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会計制度2021.09.01 JICPA「リモートワークに伴う業務プロセス・内部統制の変化への対応(提言)」を公表(1)

日本公認会計士協会(JICPA)は、2021年7月「リモートワークに伴う業務プロセス・内部統制の変化への対応(提言)」(IT委員会研究報告第56号、以下「研究報告」)を公表しました。

 

新型コロナウイルス感染症が拡大して以降、各企業でリモートワークの導入を進める企業が増加していますが、これらの動きが企業の業務プロセス・内部統制や監査人の監査における主要な課題を識別し、監査人に対してその対応の方向性を示すことが研究報告の目的とされています。

 

今回は、企業及び監査事務所に対して行われたアンケートの結果から、リモートワークの実施状況やその課題について考えてみたいと思います。

 

 

1.企業向けアンケートの実施結果について


 

(1) リモートワークの実施状況

 

アンケート実施時点(2021年3月~4月)での経理部門の出社状況は、
・100%出社…12%
・出社割合50%以上100%未満…38%
・出社割合50%未満…49%
となっています。また、リモートワークを常態化するかどうかの質問についても「常態化済み・今後予定」が40%であったのに対し、「常態化しない」も31%となっています。

 

これらのことから、リモートワークは今後も進展していくと考えられる一方で、その実施状況についてはかなりバラつきが見られます。

 

(2) リモートワークの制約要因

 

リモートワークを実施せず出社を行っている原因としては、
・請求書の支払依頼が紙面に限定されている
・対面でのコミュニケーションの必要性
・経費精算処理が紙面の領収書に限定されえている
・会計伝票や稟議書などへの押印が必要
・顧客及び取引先との書面への押印が必要
について40%以上の企業が回答しており、やはり「紙」と「ハンコ」の問題が大きな要因となっていることが分かります。

 

紙媒体を使用し続ける理由としては、約60%の企業が「税務上の要請」を挙げており、「電子化のための追加コスト」「業務の変化のへの不安」「取引先の要請」を挙げる企業も多くなっています。ただ、「税務上の要請」について、改正電子帳簿保存法が2022年1月から施行され、証憑の保存方法が今後大きく変化することが予想されます。

 

(3) 内部統制への影響

 

リモートワークを実施するにあたり内部統制の整備・運用について変更があったかとの質問については「全くしなかった・あまりしなかった」が80%以上を占めており、リモートワーク下の新たな業務に対応する内部統制が十分に検討されていない可能性があります。

 

一方で、リモートワークへの移行に伴うリスクとしては、業務スピードの低下が最も多くなっていますが、情報漏洩のリスク業務正確性の低下等を挙げる企業も多く、内部統制上のリスクについても懸念を持つ企業が多いことが分かります。

 

リモートワークを実施する上で、紙媒体の証憑や資料をPDF変換する企業が多いと考えられますが、「PDF変換に関する内部統制の構築」や「タイムスタンプの導入」が行われていない企業は非常に多く、また、監査人が受け取ったPDFファイルの内容が「紙」の原本と同じものであることを確かめたかどうかが「分からない・ほとんど確かめていない」と回答した企業が約80%となっています。

 

リモートワーク環境下におけるPDF変換に伴う書類の改ざんリスクについては、別のブログでも触れたところですが、現状は企業側・監査法人側ともに十分な対応がなされていない可能性があると思われます。

 

(4) 経理・決算業務をリモートで行う場合の課題

 

経理・決算業務リモートワークで行う際のその他の課題としては、約65%の企業が「業務の進捗が把握しづらい」ことを挙げており、「意見交換がしづらい」「メンバーの体調や気分が把握しづらい」「話しかけるタイミングがつかみにくい」を挙げる企業も多く、コミュニケーションに関する課題を認識している企業が多くなっています。

 

 

 

 

2.監査事務所へのアンケートの実施結果について


 

(1) リモートワークの実施状況

 

アンケート実施時点(2020年12月~2021年1月)では、約80%の事務所が「原則としてリモートワークで対応」または「往査人数を減らしてリモートワークとの組み合わせで対応」していますが、中小事務所の一部では「原則として被監査会社への往査で対応」しているようです。

 

リモートワークのガイドラインの整備状況においても、大手・準大手の事務所はガイドラインを策定・事務所全体に周知されていますが、中小事務所においては、ほとんど事業部あるいは監査チームごとの対応となっていることは特徴的です。

 

また、今後の予定についても、大手・準大手の事務所は既にリモートワークに移行済みである一方、中小事務所では移行することを考えていない事務所も一定数見受けられ、バラつきが見られます。

 

(2) リモートワークの制約要因

 

リモートワークを実施せず出社を行っている原因としては、
・被監査会社の「紙媒体でしか入手できない証憑がある」「印鑑を確認する必要がある書類がある」
システム上の制約(ただし監査事務所の規模によって異なる傾向が認められます)
特定の監査手続(実査・棚卸立会等)を実施する必要がある
対面でのコミュニケーションの必要を認識している
被監査会社の方針で往査を要請されている
が多く挙げられています。

 

(3) 監査手続への影響

 

リモートワークの制約要因の1つにいわゆる「紙媒体」の問題が挙げられていますが、監査手続において領収書や請求書などの証憑書類の入手を「紙媒体」で行う理由については、
電子的な証憑書類の真正性に関して明確な方針がない
「紙」を電子化する際に、改ざんされる恐れがあり、エビデンスとして不安が残る
が多く挙げられており、電子的監査証拠に関する明確な方針を持たない監査事務所ほど証憑書類を紙媒体で入手する傾向にあると推察されます。

 

その一方で、大手の事務所を中心に証憑書類の入手を紙媒体で行うことを義務化していないと回答された事務所もあり、監査調書の電子化を推進する意向がある監査事務所は、紙媒体を減らそうとするインセンティブが出てくるなど二極化が進んでいくのではないかと考えられます。

 

また、被監査会社から入手したPDFファイルを、後日「紙媒体」の原本と同じものであることを確かめる手続きを監査事務所として推奨したかという質問については、大手監査事務所は従前より「リスクの程度に応じた手続を実施する方針」としているところが多く、必要に応じて原本確認の手続が行われたと考えられます。一方、準大手・中小の事務所は何らかの推奨が行われたところが多く、その件数にはバラつきが認められる状況でした。

 

(4) 監査業務をリモートで行う場合の課題

 

監査業務をリモートで行う場合の課題としては、「業務の進捗が把握しづらい」「意見交換がしづらい」「メンバーの体調や気分が把握しづらい」「話しかけるタイミングがつかみにくい」「同じ資料を見ながらの議論がしづらい」を挙げる事務所が多かったようです。この点は、経理・決算業務をリモートで行う場合の課題と似通っており、コミュニケーションに関する課題が多くなっています。

 

(PART2につづく)

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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