初年度においては、一部を除いて、ヨコのボイラープレート化の状況は避けられていたようです。

 

 

また、日本証券アナリスト協会は、「証券アナリストに役立つ監査上の主要な検討事項(KAM)の好事例集」を公表しています。この中で、証券アナリストの皆さんにとってのKAMの利用価値が以下のように整理されています。

 

①監査の品質について一定の判断材料が得られること

証券アナリストが虚偽表示リスクが高いと考えている領域がKAMに選定されているかを確認することなどにより、監査の品質について一定の判断材料を得ることが可能となる。また、KAMの記載は、会社として適切に会計監査人を選任しているか、監査役等との連携が適切に行われているかといったガバナンス評価に活用することができ、議決権行使時には、会計監査人の選解任等に関する議案の判断にも活用できる。

 

②会社のリスクをより良く理解できるということ

KAMで記載された事項は、既に株式市場においては織り込み済みかもしれないが、ガバナンスの観点から監査人と監査役等がどのようなリスク認識を共有しているかを把握することが可能となる。

 

③会計上の見積り等について、証券アナリストとは別の観点から監査人がチェックすることにより、重要な参考意見となること

のれん、貸倒引当金、収益認識などの会計上の見積りが業績に与えるインパクトが大きくなっている中で、監査人による具体的な監査手続が示されることは、証券アナリストの財務分析においても有用な情報となる。

 

 

3.KAMの適用2年目に向けて


 

このような状況を受けて、日本公認会計士協会(JICPA)が公表した「監査上の主要な検討事項(KAM)の適用2年目に向けて」では、KAM適用2年目にあたり留意すべき点として、以下の4つの項目が挙げられています。

 

・会社の状況によっては、前年度と同一の項目をKAMとして記載するケースもあると考えられるが、その場合においても、項目選定や記載内容が当年度においても適切かどうか、前年度からのリスクの変化に注意する。

 

・KAMとして記載する内容には一般的な要因だけではなく、当年度の事業内容や事業環境に紐付いた各会社固有の要因を含めた具体的な記載を心がける。

 

・2022年3月期より適用される収益認識基準の影響が大きく複雑性を伴う場合には、監査上の重要論点となるため、KAMとするかどうか十分な検討が必要である。

 

・KAMの検討の際には、財務諸表の注記が十分であるかどうかについても注意が必要である。(KAMに含まれている会計上の見積り項目が財務諸表の注記に記載されていない場合やKAMにおいて記載されている会計上の見積りにおける重要な仮定が財務諸表の注記の記載内容に反映されていないような場合)

 

上記の他にも、KAMの個数の問題(強制適用初年度のKAMの平均個数は1.3個であり、少ないのではないかという指摘)やKAMの株主総会前における開示(有価証券報告書の株主総会前の開示や会社法監査報告書へのKAMの記載)についても、適用2年目にどのような動きがあるのか、注目されるところです。

 

<参考資料>
「INTERVIEW KAMの価値を高めるため監査人は工夫を~KAM2年目を前に~」(経営財務3546号、2022年3月7日、税務研究会)

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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