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会計制度2021.02.17 JICPA リモートワーク対応の監査上の留意事項を公表(3)

日本公認会計士協会(JICPA)は、リモートワークに対応した監査上の留意事項として、「PDFに変換された証憑の真正性に関する監査上の留意事項」(リモートワーク対応第3号)を公表しました。今回は、この概要について、ご説明させて頂きたいと思います。

 

 

 

1.PDF変換された監査証拠

 

従来、監査人は、紙媒体をはじめとする様々な媒体によって、企業の記録や文書を確かめる監査手続を実施していました。しかし、昨今のリモートワークの普及により、それらの記録や文書をPDF変換した電子媒体として入手するケースが大幅に増加しています。

 

留意事項の中では、このPDF変換(PDF化)を誰が求めたのかということを「PDF変換の起点」と呼んでいます。PDF変換の起点となるケースとして、監査人・被監査会社・取引先等の3つを想定しており、それぞれのケースについてPDF変換は誰が実施するのか?、原始文書は誰が保管しているのか?、PDF化された媒体は誰が保管しているのか?を整理しています。

 

 

2.PDF変換された監査証拠に存在するリスク

 

基本的な考え方として、監査基準委員会報告書500「監査証拠」においては電子媒体にデジタル変換された文書によって提供された監査証拠は原本によって提供された監査証拠よりも証明力は弱いとされています。このため、監査証拠がデジタル変換されることによる監査リスクを考慮し、必要な追加の監査手続を実施することに留意することとされています。

 

これは、原本からPDF変換される過程において、故意または不注意によって情報が変換されるリスクがあるためであり、具体的には以下のものが想定されています。

 

・PDF変換前の媒体が紙媒体の場合

PDF変換前に、紙面への加筆や複写機を利用した改ざんが行われるリスク

 

・PDF変換前の媒体が電子ファイルの場合

PDF変換前に、編集等により内容の変更が行われるリスク

 

・PDF変換前の媒体がモニター画面の場合

スクリーンショットの範囲設定が不適切に行われるリスク

 

・PDF変換過程を通じて

ページの落丁、一部差し換え、PDF編集ツールを用いた内容の改ざんが行われるリスク

 

 

 

 

3.PDF変換の起点に着目した監査上の留意事項

 

「1.PDF変換された監査証拠」のところで述べたように、この留意事項では、PDF変換の起点(誰がPDF変換を求めたのか?)に着目しており、それぞれのケースにおいて異なった留意点があるとしています。

 

①監査人の要請により被監査会社がPDF変換を行うケース

このケースでは、一般的にPDF化の作業が業務プロセスとしてルール化されていないと考えられるため、監査人は以下の点に留意する必要がなります。

 

・入手の過程において、故意または不注意によりPDFと原本の不一致を示す兆候が生じている場合には、慎重に検討する。

 

・被監査会社がどのように改ざんを発見・防止するように対応しているのか理解する。

 

・入手したPDFについて、明らかな修正の形跡、落丁の有無、解像度や色の階調に明らかに劣っている点がないかを確かめる(再提出を依頼することも考えられる)。

 

②被監査会社がその業務プロセスにおいて証憑をPDF変換して保存しているケース

このケースでは、PDF変換のプロセスは企業の内部統制の一部として組み込まれていると考えられるため、監査人は以下の点に留意する必要があります。

 

・監査人はリスク評価手続において、PDFへの変換プロセスのデザイン及び業務への適用状況を評価し、必要に応じて運用評価手続の実施を検討する。

 

・上記の運用評価手続においては、故意または不注意によりPDFと原本の不一致が確かめる必要があり、被監査会社がどのように改ざんを発見・防止するように対応しているのか理解する。

 

・内部統制に対する無効化リスクを考慮し、運用評価手続の結果が有効であった場合、原本の確認が完全に不要となる訳ではないことに留意する。

 

③被監査会社が取引先等の外部から証憑等をPDF化して入手しているケース
これは、電子契約書の作成や取引書類の入手をPDFで行っているケースなどが該当します。このケースでは、被監査会社の外部においてPDF化が行われており、PDFに電子署名等を付すことにより改ざん防止が図られている場合もあるため、監査人は以下の点に留意する必要があります。

 

・監査人はリスク評価手続において、被監査会社が原始証憑としてPDFを入手することの可否を判断する内部統制のデザイン及び業務への適用状況を評価し、必要に応じて運用評価手続の実施を検討する。

 

・リモートワークへの移行に伴い従前書面で行われていたやり取りをPDFで行うことになった場合は、監査人はその経緯を把握した上で内部統制に与える影響の評価を行い、必要に応じて重要な虚偽表示リスクや発見リスクの評価の見直しを検討する。

 

 

4.PDFに変換された監査証拠の真正性を確かめるための手続

 

基本的な考え方として、監査基準委員会報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」においては、重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手することが求められています。

 

従って、重要な虚偽表示リスクが高いと評価している場合には、監査証拠の量を増やしたり、より適合性が高く証拠力の強い監査証拠を入手する(例えば、原本の提供を求める)ことが必要となります。その一方で、監査証拠として入手したすべてのPDFに対して、その原本を確認することが必ずしも要求されるものではないという考え方も示されています。

 

また、原本を確認する以外に、PDF変換された監査証拠の真正性を確かめるための手続として、以下の手続が挙げられています。

 

・入手したPDFについて、その作成に関与する者に対して質問を実施する。

 

・他の監査手続で入手した監査証拠と矛盾が生じていないか確かめる。

 

・PDFの原本の発行が企業外部の場合、原本の発行者に直接確認を行う。

 

・PDFのプロパティ情報から、PDFの作成者・作成日時・更新日時等を確かめる。

 

別紙においては、監査人の要請により被監査会社がPDF変換を行う場合の依頼方法の例示(Adobe Acrobatのセルフサイン機能を用いたPDF作成者のお電子署名を行う方法)が示されており、実務を行う上での参考になるものと考えられます。

 

 

 

この留意事項は会計監査を実施する監査人(公認会計士)に向けて公表されたものですが、企業内部で証憑のチェックを行う内部監査部門や財務経理部門の方々にとっても参考になるものと考えられますので、是非ご一読ください。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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