お問い合わせ

BLOGブログ

国際税務2019.10.02 非居住者役員に支払う退職金~日本での課税~

最近は海外居住の役員がいらっしゃる会社も増えていると思います。

そこで今回は、海外居住の役員(非居住者役員)に対する退職金について、日本の所得税の課税方法を確認したいと思います。

 

役員に対する退職金の説明をする前に、まずは従業員に対する退職金の取扱いについて説明致します。

 

 

日本の会社(内国法人)に在籍するAさんは日本本社に20年勤務した後、海外支店へ転勤となりその後10年間海外勤務し、このたび海外で退職金として3,000万円を受け取ることになりました。この場合の日本における課税はどうなるのでしょうか?

 

Aさんは日本における非居住者として取り扱われることになります。非居住者に退職金を支払う場合には、その支払いを行う際、会社は国内勤務対応期間分の収入に対して20.42%の税率により源泉徴収(支給額より天引き)を行う義務があります。

 

【源泉徴収額の計算】

3,000万円 x 20年(国内勤務)÷30年(在籍期間)= 2,000万円(課税対象額)

2,000万円 x 20.42% = 408.4万円(源泉徴収額)

 

一方で、例えばAさんが居住者であったと仮定すると

{3,000万円-1,500万円(退職所得控除)}x 50% =750万円(課税対象額)

750万円 x 23% - 63.6万円 = 108.9万円(源泉徴収額)

 

と、居住者・非居住者であるかによって約300万円の税金が変わってくることとなります。

 

同じ退職金として受給するのに、住んでいる場所によって大きく税金が異なる。

著しく不公平ですよね。

 

そこで国では救済措置を設けています

源泉徴収は上記のように行われますが、非居住者であるAさんは「退職所得の選択課税」の適用を受けることにより、退職金を受領した翌年の1月1日以後に確定申告を行うことで、居住者並みの税金まで既に納付した税額の還付手続きを受けることができます。

 

【所得税法 第171条】(退職所得についての選択課税)

第169条(課税標準)に規定する非居住者が第161条第1項第12号ハ(居住者として行つた勤務に基因する退職手当等)の規定に該当する退職手当等(第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等をいう。以下この節において同じ。)の支払を受ける場合には、その者は、前条の規定にかかわらず、当該退職手当等について、その支払の基因となつた退職(その年中に支払を受ける当該退職手当等が二以上ある場合には、それぞれの退職手当等の支払の基因となつた退職)を事由としてその年中に支払を受ける退職手当等の総額を居住者として受けたものとみなして、これに第30条及び第89条(税率)の規定を適用するものとした場合の税額に相当する金額により所得税を課されることを選択することができる。

 

税金の還付手続きを行う際に必要な税額計算は居住者と同じ方法で、退職所得控除額(勤続年数による)を退職金から差し引いた額の50%に対し申告分離課税により行います。

 

【所得税法 第173条】(退職所得の選択課税による還付)

第169条(課税標準)に規定する非居住者がその支払を受ける第171条(退職所得についての選択課税)に規定する退職手当等につき次編第5章(非居住者又は法人の所得に係る源泉徴収)の規定の適用を受ける場合において、当該退職手当等につき同条の選択をするときは、その者は、当該退職手当等に係る所得税の還付を受けるため、その年の翌年一月一日(同日前に同条に規定する退職手当等の総額が確定した場合には、その確定した日)以後に、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出することができる。

一  前条第二項第一号に掲げる退職手当等の総額及び所得税の額
二  前条第二項第二号に掲げる所得税の額
三  前号に掲げる所得税の額から第一号に掲げる所得税の額を控除した金額
四  前条第二項第四号及び第五号に掲げる事項その他財務省令で定める事項

2 前項の規定による申告書の提出があつた場合には、税務署長は、同項第三号に掲げる金額に相当する所得税を還付する

 

還付される所得税を受領する際、税務署から通知がくるため国内の連絡先や国内に還付口座が必要となりますが、そのような場合には納税管理人を選任することになります(弊社は納税管理人となり納税事務の代行を行うことができます)。

 

なお、退職金にかかる住民税は他の所得に対する住民税の課税方法(前年度所得に対して課税する方法)と異なり、現年課税(現年度所得に対して課税する方法)がとられていますが、退職金を受ける年の1月1日現在、日本国内に住所を有しない場合には住民税は課税されません。

 

Aさんの場合には退職金を受領した年の1月1日現在は海外に居住していますので日本国内に住所を有しないことになり住民税は課税されないことになります。

 

要約すると、

非居住者は日本居住期間相当額の退職金について20.42%税金を天引き

その後、手続きを踏めば居住者と同等の退職金メリット(減税)が受けられる

となります。

 

 

では、本題の非居住者役員に対する退職金はどうでしょうか?

 

所得税の取り扱いは従業員退職金も役員退職金も原則同じ取り扱いとなりますが「租税条約」の取り扱いを確認することが大切となります。

 

一般的に、租税条約には「退職金」についての明文規定はありません。

 

退職金は給与の一形態(退職に基因して支払われる給与)であることから、年金条項やその他所得条項(明示なき所得条項)の適用はなく、役員報酬条項を適用することとなります。

 

例として、日米租税条約を見てみましょう。

【日米租税条約 第十五条】

一方の締約国の居住者(アメリカ居住者)が他方の締約国の居住者である法人(日本法人)の取締役会の構成員の資格で取得する報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国(日本)において租税を課することができる。

 

日米租税条約によると、日本非居住者役員に対する、日本法人から支給される退職金については、日本が課税できることとなります。

租税条約にそれ以上の規定がないので、あとは日本の法律に従って課税計算することとなります。

 

日本の法律(所得税法)では、非居住者に対する役員報酬は、国内勤務・国外勤務の区分無くその全額に対して20.42%課税されるのがポイントです。非居住者従業員に対する退職金に係る源泉税額計算であった「国内勤務対応期間分」の概念が無く、課税範囲が広くなります

その上で、従業員に認められている救済措置は役員も使えるので、結果として最初に述べた従業員と同様の所得税負担を実現することは可能です。

 

日本非居住者だから税金を課税されない、とか、20.42%で課税されて救済措置なし、と謝った判断をしないように注意してくださいね。