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会計・ファイナンス・監査2025.05.21 有価証券報告書作成にあたっての留意点(1)

3月決算の上場会社の皆様におかれましては、ちょうど有価証券報告書の作成時期に差し掛かっているかと思います。今年度の有価証券報告書を作成する際の留意点について、私なりの視点で纏めてみました。

 

 

1.有価証券報告書の作成にあたって留意すべき取扱い


 

2025年3月期の有価証券報告書の作成にあたり、金融庁からは、以下の取扱いが公表されています。

 

有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等について

こちらは、2024年度に金融庁が実施した有価証券報告書レビューの審査結果を踏まえ、有価証券報告書の作成・提出にあたっての留意すべき事項等を取り纏めたものとなります。有価証券報告書レビューには「法令改正関係審査」と「重点テーマ審査」がありますが、2024年度の重点テーマ審査項目は「サステナビリティに関する企業の取組の開示」となっていました。

 

有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)

こちらは、2025年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書のレビューの実施内容となります。今年度の重点テーマ審査項目は前年度に引き続き「サステナビリティに関する企業の取組の開示」と「コーポレート・ガバナンスに関する開示(政策保有株式関連の開示を含む)」となっています。

 

有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点

こちらは、2025年3月に、金融担当大臣から全上場会社に対して、定時株主総会前に有価証券報告書を提出することを検討するよう要請したことを受けて、定時株主総会前に有価証券報告書を提出した場合の、記載上の留意点を取り纏めたものとなります。

 

今回のブログでは、上記の3つの取扱いで述べられている内容を中心に、有価証券報告書を作成するにあたって注意しておきたい点を纏めています(このブログで取り上げた内容以外にも法令の改正等による作成上の留意点がありますので、ご注意ください)。

 

 

2.法令改正等に伴う留意点


 

2025年度の有価証券報告書レビューにおける「法令改正等関係審査」では、以下の内容がチェックされることになっています。法令改正等関係審査では、調査票(チェックリストのようなもの)に回答することが求められますので、その内容に十分注意しながら、有価証券報告書の作成を進めていくことが重要になります。

 

(1)重要な契約等の開示に関する改正

①提出会社とその株主との間にガバナンスに関する合意がある場合、②提出会社とその株主との間に保有株式の処分や買い増し等に関する合意がある場合、③ローン契約と社債に付される財務上の特約がある場合には、有価証券報告書において重要な契約等としての開示が求められるようになりました。

→ 詳しくはこちらのブログをご覧ください

 

(2)コーポレート・ガバナンスの状況等(株式の保有状況)の開示に関する改正

→ 詳しくは第2回のブログで触れます

 

(3)内部統制報告書の記載に関する改正

内部統制報告書において財務報告に係る内部統制の評価範囲を記載するにあたって、以下の項目とそのように決定した理由を記載することが求められるようになりました。

重要な事業拠点を選定する際に利用した指標及びその一定割合

重要な事業拠点において、内部統制の評価対象とする業務プロセスを識別する際に選定した会社の事業目的に大きく関わる勘定科目

内部統制の評価対象に個別に追加した事業拠点及び業務プロセス

→ 詳しくはこちらのブログをご覧ください

 

 

3.サステナビリティに関する考え方及び取組を記載する際の留意点


 

2024年度の金融庁による有価証券報告書レビューにおいて、「サステナビリティに関する考え方及び取組」が重点テーマ審査の対象となりましたが、その結果、いくつかの課題が識別され、有価証券報告書の作成・提出にあたっての留意すべき事項として取り纏められています。

 

 

サステナビリティ関連のガバナンスに関する記載がない または 不明瞭である

 

サステナビリティ関連のガバナンスについては、サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視・管理するためのガバナンスの過程・統制・手続の内容について記載することとされています。

ここでは、サステナビリティ関連の推進部署の役割等の執行体制に関する記載だけでなく、取締役会等による監督体制を含めた記載が求められていることに留意が必要とされています。

 

 

サステナビリティ関連のリスクや機会を識別・評価・管理するための過程に関する記載がない または 不明瞭である

 

これは、サステナビリティに関連するリスク管理の状況の記載を指していますが、リスク管理の考え方や識別されたリスクとその対応策のみならず、リスク管理を行う過程(プロセス)の記載が求められていることに留意が必要とされています。

また、サステナビリティ関連の有価証券報告書の記載の全体に当てはまることですが、リスクに関する企業の取組だけでなく機会に関する企業の取組の記載が求められている点に留意が必要とされています。

