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国際税務国内税務2023.04.12 【国際税務】外国子会社の株式評価損~損金の是非~

法人税法上、有価証券は時価評価が強制されるもの、時価評価できないもの、状況によっては時価評価(評価損計上)が認められるものがあります。

今回はそれら有価証券の区分とその評価方法を確認しつつ、外国子会社株式の評価損が計上可能かどうかについて検討致します。

 

 

1.法人税法上の有価証券区分


 

法人税法上、法人が保有する有価証券は、その保有目的によって期末時点の評価方法が異なります。「売買目的有価証券」は期末時点の時価により評価し、「売買目的外有価証券」は時価評価することなく原価法により評価する(つまり評価損益を計上しない)のが原則です。

 

法人税法上の「売買目的有価証券」はいくつか種類がありますが、その一つが「取得日において短期売買目的であることを帳簿に記載した有価証券」です。

 

購入当初の目的を明らかにするために、「短期売買目的で取得した有価証券の勘定科目」を「その目的以外の目的で取得した有価証券の勘定科目」と区分することが求められています(法人税法施行規則第27条の5)。

この売買目的有価証券は時価評価が強制されるため、時価に置き換える会計処理がなされていなくても、法人税の別表上は時価差額について修正が必要となります。

 

「売買目的外有価証券」は取引先の持株会を活用した株式や子会社株式などをイメージしてください。長期間安定的に保有することを目的とした有価証券等が該当します。

法人税法上、売買目的外有価証券は原価法による評価が求められるため時価評価は原則できませんが、特定の場合には次の通り時価評価損の計上が認められます

 

 

 

2.有価証券評価損の計上が認められる場合


 

売買目的外有価証券について評価損計上が認められるケースについて条文を追って確認します。

 

法人税法第33条第2項(一部省略)

内国法人の有する資産につき~政令(施行令第68条)で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は~損金の額に算入する

 

法人税法施行令第68条第1項(一部省略、編集)

法第33条第2項に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であって、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったものをいう)~とする。

1号(棚卸資産、省略)

2号(有価証券)

次に掲げる事実(売買目的有価証券にあってはロ又はハに掲げる事実)

イ) 取引所売買有価証券や店頭売買有価証券等の価額が著しく低下したこと

ロ) イ)に規定する有価証券以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額(※1)著しく低下(※2)したこと

ハ) ロ)に準ずる特別の事実

3号(固定資産、省略)

4号(繰延資産、省略)

 

【※1:その価額】

物損等の事実判定の計算は銘柄ごとに行い(法人税法基本通達9-1-1(5))、いわゆる「時価」は下記により算出されます(法人税法基本通達9-1-13)。

(1) 売買実例があるもの:事業年度終了の日以前6カ月以内において売買のなされたもののうち適正と認められるものの価額

(2) 公開途上にある株式:金融商品取引所の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価額を参酌して通常取引されると認められる価額

(3) 売買実例のない株式でその株式を発行する法人と事業の種類、規模及び収益の状況等が類似する他の法人の株式価額があるもの:その価額に比準して推定した価額

(4) (1)~(3)のいずれにも該当しない株式:株式保有法人の事業年度終了の日又は終了の日に最も近い日における株式発行法人の事業年度終了時における一株あたりの発行法人の純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

 

また、上記(3)(4)の株式については、課税上弊害がいない限り、財産評価基本通達の178から189-7を適用した時価が認められています(法人税等相当額の控除不可、土地や有価証券の時価評価強制など諸条件があります)。

 

【※2:著しく低下】

評価損計上の判断基準となる「著しく低下」とは、下記二つの要件を満たす場合を指します(法人税法基本通達9-1-11、9-1-7参照)。

・当該有価証券の当該事業年度末の価額(時価)が、その時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回る

・近い将来その価額の回復が見込まれないこと

特に後者の要件判断が実務的には難しい部分となります。判断タイミングは当該事業年度末となるため、仮に予測に反して業績が回復したことのみをもって評価損計上が認められないわけではないですが、当該法人の業況及び過去からの財務状況推移、並びに今後の事業計画等を総合的に勘案して結論を出す必要があります。

当然、税務調査時にも確認を受けることが想定されますので、評価損計上に至った経緯を説明できるエビデンスもしっかり保存しておくようにしましょう。

 

 

3.100%グループ内の他の内国法人等の株式の評価損


 

上述の通り、売買目的外有価証券でも時価評価損計上が認められるケースがありますが、その対象会社(評価損対象となる有価証券の発行会社)が100%グループ内の内国法人である場合には注意が必要です。

具体的には「下記の要件を満たす対象会社」及び「通算法人が有する他の通算法人株式」については時価評価損対象から除かれます。

・清算中の内国法人

・解散(合併による解散を除く。)をすることが見込まれる内国法人

・内国法人で当該内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人との間で適格合併を行うことが見込まれるもの

 

100%子会社のすべてが時価評価損対象から除かれる、ではないのでご注意ください。その評価損対象会社が清算中などの場合に限られます。

 

これは、100%グループ内の内国法人が清算するとその欠損金が株主(親会社)に引き継がれるため、評価損と欠損金引継ぎを認めると二重控除になる可能性が生じます。これを防ぐために評価損計上を認めない仕組みになっています。

また連結納税制度の後継制度であるグループ通算制度下においても評価損計上が認められておりませんのでご留意下さい。

 

 

4.外国子会社株式の評価損


 

上記で評価損計上から除外されるケースを説明しましたが、評価損計上を検討している株式が外国子会社である場合は、どうでしょうか。

外国子会社株式は「売買目的外有価証券」に該当するケースが多いと思いますが評価損計上が認めれられない法人に原則該当しないため、要件を満たせば評価損の計上が認められることとなります。

 

整理すると

・その時価が簿価に比べて概ね50%相当額下回り

・資産状況等を勘案して回復可能性が見込まれないと判断できる

・評価損として会計上計上

した場合については、法人税法上も当該評価損が認められる可能性があります。

 

繰り返しになりますが『評価損対象会社の業況を分析』し、かつ『回復可能性が見込まれないことを検討した資料をしっかり保存』することが肝要です。

 

最後に、外国子会社株式の評価について説明いたします。

課税上弊害が無い限り「財産評価基本通達(相続税等で用いる通達)」に準じて株価評価を行いますが、外国株式は原則として類似業種比準価額による評価は認められておりません(国税庁質疑応答はこちら)。

従いまして純資産価額(時価純資産をベースに評価する方法)により評価することになりますが、原則として「1株当たりの純資産価額」を計算した後、「対顧客直物電信買相場」により邦貨換算します。

 

如何でしょうか。

何となく「評価損は計上できない」と思い込みがちですが、しっかり検討した結果であれば評価損計上が認められるケースもあります。

実際の評価損計上時には詳しい専門家へ相談されることをお勧めいたします。

 

次回は今回のBlogと関連するもので「評価損計上が認められなかった不服審判所裁決事例」をご紹介したいと思います。

 

 

あすか税理士法人

【国際税務・国内税務担当】高田和俊

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