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会計・ファイナンス・監査2022.01.19 会計監査の在り方に関する懇談会の論点整理について

昨年11月に会計監査の在り方に関する懇談会から論点整理(以下、論点整理)が公表され、会計監査制度の見直しを進める動きが明らかになってきました。今回は、この論点整理の内容についてご説明したいと思います。

 

 

1.論点整理が出された背景


 

経済の持続的な成長を実現するために、企業に対しては、コーポレートガバナンス・コードに代表されるように、中長期的な価値を向上を目指す取り組みが求められてきました。

 

その一方で、企業の資金(資本)調達を可能とするためには、財務情報の適正な開示が行われなければなりません。監査法人・公認会計士は「資本市場のゲートキーパー」としての役割を十分に果たし、会計監査が資本市場を支えるインフラとして十分機能することが求められています。

 

これまでも、監査の信頼性を確保し、財務情報の適正な開示を確保するという観点から様々な取り組みが進められてきましたが、論点整理では、会計監査を取り巻く環境について、以下のような急速な変化が見られるとしています。

 

・監査基準や倫理規則の改訂

・監査品質に対する社会からの期待の高まり

・公認会計士が担う役割の広がりや働き方の多様化

・ITを活用した監査手法の導入や開発の進展

・サステナビリティ情報等の非財務情報に対する投資家の高まり

 

このような点を踏まえ、将来に向けて会計監査の信頼性を確保するには何が必要かという観点から幅広い論点について議論が行われ、以下の3つの大きな柱が示されました。

 

・会計監査の信頼性確保

・公認会計士の能力発揮・向上

・高品質な会計監査を実施するための環境整備

 

 

 

 

2.会計監査の信頼性確保


 

(1)上場会社の監査における中小監査事務所等に対する支援

 

これまで、上場会社の監査の大部分は大手の監査法人が担ってきましたが、最近では準大手の監査法人や中小の監査事務所にシフトしている傾向が認められます。

 

監査市場の寡占化は品質向上に向けた競争の阻害要因にもなり得るとの指摘もあり、監査の担い手の裾野が広がることによって、監査品質の向上につながるような競争原理が働くことが期待される一方、上場会社の監査の担い手全体の監査品質の向上が急務になっていると指摘されています。

 

このような観点から、中小監査事務所等に対する体制面・ノウハウ面での支援(例.電子監査調書の導入等のデジタル化支援、人的基盤の整備、経営相談体制の強化)の充実を検討する必要があるとされています。

 

(2)上場会社の監査人に対する規律の在り方

 

現在、上場会社の監査を行う監査事務所は、日本公認会計士協会が自主規制として運用している上場会社監査事務所登録制度に基づく登録を受ける必要がありますが、論点整理では、この登録制度について、法律に基づく制度の枠組みを検討し、監査事務所が上場会社を監査するのに十分な能力・態勢を備えていることを担保する規律としての実効性を高める必要があるとされています。

 

また、「監査法人のガバナンス・コード」等を通じて、監査法人における実効的なガバナンスの確立やマネジメントを有効に機能させることが促されていますが、今後、上場会社の監査を行うすべての監査法人に対して「監査法人のガバナンス・コード」の受け入れや業務運営上のKPI等の情報開示の充実を求めることについても指摘されています。さらに、「監査法人のガバナンス・コード」が2017年に策定されてから、内容が見直されていないため、改訂を検討することも指摘されています。

 

(3)「第三者の眼」によるチェック機能の発揮

 

これまでも、会計監査の信頼性を向上させるためには、監査事務所の取り組みだけでなく「第三者の眼」によるチェックの機能を高めることが必要とされ、日本公認会計士協会の自主規制機能(品質管理レビュー)と公認会計士・監査審査会による検査の2つの仕組みが設けられてきましたこうした取り組みが、より効率的・効果的なモニタリングとなるよう、その在り方を常に検証するとともに、チェックの結果がより詳しく情報開示されることの必要性が指摘されています。

 

 

3.公認会計士の能力発揮・向上


 

(1)女性活躍の進展等を踏まえた環境整備

 

女性の公認会計士は徐々に増える傾向にあり、公認会計士全体の約15%を占めるに至っています。一方で、監査人の独立性を確保するルールの1つとして、監査法人の社員(パートナー)の配偶者が会社の役員に就任している場合、監査法人はその会社の監査を受嘱することができないというものがあります。これに該当するケースは徐々に増えつつあり、監査人の独立性は引き続き確保しながらも、公認会計士がその能力に見合った活躍の機会が確保されるように見直すべき点がないか検討する必要性が指摘されています。また、公認会計士人材の多様化という観点から、ダイバーシティを意識した環境整備・評価制度の検討すべきとされています。

 

(2)組織内会計士向けの指導・支援

 

監査法人以外の事業会社や行政機関等での業務に従事する公認会計士(組織内会計士)も増加傾向にありますが、組織内会計士が活躍することによって、財務報告の信頼性が確保されることが期待されます。こうしたことから、公認会計士登録上の組織内会計士の位置づけを明確にし、組織内会計士に対する研修プログラムの充実を図ることによって、組織内会計士の継続的な能力向上が図られることが望ましいとされています。

 

(3)公認会計士の能力向上

 

公認会計士が監査環境等の変化に対応し、実務で能力を発揮し続けるためには、求められる知識・能力を不断に磨いていくことが必要なのは言うまでもありません。特に「不正を見抜く力の向上」が必要であることが指摘されており、企業経営の中で不正が生じる要因や傾向など、企業活動の実態を理解することが求められるとされています。こうした観点から、企業の現場感覚を養う機会を多く持てるような仕組み作り、継続研修制度において不正事案のケーススタディを多く取り入れること、AIを含む新たなデジタル技術を不正の発見等に役立てること等が検討されるべきとされています。

 

 

4.高品質な会計監査を実施するための環境整備


 

財務報告に係る内部統制を適切に整備し適正な財務諸表を作成する責任は企業側にあります。このため、企業側の会計監査に関するガバナンスの強化することや実効的な内部統制を確立することが適正な会計監査を確保する上では欠かせないものとなっています。

 

会計監査に関するガバナンスについては、コーポレートガバナンス・コードの制定及び改訂により、その強化が図られているところですが、有価証券報告書における記載内容の適正性に関する記載(有価証券報告書と一緒に提出される確認書)の充実や監査役等のガバナンスに対する責任の明確化なども中長期的な検討課題として取り上げられています。

 

一方、内部統制報告制度(J-SOX)については導入から10年以上経過し、最近ではその実効性に懸念があるとの指摘がなされているため、内部統制報告制の在り方について、議論を進めることの必要性が指摘されています。

 

 

なお、この論点整理を受けて、1月4日に金融審議会「公認会計士制度部会」報告が公表され、公認会計士制度に関する見直しの方向性を示されました。早ければ、今年の通常国会で公認会計士法等が改正される見通しとのことです。

 

個人的には、内部統制報告制度(J-SOX)の実効性の問題(形式的なチェックになりがちである点)は深刻で、仕組みの見直しは急務であると感じています。

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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