棚卸資産(在庫)は会社の財務状況や経営成績に大きな影響を与えるものです。また適切な在庫管理を行うことは、会社の将来の利益やキャッシュフローを予測するためにも重要です。
税法上、棚卸資産の評価方法は届出により選定することが出来ますが、それをしなかった場合には「最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法」で評価します。
評価方法を届け出ることなく、もしくは従来の評価方法を見直すことなく評価を行っている場合には、自社にとって在庫額が実態を反映していない可能性があります。
棚卸資産の評価方法を見直し、適切な在庫を計上するためにとるべき手続きについて、2回に分けて解説します。
先述したとおり、棚卸資産の評価方法の届出をしなかった場合又は選定した評価方法により評価しなかった場合には、「最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法」によって棚卸資産を評価する必要があります。(法定評価方法といいます)
ただ、税法上は上記の評価方法以外にも次の評価方法が認められています。(法人税法施行令第28条)
○原価法
期末の棚卸資産全部について、その個々の取得価額を評価する方法
イ:個別法
ロ:先入先出法
ハ:総平均法
ニ:移動平均法
ホ:最終仕入原価法
ヘ:売価還元法
○低価法
棚卸資産を種類の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて上記の原価法のうちいずれかの方法により算出した取得価額と時価とを比較し、いずれか低い価額とする方法
※翌期首において評価損に相当する金額の戻入れ益を計上
○特別な評価方法
税務署長の承認を受けた原価法及び低価法以外の方法
※なお、承認を受ける場合には、所定の申請書を提出する必要あり
いずれの評価方法を採用する場合であっても原価法による6つの評価方法を押さえておくことが重要だと考えます。
イ:個別法
その個々の取得価額をもって期末評価額とする方法。
当該評価方法を採用することができるのは下記のものです。
※法人税法基本通達5-2-1より
・取得~販売の過程を通じて具体的に個別管理が行われている商品
・取得~販売、消費の過程を通じて個別管理及び個別原価計算が実施されている製品/半製品/仕掛品
・上記の製品/半製品の製造等のために保有している原材料
なお、個別管理を行うこと又は個別原価計算を実施することに合理性があると認められることが前提のため、大量に取引されるものや大量生産に適する商品等、代替性のあるものは個別法の採用が認められません。
ロ:先入先出法
その種類等の異なる毎に区別し、事業年度終了時に最も近い時に取得したものから順次遡って棚卸資産を構成するとみなす方法。
ハ:総平均法
その種類等の異なる毎に区別し、期首の取得価額の総額と、期中において取得した取得価額の合計額を総数量で除して計算した価額を単価とする方法。
ニ:移動平均法
その種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、再び種類等を同じくする棚卸資産の取得をした場合に、その取得の都度、従来有する棚卸資産とその取得をした棚卸資産との「数量」及び「取得価額」を基礎として算出した平均単価によって取得価額を改定し、以後、種類等を同じくする棚卸資産の取得をする都度同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなす。期末においては、事業年度終了時に最も近い時に改定されたものとみなした一単位当たりの取得価額とする。
ホ:最終仕入原価法(法定評価方法)
その種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、事業年度終了の時から最も近い時において取得をしたものの一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法。
ヘ:売価還元法
期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率(☆1)の異なるごとに区別し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、通常の販売価額の総額に原価の率を乗じて計算した金額をその取得価額とする方法。
☆1:棚卸資産の通常の販売価額のうちに当該通常の販売価額から当該棚卸資産を取得するために通常要する価額を控除した金額の占める割合。
※法人税法基本通達5-2-3より
・1月毎に総平均法又は移動平均法により計算した価額を当該月末における棚卸資産の取得価額とみなし、翌月にこれを繰り越して計算することにより、期末棚卸資産の取得価額を計算する方法は、総平均法又は移動平均法に該当。
※法人税法基本通達5-2-3の2より
・6月毎に総平均法又は売価還元法により棚卸資産の取得価額を計算する方法は、それぞれ総平均法又は売価還元法に該当。
※法人税法基本通達5-2-4より
製造業を営む法人が、原価計算を行わないため半製品及び仕掛品について製造工程に応じて製品売価の何割として評価する場合のその評価の方法は、売価還元法に該当。
※法人税法基本通達5-2-5より
売価還元法により評価額を計算する場合には、その種類の著しく異なるものを除き、通常の差益の率がおおむね同じ棚卸資産はこれをその計算上の一区分としてOK。
※法人税法基本通達5-2-7より
売価還元法の「通常の販売価額の総額」は、値引き・割戻し等を行う前の販売価額の総額による。
※法人税法基本通達5-2-8より
売価還元法を適用する場合において、原価の率が100%を超えることとなったときでも、その率により期末棚卸資産の評価額を計算する。
低価法については、上述した通りで原価法と時価との比較をする方法で、ここでいう「時価」とは次の価額をいいます。
法人税法基本通達5-2-11より
事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額。
なお、通常、商品又は製品として売却するものとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る。)及び見積販売直接経費を控除した正味売却価額による。
今回のブログでは、税法上認められている棚卸資産の評価方法について確認をしました。
棚卸資産の評価方法を見直すには次の手順で行うのが良いかと思います。
・棚卸資産の評価方法について、過去に届出を行っているかを確認する。
・届出を行っている場合にはその評価方法、届出をしていないと考えられる場合には「最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法」が自社の棚卸資産の評価方法として妥当かを検討する。
・妥当でないと考えられる場合には、自社の棚卸資産の種類毎に妥当な評価方法を検討する。
なお、妥当かどうかというのは、在庫額が実際の仕入価格から大きく乖離してしまっていないか、想定している原価率と実際の原価率が大きく乖離してしまっていないか、という点が参考になると考えられます。
大きく乖離がある場合には、評価方法が実態に則していないことや長期間滞留している在庫があることが考えられます。
乖離している原因を明らかにし、長期滞留在庫がある場合には当該在庫の処分やその評価について別途検討する必要がありますが、評価方法に原因があると考えられる場合には、棚卸資産の評価の方法の変更手続を行う必要があります。
次回ブログでは当該変更手続きについて取り上げたいと思います。
あすか税理士法人
【スタッフ】中村麻侑子