1⃣ はじめに
令和6年通常国会において、「雇用保険法等の一部を改正する法律」が5月10日、参議院本会議で可決・成立し、5月17日に公布されました。
厚生労働省HPより抜粋
今回は、上記1.雇用保険の適用拡大についてご紹介します。
2⃣ 現行制度上の雇用保険被保険者の要件
原則として雇用される労働者は、以下の2つの要件を満たす場合は、雇用保険の被保険者となります。
① 1週間の所定労働時間が20時間以上
② 31日以上の雇用見込みがある場合
※ ①の所定労働時間が20時間以上か否かは、原則として雇用契約により定めた、通常勤務すべきとされている時間で判定します。
【例】
(a) 週3日、8時間勤務の場合 → 3日×8時間=24時間≧20時間 ○被保険者となる
(b) 週5日、3時間勤務の場合 → 5日×3時間=15時間<20時間 ×被保険者とならない
※(b)の雇用契約の労働者が、ときどき週20時間を超える労働をしたという理由だけでは、すぐに雇用保険の加入対象とはなりません。
ただし、「実態としては週20時間以上勤務が常態化しているが、雇用契約書では週20時間未満のまま」で未加入といった,実態と雇用契約書の内容が乖離しているのは問題です。この場合は、実態に沿った雇用契約書に更新し、加入義務が生じます。
また、上記①②を満たしていても、被保険者とならない場合もあります。
https://jsite.mhlw.go.jp/okayama-roudoukyoku/content/contents/001523779.pdf
3⃣ 雇用保険の適用拡大(令和10年10月1日施行)
働き方や生計維持のあり方が多様化している昨今の実態を踏まえ、以下のように改正されます。
① 被保険者の週所定労働時間の要件を、週20時間以上から週10時間以上に拡大
※ 厚生労働省によると、この改正により最大で約500万人が新たに適用対象となる見込みです。
厚生労働省HPより抜粋
※ 新たに適用対象となる被保険者への給付(基本手当、教育訓練給付、育児休業給付等)は、現行の被保険者と同様とし、保険料率も同水準として設定されます。
② 週20時間の労働者を念頭に設定していた被保険者期間の算定基準も週10時間以上まで拡大されることを踏まえて1/2に見直し
厚生労働省HPより抜粋
※ 被保険者期間と、被保険者であった期間?
雇用保険の失業等給付を算定するにあたり、「被保険者期間」と「被保険者であった期間」という用語がでてきます。違いを見てみましょう。
「被保険者期間」とは、失業等給付の受給資格があるかどうかの判定期間をいいます。
「被保険者であった期間」とは、単純に雇用保険の加入期間をいいます。失業等給付の給付日数の判定に用います。
…ややこしいですね。
4⃣ 副業・兼業への雇用保険の適用は?
この適用拡大に伴い、複数の事業所で雇用されている労働者が複数の事業所において雇用保険の適用基準を満たすケースは、大幅な増加が見込まれます。
現行制度上、複数の事業所で雇用されている労働者は、「主たる賃金を受ける一の雇用関係についてのみ被保険者とする」という運用がなされています。
【例】労働者Aは、甲会計事務所で勤務税理士(主たる賃金を受けている事業所)として働きながら、副業として乙専門学校で税理士講座講師のアルバイトをしている。
→ この場合労働者Aは、甲会計事務所でのみ被保険者となります。
ただ、主たる賃金を受ける事業所の判断は、労働者本人の申告がない限り、事業所側で判断ができません。
今後、労働政策審議会などで判断基準の明確化などが審議される予定です。
5⃣ まとめ
いかがでしょうか。今回ご紹介した雇用保険の適用拡大の実施は令和10年と少し先になりますが、教育訓練給付の拡充、育児休業給付の新給付創設など、他の改正事項は、令和6年10月以降、順次施行されます。
どれも、事業者の実務に大きく影響する改正ですので、適切な事前準備及び対応策が必要だと考えます。
あすか税理士法人 藤野 絵美