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会計制度2020.05.06 新型コロナウイルス感染症に関連する決算・監査のポイント

新型コロナウイルスの感染が拡大しており、これが企業の決算・監査に重大な影響を与えると考えられることから、日本公認会計士協会では監査上の留意事項を公表しています。

3月決算会社におかれては、決算確定に向かっての大事な時期に差しかかると思われますが、決算を確定させる上で特にポイントとなりそうな点をまとめてみました。

 

 

 

1.会計上の見積りのを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方

 

決算を行う上で、最も影響が大きいのが、会計上の見積りに新型コロナウイルスの影響をどのように反映させればいいのかということではないでしょうか。

 

 

企業会計基準委員会は、4月10日に議事概要「会計上の見積りのを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しています。

 

・不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある。

 

・一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることが望ましいが、そのような情報が入手できない場合は、企業自ら一定の仮定を置くことになる。

 

企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理な場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額と事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、それは「誤謬」にはあたらない。

 

・一定の仮定、企業間で異なることも想定され、その結果見積もられる金額も異なることになる。このため、重要性がある場合は、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったのか財務諸表の利用者が理解できるような情報を追加情報として開示する必要があるえられる。

 

 

上記の考え方を踏まえると、監査人は、会社が置いた一定の仮定が「明らかに不合理である場合に該当しない」ことを確かめることとなり、その検討の一例として、見積額の選択が過度に楽観的または過度に悲観的な傾向を示していないかという点が挙げられています。言い換えれば、監査人が、過度に楽観的な見積りを許容したり、過度に悲観的な見積りを行ってはいけないということです。

 

また、会計上の見積りに用いられた仮定(指標)の変動が、会計上の見積額にどのような影響を与えるかを分析することを感応度分析といいますが、会社がこの感応度分析を行っている場合には、会社による見積りが合理的な見積りの範囲内にあるかどうかを評価することができるとされています。可能であれば、この感応度分析を実施することが、見積りの妥当性を説明する1つの材料になると考えられます。

 

なお、当年度に会計上の見積りを行った結果、財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが強く望まれるとされている点にもご注意ください。

 

 

 

2.開示後発事象とのしての取扱い

 

新型コロナウイルスに起因する事業活動の縮小や停止、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れ等の影響については、当期に会計処理を行うのか、翌期以降に会計処理を行うのか、慎重な検討が必要です。

 

 

翌期以降に会計処理を行う場合であっても、その影響の程度を評価し、当期の開示後発事象として注記を行う必要性も検討する必要があることに留意が必要です。

 

 

 

3.操業、営業停止中の固定費等の会計処理

 

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために政府や地方自治体の要請等により、

 

企業が店舗の営業を停止している間に発生した経費(固定費)

 

イベントの開催を中止を決定した場合にその準備のために直接要した費用

 

工場の異常な操業度の低下による原価への影響(操業度差異等)

 

が発生した場合には、これらを特別損失とする要件が満たされる可能性がある(高い)ことが示されています。

 

 

一方で、業績不振等による損失までも特別損失とすることが許容されている訳ではありませんので、どの範囲の費用・損失を特別損失として計上できるか、慎重な検討が必要です。また、特別損失として計上する場合には、当該損失を示す適当な科目をもって掲記する必要があることにもご留意ください。

 

 

 

4.連結子会社等の決算・監査の状況

 

海外ではいわゆるロックアウト(都市封鎖)の影響から、連結子会社等の事業活動やその監査人の作業に制限が生じているようです。

 

親会社の監査人が、グループ監査の方針において、連結子会社等の監査人の監査やレビューの結果に依拠する戦略を採っている場合は、一層のコミュニケーションを図り、その進捗状況を十分に確認する必要があります。

 

これは、連結子会社等の監査人の作業結果が得られていないために、連結財務諸表の監査報告書が発行されない可能性があるためです。監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった場合には、連結財務諸表の監査意見に与える影響を検討しなければならないとされていますが、実務上は監査報告書の発行日を調整する等の対応が必要になると考えられます。

 

 

 

緊急事態宣言が延長され、決算・監査の状況も予断を許さないと思われますが、少しでもご参考になれば幸いです。

 

 

 

【参考資料】

新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)

2020年3月18日 日本公認会計士協会

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200318fcb.html

 

新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)

2020年4月10日(2020年5月12日更新) 日本公認会計士協会

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200410ijj.html

 

新型コロナウイルス感染症への対応

(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)

2020年4月10日 企業会計基準委員会

 

新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)

2020年4月22日 日本公認会計士協会

https://jicpa.or.jp/news/information/2020/20200422dhh.html

 

 

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あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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