事業者が、令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入れ等の税額について国内において行う居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の対象としないこととされました(以下「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」といいます。消費税法30条10項)。
改正後、5年近く経過し仕入税額控除の制限を受ける場合や当該建物を譲渡される事業者様もいらっしゃるかと思います。
改めて、対象となる条件や制限される税額などを確認していきたいと思います。
まず、消費税額控除の制限の対象となる居住用賃貸建物及び消費税額ついて確認していきます。
「居住用賃貸建物」とは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物(附属設備を含む)であって高額特定資産※1又は調整対象自己建設高額資産※2に該当するものをいいます。
なお、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物とは、居住用賃貸建物の課税仕入の日(取得時)において、建物の構造や設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、その全てが店舗である建物など建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物が該当します。
※1 高額特定資産とは、一の取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円 以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。
※2 調整対象自己建設高額資産とは、他の者との契約に基づき、又は事業者の棚卸資産として自ら建設等をした棚卸資産で、その建設等に要した課税仕入れに係る支払対価の額の100/110に相当する金額等の累計額が1,000万円以上となったものをいいます。
金額の判定にあたり、仲介手数料などの付随費用については当該居住用賃貸建物の金額の判定には含めません。(消基通1−5−24の高額特定資産の支払対価の判定)
また、資本的支出につきましても対象となりますのでご留意ください。
《制限される消費税額》
その居住用賃貸建物に係る課税仕入等の税額
取得費が1.1億円の居住用賃貸建物の場合
1.1億円×100/110=1億円≧1,000万円 ∴居住用賃貸建物に該当
1.1億円×10/110=1,000万円
については仕入税額控除の摘要を受けることができません。
なお、居住用賃貸建物の一部が店舗用となっているなど課税賃貸用の用に供されている場合において、居住用賃貸部分と居住用賃貸建物以外の部分(課税賃貸部分)とに合理的に区分しているときは、当該居住用賃貸部分(共有部分も含む)に係る課税仕入等の税額についてのみ、仕入税額控除が制限されることとなります。
<合理的区分の例>
・居住用賃貸建物の課税仕入れ等に係る消費税額:1,000万円
・店舗(居住用賃貸以外の部分)の面積:200平方メートル、居住用賃貸部分の
面積:800平方メートル
・「居住用賃貸以外の部分」と「居住用賃貸部分」に共通して使用されるエント
ランスなどの共用部分の面積:100平方メートル
○居住用賃貸部分に係る課税仕入れ等の税額(仕入税額控除が制限される金額)
=
1,000万円×(居住用賃貸部分(800㎡+)+居住用共用部分(※80㎡))
/全体面積(200㎡+800㎡+100㎡)=800万円
※共用部分100㎡×居住用部分(800㎡)
/(居住用以外部分(200㎡)+居住用部分(800㎡))=80㎡
また、インボイス制度開始以降に適格請求書発行時業者以外の者から居住用賃貸建物を取得した場合、制限の対象となる消費税額は
支払額1億1,000万円×10/110×0.8=800万円(令和8年10月以降500万円)となります。
差額の200万円については課税仕入れに係る消費税額ではないものとされるため居住用賃貸建物の取得費へ加算されます。
適格請求書発行時業者以外の者より居住用賃貸建物を取得する場合、支払額が約1,079万円以上(1,079万円×(1-10/110×80%)=1000.5万円)が居住用賃貸建物の制限の対象となると考えられます。(令和8年10月以降は約1,048万円以上)
《申告書の記載方法》