 

 

識別したサステナビリティ関連のリスク・機会に対応する戦略及び指標・目標に関する記載がない または 不明瞭である

そのため、サステナビリティに関する戦略及び指標・目標に関する記載が不明瞭である

 

2024年度の有価証券報告書レビューにおいては、以下のような事例が見受けられたようです。

識別した複数のリスクや機会(の内容)を記載しているものの、それらに対する戦略・指標・目標が存在するにもかかわらず記載がない

会社の取組や指標・目標の内容を記載しているものの、リスクや機会の内容に関する記載がない

 

リスクや機会の内容とそれに対応する戦略(リスクや機会に対処するための取組)や指標・目標(長期的に実績を評価・管理・監視するために用いられる情報)をセットで記載することが求められているという点に留意が必要とされています。

 

 

戦略及び指標・目標のうち重要なものについて記載がない

 

戦略及び指標・目標については、重要なもの(投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断)を記載することとされていますが、有価証券報告書において重要性がないとの判断から開示を行っていないにもかかわらず、他の公表資料(統合報告書や会社のホームページ等)でサステナビリティに関連する重要な課題の記述がなされていたケースがあったようです。

媒体ごとに目的や想定される利用者が異なることは考えられるものの、有価証券報告書の記述にあたっては十分留意が必要であると考えられます。

 

 

人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針及び指標・目標・実績のいずれかの記載がない または 不明瞭である

 

人的資本に関する方針においては、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針を戦略の中に含めて記載し、それぞれの方針に対する指標の内容と目標や実績を記載することが求められていますが、これらの対応関係が不明瞭な事案が見受けられたようです。

また、人的資本に関する方針やそれぞれの方針に対する指標・目標・実績を具体的に設定・把握されていない等の理由により記載が困難な場合には、その旨を記載し記載が困難な理由を記載することが考えられるとされています。

 

 

人的資本(人材の多様性を含む)に関する指標・目標・実績が連結ベースの記載になっていない

 

「サステナビリティに関する考え方及び取組」においては、連結会社(連結グループ)ベースでの開示が求められており、人的資本に関する戦略及び指標・目標・実績も連結会社ベースでの記載が求められています。人的資本に関する戦略及び指標・目標・実績を連結会社ベースで記載することが困難な場合には、その旨、記載が困難な理由、開示の対象とした範囲、当該範囲とした理由を記載することが考えられるとされています。

また、有価証券報告書の中の「従業員の状況」においては、提出会社及び連結子会社それぞれにおける「管理職に占める女性労働者の割合」「男性労働者の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」の開示が求められていますが、女性活躍推進法等の規定による公表をしない場合は、その記載を省略することができるとされていますが、「サステナビリティに関する考え方及び取組」においては、あくまで連結会社ベースでの開示が求められることに留意が必要です。

 

 

有価証券報告書内の他の箇所に記載して参照する場合において、記載上の不備がある

 

有価証券報告書内の他の箇所を参照する場合には、参照先に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示で求められている記載がなされていることを十分に確認しておく必要があります。

 

 

公表した他の開示書類等に記載した情報を参照する場合において、記載上の不備がある

 

他の開示書類を参照する場合においては、有価証券報告書において、ガバナンス及びリスク管理、②戦略及び指標・目標のうち重要なもの、③人的資本(人材の多様性を含む)に関する戦略及び指標・目標について記載を行った上で、これらの情報を補完する詳細な情報について他の開示書類を参照するという対応が必要となりますので、留意が必要です。

 

 

各課題に対しては、開示の充実に向けて参考になると考えられる事項が示されており、今年度の有価証券報告書の開示内容を検討する上で、参考になるものと考えられます。

 

 

サステナビリティに関する企業の取組の開示にあたっては、投資家が個々のサステナビリティに関する事項に向けて、企業価値向上に向けたストーリー(文脈)を理解できるように開示することが期待されており、以下の点が参考になるとされています。

企業の中長期的な持続可能性に関する事項について、経営方針・経営戦略等との整合性を意識して説明すること

 

各取組に関連するリスクや機会を開示した上で、リスクや機会と4つの構成要素(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標)とのつながりについて分かりやすく説明すること

 

最も重要とされているのは、サステナビリティ関連のリスクや機会に関する将来的な財務的影響の開示であり、また、サステナビリティに関連した企業の取組が企業価値等に対してどのような財務的影響を与えるのかについても投資家の投資判断に有用な情報を開示することが期待される

 

※その2に続く

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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