


既にご承知の方も多いと思いますが、2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号、以下「基準」)及び「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第33号、以下「適用指針」)を公表しました。今回も前回に引き続いて、新しいリース会計基準の適用に伴う実務上の論点について確認したいと思います。
※新しいリース基準の概要については、こちらもご覧ください。
1.再リースの取扱い
これまでのリース会計基準では、再リース期間は 1 年以内とするのが通常であり、再リース料も少額であるのが一般的であることから、原則として、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は発生時の費用として処理することとされていました。
新しいリース会計基準では、以下の場合には、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことができる旨の取扱いが定められています(適用指針.52)。
・借手のリース期間の設定において、リース開始日に再リース期間を借手のリース期間に含めていない場合
※借手のリース期間の設定については、本ブログの第2回をご参照ください。
・リースの契約条件の変更において、リース契約条件の変更の発効日に再リース期間を借手のリース期間に含めていない場合
※リースの契約条件の変更については、本ブログの第3回をご参照ください。
この取扱いは、国際会計基準(IFRS 第16 号)では設けられていない取扱いですが、再リースは日本固有の商慣習であり、この取扱いを引き続き設けることによって、国際的な比較可能性を大きく損なわせずに、財務諸表作成者の追加的な負担を減らすことができると考えられています【適用指針.BC81】。
先にもあったように、再リース期間は 1 年以内とするのが通常であり、再リース料も少額であるのが一般的であることから、この取扱いを採用した場合、多くのケースでは短期リースや少額リースの取扱いの適用ができるものと考えられます。
※短期リースや少額リースの取扱いについては、本ブログの第2回をご参照ください。
なお、この取扱いを適用しない場合、借手においては、再リース期間は延長オプションの対象期間に含まれると考えられるとされていますので、留意が必要です【適用指針.BC81】。
2.セール・アンド・リースバック取引
セール・アンド・リースバック取引とは、借手(売手)が資産を貸手(買手)に譲渡し、借手(売手)が貸手(買手)から当該資産をリース(リースバック)する取引のことをいいます【適用指針.4(11)】。
資産の譲渡とリースバックは形式上別個の取引ですが、これらの取引が組み合わされることで、次のような論点が生じる可能性があると考えられています【適用指針.BC82】。
リースバックにより、借手(売手)が、貸手(買手)に譲渡された資産から生じる経済的利益を引き続き享受しているにもかかわらず、当該資産を譲渡した時点で譲渡に係る損益が認識される
セール・アンド・リースバック取引においては、資産の譲渡とリースバックがパッケージとして交渉されることが多く、資産の譲渡対価とリースバックにおける借手のリース料との間に相互依存性があると考えられる
→資産の譲渡対価及び関連するリースバックにおける借手のリース料が、それぞれ時価及び市場のレートでのリース料よりも高い(低い)金額で取引されることにより、一体としての利益の総額が同じであっても、資産の譲渡に係る損益が過大(過小)に計上される可能性があること
そこで、新しいリース会計基準(適用指針)では、その取引がセール・アンド・リースバック取引に該当するかどうかの判断を行った上で、セール・アンド・リースバック取引に該当する場合にも2種類の会計処理を定めています。
(1)セール・アンド・リースバック取引に該当するかどうかの判断
リースバックが行われる場合であっても、借手(売手)の資産の譲渡が、次の①②のいずれかである場合は、セール・アンド・リースバック取引に該当しないこととされています【適用指針.53】。
①収益認識会計基準に従い、一定の期間にわたり充足される履行義務の充足によって行われる場合
②収益認識会計基準適用指針において、工事契約における収益を完全に履行義務を充足した時点で認識することを選択する場合
また、借手(売手)が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合、当該資産の移転と関連するリースバックは、セール・アンド・リースバックに該当せず、リースとして会計処理を行うこととされています【適用指針.54】。
セール・アンド・リースバック取引の定義においては、譲渡された資産とリースされた資産が同一であることが重要な要素となっています【適用指針.BC85】。資産の譲渡とリースバックにおいて、借手(売手)による資産の譲渡が一時点で損益を認識する売却に該当すると判断される場合は、借手(売手)は当該資産を貸手(買手)に譲渡し、譲渡した当該資産をリースしているものと考えられ、譲渡された資産とリースされた資産は同一であると考えられることから、このような取引についてはセール・アンド・リースバック取引に該当するものとされています【適用指針.BC86】。
