株式投資などを行う際に特定口座(源泉徴収あり、NISA取引を除く)での株式の譲渡益や配当がある場合、原則として確定申告は不要です。
株式取引について譲渡損が発生した場合や前年以前より繰越された株式の譲渡損がある場合には、配当金や他の特定口座で発生した株式の譲渡益について確定申告をすることにより税金の還付を受けることができます。
しかし、確定申告をして税金の還付を受ける場合、その申告内容が住民税の課税所得金額などに反映されることとなります。
これにより、国民健康保険や後期高齢者医療保険の保険料や医療費負担割合に影響が出てしまい結果として損をしてしまう場合があります。(会社でお勤めの方が協会けんぽなどの健康保険に加入してる場合は影響ございません。)
今回、その保険料や自己負担割合についての基本的な構造と注意点をご紹介いたします。
まずはじめに、国民健康保険に与える影響から確認します。
《保険料》
国民健康保険の保険料の算定金額は次のとおりとなります。
前年の確定申告の内容を基に保険料が計算されることとなります。
計算例は次のとおりとなります。
出典:大阪市
上記の表にあります算定基礎所得金額ですが、特定口座(源泉徴収あり)で申告不要とした金額については含めませんが、損益通算などにより確定申告した場合には当該算定基礎所得金額に含まれることとなります。
前提とする所得の内訳
年金(年収110万円)
株式取引(A証券口座での譲渡益が500万円、B証券口座の株式譲渡損失が100万円)
この条件を基に70歳の方(単身)を例として計算いたしますと
・申告不要制度により確定申告をしない場合→約10万円の保険料となります。
・税還付を受けるために確定申告した場合(所得控除については基礎控除のみとします)
→確定申告することにより30万円ほど還付されることとなりますが、国民健康保険料は70万円ほどとなり60万円増額します。
結果的に保険料の負担増と税金還付額を加味いたしますと30万円損することとなります。
《自己負担割合》
次に医療費の自己負担割合について。
69歳までの方につきましては医療費の自己負担割合は3割となりますので影響はありませんが、70歳から74歳の方につきましては医療費の自己負担割合は通常2割となります。しかし、特定口座について税還付を受けた場合、自己負担割合が3割となってしまう恐れがあります。
70歳の方(単身)が先ほど保険料を算定する際に用いた金額を例にしますと、
判定が3段階ありますが当該所得金額によりますと自己負担割合が3割となります。
2割負担だった方が年間40万円医療費を負担されていた場合、年間60万円の負担となり20万円負担額が増えることとなります。
保険料の負担増に加え、更に負担が大きくなります。
続いて75歳以上の方が加入することとなる後期高齢者医療保険についての影響を確認します。
《保険料》
後期高齢者医療保険の保険料は次のとおり計算します。
出典:大阪府後期高齢者医療保険広域連合
特定口座(源泉徴収あり)の申告不要制度により確定申告をしなかった場合、当該保険料の計算対象となる総所得金額には含まれませんが、税還付のために確定申告をした場合保険料の対象となる総所得金額に含めることとなります。
国民健康保険料の計算の際に用いた金額を例としますと、30万円ほど増えることとなります。
《自己負担割合》
後期高齢者医療保険の自己負担割合は次のとおり判定することとなります。
出典:大阪府後期高齢者医療広域連合
75歳の方(単身)が国民健康保険料の計算に用いた金額を基に判定しますと、
申告不要とした場合1割負担のところ、税還付を受けるために確定申告することにより3割負担となってしまいます。
今までの年間の医療負担額が20万円だったところが、税金の還付を受けるため確定申告をすることにより医療負担額が60万円と40万円増加することとなります。
こちらも保険料の負担額が増えた金額と合わせると税金の還付より多く負担を大きくなってしまいます。
最後に介護保険への影響を確認いたします。
《保険料》
介護保険料の計算方法は次のとおりとなります。
出典:大阪市
75歳の方(単身)が特定口座(源泉徴収あり)により確定申告不要を選択いたしますと11万円ほどとなりますが、国民健康保険料の計算に用いた金額を基に判定しますと、22万円ほどとなり11万円増額することとなります。
《自己負担割合》
介護保険の自己負担割合の判定は次のとおりとなります。
出典:大阪市
介護保険の自己負担割合の判定につきましても、特定口座(源泉徴収あり)による確定申告不要を選択した場合、合計所得金額に含めませんので1割負担となりますが、税還付のため確定申告をした場合国民健康保険に与える影響の判定の際に用いた金額を例にしますと自己負担割合は3割となります。
税金還付のために確定申告する内容によっては、国民健康保険や後期高齢者医療保険、介護保険などの保険料や医療費の負担が還付金以上となるケースがございます。自治体によって取扱いの違いが若干ある場合もございますので、税金還付のために確定申告をされる際には予めご確認いただき十分ご留意いただければと思います。
あすか税理士法人
白川 達也