


相続によって不動産や非上場株式を取得したものの、「保有し続ける予定がないので売却したい」というケースは少なくありません。
相続した財産を売却する場合には、通常の財産を売却するときとは異なる税制上の特例が設けられています。
今回は納税者にとって有利になる3つの制度を解説します。「とりあえず売却してから税金を考えよう」では手遅れになる可能性がありますので事前に情報収集いただくことが大切です。

相続した土地や建物、株式などを売却すると、原則として次のように譲渡所得を計算します。
譲渡価額 - 取得費(売却資産の購入費用) - 譲渡費用(売却に要した費用) = 譲渡所得
相続によって取得した財産については、原則として被相続人の取得費を引き継ぎます。「取得費≠相続税評価額」ですのでご留意ください。
例えば母が50年前に100万円で購入した土地を子Aが相続、相続時点での評価額が2,000万円、その土地を子Aが3,000万円で売却(譲渡費用は別途200万円)したときの譲渡所得は 3,000万円-100万円-200万円=2,700万円 です。
このように、昔に取得した不動産を相続し、その後売却した場合などは、大きな譲渡所得が発生することがあります。
そこで設けられているのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」です。
相続または遺贈によって財産を取得し、その相続について相続税が課税された人が、その相続財産を一定期間内に売却した場合には、その人が負担した相続税額のうち一定額をその売却した財産の取得費に加算できます。取得費が増えることになりますので、その分だけ譲渡所得が小さくなる効果があります。
この制度は土地・建物だけの制度ではなく、相続した非上場株式などを売却した場合にも適用できる可能性があります。
この特例は、原則として「相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」に売却した場合に適用の余地があります。
通常、相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内ですので、一般的には「相続から約3年10か月以内」が一つの目安になります。
相続財産の売却を検討している場合には、この期限を意識しておくことが重要です。
相続財産が同族会社などの非上場株式である場合には、もう一つ重要な特例があります。
相続税を納付するための資金を確保する目的などから、相続した株式をその株式の発行会社に買い取ってもらうケースがあります。
いわゆる自己株式の取得です。
通常、個人株主が株式をその発行会社に譲渡すると、受け取った金額のすべてが株式の譲渡収入になるとは限りません。
会社から受け取った金額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、原則として「みなし配当」として扱われます。
この「資本金等の額」は法人税法上の金額であり、決算書や登記簿上の「資本金」とは異なる場合がありますのでご留意ください。
「資本金等の額」については、国税庁ウェブサイトもご参照ください。
つまり、一つの自己株式の売却について、「株式の譲渡所得」と「配当所得」の二つに分かれて課税される可能性があります。
非上場株式のみなし配当は原則として総合課税の対象となるため、株式の譲渡所得とみなし配当に分かれることによる税負担への影響は大きくなる場合があります。
ところが、相続によって取得した非上場株式については特例があります。
相続または遺贈により財産を取得した人に、その相続について納付すべき相続税額があることなど、一定の要件を満たし、その相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合には、本来であればみなし配当となる部分についても、みなし配当として取り扱わず、株式の譲渡所得として取り扱うことができます。
これが「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例」です。
この特例の適用を受けようとする株主は、譲渡する前に「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書(譲渡人用)」を株式発行会社に提出します。この手続を行うことで、一定の要件のもと、みなし配当課税を行わず、譲渡対価の全額を株式の譲渡所得の収入金額として取り扱うことができます。
提出を受けた発行会社は必要事項を追記し、譲受日の属する年の翌年1月31日までに、当該法人の所轄税務署長に提出する必要があります。

「みなし配当課税の特例」は相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社へ譲渡する必要があります。
なお、「みなし配当課税の特例」は先に述べた「相続税の取得費加算の特例」と併用できる可能性もあります。適用漏れのないようにしましょう。
最後に、相続した自宅を売却する場合の特例です。
親が一人暮らしをしていた自宅を相続したものの、相続人自身は別の場所に住んでいるため、その自宅を売却するケースがあります。
一定の要件を満たす被相続人の居住用家屋やその敷地を売却した場合には、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度があります。
例えば、相続した実家を売却して2,500万円の譲渡所得が発生したとしても、この特例の要件を満たせば、3,000万円の範囲内ですので課税される譲渡所得をゼロにできる可能性があります。
非常に効果の大きい制度ですが、被相続人の居住状況、建物の建築時期、相続後の利用状況、売却価額、売却時期など、複数の要件があります。特に売却時期は「相続開始があった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで」なので注意してください。
また、相続人が3人以上の場合には、一定の場合、特別控除額の上限が1人当たり2,000万円となります。
なお、「空き家の3,000万円控除」は「相続税の取得費加算」との重複適用はできません。いずれの特例を適用する方が有利か、事前に比較検討することが重要です。
いかがでしょうか。今回は相続した財産を譲渡した際の特例制度について解説しました。
これらの制度に共通している重要なポイントは、期限や適用要件が定められていることです。
そのため、相続した不動産や非上場株式の売却を予定している場合には、売買契約を締結する前の段階で税務上の取扱いを確認することをおすすめします。
相続税は「相続税申告書を提出して終わり」ではありません。
相続財産の売却を検討されている場合には、実行前に税理士等の専門家へ相談することをおすすめいたします。
あすか税理士法人
【国際税務・国内税務担当】代表社員税理士 高田和俊

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