一方、資産の譲渡とリースバックにおいて、借手(売手)による資産の譲渡が適用指針.53のいずれかに該当する場合は、資産の譲渡により借手(売手)から貸手(買手)に支配が移転されるのは仕掛中の資産であり、移転された部分だけでは資産の使用から生じる経済的利益を享受できる状態にありません。これに対し、リースバックにより借手(売手)が支配を獲得する使用権資産は、完成した資産に関するものであるため、譲渡された資産とリースされた資産は同一ではないと考えられています【適用指針.BC87】。
上記の考え方に基づくと、借手(売手)が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合、当該資産の移転と関連するリースバックは、セール・アンド・リースバックに該当しないということになります。
(2)セール・アンド・リースバック取引に該当する場合の会計処理
次の①②のいずれかを満たす場合は、売手である借手は、当該セール・アンド・リースバック取引について資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行うこととされています【適用指針.55】。
①収益認識会計基準等の他の会計基準に従うと、借手(売手)による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない場合
②収益認識会計基準等の他の会計基準に従うと、借手(売手)による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するが、リースバックにより、借手(売手)が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することになる場合
一方、適用指針.55に該当しないセール・アンド・リースバック取引の場合、借手(売手)は、資産の譲渡については収益認識会計基準等の他の会計基準に従い損益を認識し、リースバックについては新リース会計基準及び適用指針に従い借手の会計処理を行うものとされています【適用指針.56】。
セール・アンド・リースバック取引は、資産の譲渡とリースバックを組み合わせた取引であるため、資産の譲渡に係る損益を認識するためには、収益認識会計基準などの他の会計基準等に従い、売手である借手による資産の譲渡が売却に該当するかどうかを判断する必要があるとされており【適用指針.BC90】、資産の譲渡が売却に該当しないような取引は金融取引としての処理が求められます。
また、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準においても、このセール・アンド・リースバック取引に関する取扱いが定められていますが、米国会計基準の取扱いを参考に、リースバック取引がいわゆるファイナンス・リースに該当する場合は、資産の譲渡は売却に該当しないこととし、資産の譲渡とリースバック取引を一体の取引とみる考え方も採用されています【適用指針.BC92】。
(3)資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合または借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではない場合
セール・アンド・リースバック取引の特徴のところで述べたように、セール・アンド・リースバック取引においては、資産の譲渡とリースバックがパッケージとして交渉されることが多く、資産の譲渡対価とリースバックにおける借手のリース料との間に相互依存性があると考えられています。このため、取引全体での利益の総額は同じであっても、資産の譲渡対価や関連するリースバックにおける借手のリース料が、時価や市場のレートでのリース料よりも高い(低い)金額で取引されるケースが存在する可能性があるとされています。
そこで、適用指針.56の会計処理を行う場合でも資産の譲渡価額が明らかに時価ではない場合や借手のリース料が明らかに市場のレートのリース料ではない場合は、以下の調整を行うことが求められています【適用指針.57】。
資産の譲渡価額が明らかに時価ではない場合
資産の譲渡対価が時価よりも低い場合
時価を用いて譲渡について損益を認識した上で、譲渡対価と時価との差額について使用権資産の取得価額に含める
資産の譲渡対価が時価よりも高い場合
時価を用いて譲渡について損益を認識した上で、譲渡対価と時価との差額について金融取引として会計処理を行う
借手のリース料が明らかに市場のレートのリース料ではない場合
借手のリース料が市場のレートのリース料よりも低い場合
借手のリース料と市場のレートでのリース料との差額について譲渡対価を増額した上で譲渡について損益を認識し、当該差額について使用権資産の取得価額に含める
借手のリース料が市場のレートのリース料よりも高い場合
借手のリース料と市場のレートでのリース料との差額について譲渡対価を減額した上で譲渡について損益を認識し、当該差額について金融取引として会計処理を行う
収益認識会計基準では独立販売価格に基づく取引価格(対価)の配分を定めており、新しいリース会計基準等においてもリースを構成する部分とリースを構成しない部分への対価の配分について独立販売価格に基づく配分を求めることとしていることから、これらの取扱いと整合するように、適用指針.57の取扱いが定められています【適用指針.BC96】。
(次回につづく)
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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