居住用賃貸建物の取得等に係る仕入れ税額控除の制限を受ける場合は、「消費税の確定申告書付表2-3(課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表)」において、その居住用賃貸建物の取得等に係る支払対価の額は、「課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)」の[9]欄に含めずに記載します。
仕入れ等において制限を受けた居住用賃貸建物について次のいずれかに該当する場合には、その制限を受けた仕入れ税額を調整し控除することができます。(消費税法35条の2)
《課税用賃貸に供したとき》
居住用賃貸建物をその仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間の末日までに当該居住用賃貸建物を有しており、かつ、仕入れ等の日から3年以内に居住用賃貸部分の全部又は一部を課税賃貸用に供したとき
→次の算式により計算した金額を3年を経過する日の属する課税期間の仕入れ税額控除に加算
3年目に課税賃貸用に転用
居住用賃貸建物にかかる消費税額:1,000万円
仕入れ等の日から3年を経過する日までの居住用賃貸収入:600万円
仕入れ等の日から3年を経過する日までの課税賃貸収入:400万円
である場合、
1,000万円×400万円/(600万円+400万円)=400万円
3年を経過する日の課税期間の仕入れ税額控除に加算します。
《居住用賃貸建物を譲渡したとき》
居住用賃貸建物をその仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間の末日までに当該居住用賃貸建物を譲渡したとき
→次の算式により計算した金額を譲渡した日の属する課税期間の仕入れ税額控除に加算
居住用賃貸建物にかかる消費税額:1,000万円
仕入れ等の日から居住用賃貸建物を譲渡する日までの居住用賃貸収入:600万円
居住用賃貸建物の譲渡代金:4,400万円
である場合、
1,000万円×4,400万円/(600万円+4,400円)=880万円
を譲渡した日の属する課税期間の仕入れ税額控除に加算します。
《申告書の記載方法》
居住用賃貸建物を課税賃貸用に供した場合等の調整計算により算出した額(加算額)は、付表2-3において、「居住用賃貸建物を課税賃貸用に供した(譲渡した)場合の加算額」([25]欄)に記載することになります。
居住用賃貸建物の取得等に係る仕入れ税額控除の制限を受け控除できない消費税額については居住用賃貸建物の取得価額に加算するか、次のに掲げる場合に該当しない場合には、全額その事業年度の損金とすることはできず繰延消費税額等とし60ヶ月で損金算入することとなります。
・課税仕入れ等の課税期間の課税売上割合が80%未満
・棚卸資産以外の資産
・控除できない金額が20万円以上
居住用賃貸収入のみと前提とした場合の取得事業年度の会計処理は
仮受消費税等 0円 仮払消費税 1,000万円
雑損失(繰延消費税額等)1,000万円
とし、発生事業年度において全額損金経理した場合、申告調整が必要となります。
損金算入限度額=1,000万円×12/60*1/2(発生事業年度のみ1/2)=100万円
となり、限度額超過の900万円が発生事業年度において加算することとなります。
翌事業年度以降、超過額を損金算入限度額を減算していきます。
また、インボイス適格請求書発行時業者以外の者より取得した場合の繰延消費税額等の金額は、
1,000万円×80%=800万円
となります。
その後、居住用賃貸建物を課税賃貸用に転用または譲渡した場合は次のとおりになります。
・居住用賃貸建物を課税賃貸用した場合の課税仕入れ等の日の課税期間より3年
経過する事業年度の会計処理(前段の居住用賃貸建物を課税賃貸用に転用した
事例を前提にします)は
仮受消費税等40万円(賃貸収入の10%) 仮払消費税等0円
未収消費税等360万円※ 雑収入400万円
※課税賃貸収入係る消費税40万円-調整税額400万円=-360万円(還付)
となります。
・居住用賃貸建物を譲渡した場合の譲渡事業年度の会計処理(前段の居住用賃貸
建物を譲渡した事例を前提にします)は
仮受消費税等440万円(売却代金の10%) 仮払消費税等0円
未収消費税等440万円※ 雑収入440万円
※売却に係る消費税440万円-調整税額880万円=-440万円(還付)
となります。
この場合、雑収入については全額益金となリます。
また、売却の日の属する事業年度において繰延消費税額等の残高がある場合、
当該事業年度において全て損金算入するできず、償却を続けていく事となりま
す。
以上、取引頻度がさほど多くないので取引が発生した際の参考になれば幸いです。
あすか税理士法人
スタッフ 白川 達也