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会計制度2021.03.17 会計上の見積りの開示に関する会計基準を解説

企業会計基準委員会(ASBJ)は、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号、以下「基準」)を公表しており、2021年3月期の期末より適用されることとなっています。今回は、この会計基準の内容についてご紹介します。

 

 

1.なぜ会計基準ができたのか?

 

会計上の見積りとは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することとされています。

 

今の会計ルールは、経営者の判断や会計上の見積りに依存する部分が多くなっていると言われています。その一方で、会計上の見積りにおいては、入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出しようとするものの、見積りの方法や基礎となる情報がどの程度入手可能であるかは会社によって様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性(実際の結果と異なってしまうリスク)の程度も様々となることが指摘されています。

 

そこで、財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによっている項目のうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものについて、その見積りの内容を開示し、財務諸表の利用者の理解に資する情報を提供することを目的としています。(基準.4)

 

 

2.どのような項目を開示しなければならないか?

 

前述の通り、すべての会計上の見積りについて開示が求められているのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を選ぶ必要があります。

 

翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的な大きさやリスクの発生可能性を総合的に勘案して判断するものとされており、開示される項目の数は、企業の規模や事業の複雑性等によって異なるものの、比較的少数になるとの考え方が示されています。(基準.5及び25)

 

また、基本的には、当年度の財務諸表に会計上の見積りを用いて計上した資産及び負債が開示の対象になると考えられているものの、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものに着目することとなっているため、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合や(会計上の見積りを行った結果)当年度の財務諸表に計上しないこととした負債がある場合も、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、開示する項目として選ばれる可能性があることには注意が必要です。

 

なお、直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格が変動するケースは、翌年度の財務諸表に影響を及ぼすものの、会計上の見積りに起因するものではないため、開示する項目には含まれないこととされている点もご注意ください。(基準.5)

 

 

3.どのような情報を注記しなければならないか?

 

会計上の見積りの開示は独立の注記項目とされており、以下の情報を注記することが求められています。(基準.6及び7)

・選ばれた会計上の見積りの内容を表す項目名

・当年度の財務諸表に計上した金額

・会計上の見積りの内容について財務諸表の利用者の理解に資するその他の情報

※複数の項目が開示対象に選ばれた場合は、上記の内容をひとまとまりの情報として項目ごとに記載していくことになります。

 

なお、開示の重複を避けるため、これらの情報を会計上の見積りの開示以外の注記(例えば、会計方針)に含めて記載している場合は当該注記を参照したり、連結財務諸表と個別財務諸表で同様の注記を行う場合は、個別財務諸表の注記において連結財務諸表における注記を参照することも認められています。

 

具体的な内容や記載方法については、開示目的(なぜ会計基準ができたのか?)に照らして判断することとされており、開示の分量等についても企業の判断に委ねられていますが、例えば、以下の項目を記載することが考えられる(あくまで例示との位置付け)とされています。(基準.8)

・当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

・当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定

・翌年度の財務諸表に与える影響

 

当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定には、インプットとして想定される数値(定量的な情報)や定量的な情報の前提となった状況や判断の背景の説明(定性的な情報)を記載することが考えられます。ただし、これらの情報は、単純に会計基準における取扱いを記載するだけでなく、企業の置かれている固有の状況が財務諸表の利用者に理解できるように記載するとされている点は注意が必要です。(基準.29)

 

 

 

4.新型コロナウイルス感染症拡大に関する影響との関係

 

昨年、このブログでも触れさせて頂きましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大は会計の世界にも大きな影響を与えており、その1つに、この不確実な状況下において会計上の見積りをどのように行うかというものがあります。昨年、企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会は以下のような考え方を示しています。

 

①不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある。

 

②一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることが望ましいが、そのような情報が入手できない場合は、企業自ら一定の仮定を置くことになる。

 

企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理な場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額と事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、それは「誤謬」にはあたらない

 

④一定の仮定は企業間で異なることが想定されるため、その結果見積もられる金額も異なることになる。このため、重要性がある場合は、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったのか財務諸表の利用者が理解できるような情報を追加情報として開示する必要があると考えられる。

 

この度、企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会からは、上記の考え方に変更がないことが改めて示されています。ただし、④については、今般の会計上の見積りの開示に関する会計基準が適用されることにより、当該開示の中でその考え方が示されるケースが多くなると想定されています。また、新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、引き続き追加情報として開示することが考えられるものとされています。

 

 

5.監査上の主要な検討事項(KAM)との関係

 

監査上の主要な検討事項(KAM)についても、以前このブログで取り上げさせて頂きましたが、2021年3月期の金融商品取引法監査に係る監査報告書から順次記載がなされることとなります。

 

先行適用の結果から、会計上の見積りのリスクが高い項目はKAMとして選ばれる可能性が高いことが分かっていますが、KAMとして記載する際には、この会計上の見積りの開示を参照しながら、監査人がKAMとして選定した理由や対応する監査手続の内容を記載していくことになると考えられます。従って、具体的な記載内容の検討にあたっては、KAMの記載という観点からも、十分な情報が開示されているかどうかを検討する必要があると考えられます。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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