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国際税務会計制度2024.05.22 グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理・開示

2024年3月、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を公表しました。今回は、グローバル・ミニマム課税制度とはどういうものなのか、また、それが会計処理にどのような影響を与えるのかについて、確認してみたいと思います。

 

 

1.グローバル・ミニマム課税制度とは?


 

 

ASBJのホームページで今回の実務対応報告の公表に関するページを見ると、ASBJの研究員の方による解説(実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等の概要)が掲載されていますが、この内容がとても分かりやすいので、参考になると思われます。

 

グローバル・ミニマム課税制度は、経済協力開発機構(OECD)が進めたBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食及び利益移転)プロジェクトにおいて定められた枠組みに参加している国によって合意された制度のことだそうです。

 

グローバル・ミニマム課税は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的としており、課税の源泉となる所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する点に特徴があるとされています。

 

グローバル・ミニマム課税のルールとして、以下の3つが示されています。

所得合算ルール(IIR)・・・軽課税国にある子会社等の税負担が基礎税率(15%)に至るまで親会社の国で課税

 

軽課税所得ルール(UTPR)・・・軽課税国にある子会社等の税負担が基礎税率(15%)に至るまで子会社等の国で課税

 

国内ミニマム課税(QDMTT)・・・自国に所在する事業体の税負担が基礎税率(15%)に至るまで課税。自国に所在する事業体の実効税率が15%未満の場合に、他国において上乗せ課税をされるのを防ぐために、各国が導入できる制度

【出典】実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に関する法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等の概要

 

このうち、日本では、令和5年度税制改正によって、所得合算ルール(IIR)への対応がなされており、軽課税国に所在する子会社や恒久的施設(支店等)について、その税負担が基準税率(15%)に至るまで課税が行われることとなりました。この新しい制度は、2024年4月1日以後開始する事業年度より適用されます。

 

※グローバル・ミニマム課税制度について、より詳しい情報をお知りになりたい方は国税庁が公表している「グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし」が参考になると思います。

 

 

2.グローバル・ミニマム課税制度の概要と特徴


 

 

グローバル・ミニマム課税制度の適用対象

 

多国籍企業グループ等のうち、各対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち、2以上の対象会計年度の総収入金額が7億5,000万ユーロ以上であるものが、グローバル・ミニマム課税制度の適用対象となり、これを特定多国籍企業グループ等といいます。

 

 

グローバル・ミニマム課税制度に基づく法人税等の申告・納付期限

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月以内(最初にグローバル・ミニマム課税制度に係る申告書を提出する場合は1年6か月以内)に申告書を提出しなければならず、この申告期限までに納付することが求められています。

 

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の計算プロセス

 

当期国別国際最低課税額

=(国別グループ純所得の金額➖実質ベースの所得除外額)❌(基準税率(15%)➖国別実効税率

 

国別グループ純所得の金額

=子会社等の個別計算所得等の金額(会計上の当期純損益に一定の調整を加えて算定)の合計額

 

国別実効税率

=子会社等の調整後対象租税額(会計上の法人税等及び法人税等調整額の合計額に一定の調整を加えて算定)の合計額➗国別グループ純所得の金額

 

 

グローバル・ミニマム課税制度特有の特徴

 

グローバル・ミニマム課税制度の適用にあたっては、課税対象となる子会社等を国別に判定することが求められています。その際、国別実効税率は、結果的に各国の税額控除等を反映した後の税率となることから、対象範囲の判定を行うにあたっては、恒久的施設や特殊な会社に関する国別の課税に関する情報を入手する必要があるとされています。

 

国別グループ純所得の金額を算定するために必要となる個別計算所得等の金額は、会計上の当期純損益に一定の調整を加えて算定することとなっていますが、この一定の調整を行うためには、各構成会社等の所在地国の税制の理解が必要となる場合があるとのことです。

 

国別実効税率を算定するために必要となる調整後対象租税額は、会計上の法人税等及び法人税等調整額の合計額に一定の調整を加えて算定することとなっていますが、この調整には、対象会計年度終了の日から3年以内に支払われることが見込まれない法人税等や5年以内に支払われることが見込まれない繰延税金負債に係る法人税等調整額の調整などが求められています。また、国別情報の把握や各構成会社等の所在地国の税制の理解も必要になると考えられるとのことです。

 

 

3.グローバル・ミニマム課税制度の会計処理


 

 

「2.グローバル・ミニマム課税制度の概要と特徴」からもお分かり頂けると思いますが、グローバル・ミニマム課税制度においては、

通常の法人税等の申告期限の翌事業年度での申告(納付)が認められている

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りが困難となる場合が想定される

 

ことから、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りに関する会計上の取扱いを示して欲しいとの要望が寄せられていたようです。

 

(1)連結財務諸表及び個別財務諸表(年度決算)における取扱い

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上する(第6項)

 

法人税等の計上時期については、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が多国籍企業グループ等の連結財務諸表を構成する会社等の国別の純所得(利益)に基づいて課税されるものであり、これが当連結会計年度以外の年度に計上されることは適切ではないこと、また、個別財務諸表においては、親会社等の所得(利益)に直接的には関係しないものの、納税義務を生じさせる事象が当事業年度において生じていると考えるべきであることを踏まえ、対象会計年度において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額を見積り、計上することとされています。

 

一方で、財務諸表の作成時点において、一部の情報の見積りが困難な場合の見積りについては、次の考え方が示されています。(BC10項及びBC11項)

特に適用初年度については、必要な情報を適時・適切に入手する体制の構築等が困難な場合が想定されるが、その場合は財務諸表の作成時点で入手可能な情報に基づき見積もることとなる。

 

適用初年度の翌年度以降は、入手可能となる情報が増加し、より精緻な見積りが可能となると考えられる。

 

財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積もった金額と翌事業年度の見積金額や確定金額との間に差額が生じる場合が考えられるが、各事業年度において入手可能な情報に基づき合理的な見積りを行っている限りは、この差額は誤謬にはあたらず、差額が生じた期の損益として処理することになると考えられる。

 

  会計上の見積りの変更にあたって、当該差額に重要性がある場合には、「会計上の見積りの変更に関する注記」を行うことになると考えられる。

 

 

また、このグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについては、補足文書が公表されており、情報の入手が困難な場合の会計上の見積りの例が示されていますので、こちらも参考になるものと思われます。

 

(2)四半期財務諸表及び中間財務諸表における取扱い

 

四半期財務諸表や中間財務諸表においても、年度決算と同様にグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積もることとした場合、

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、対象会計年度の年間の利益や税額控除を用いて対象範囲の判定や見積りを行うことから、四半期会計期間や中間会計期間においては、年度と同様の方法によって計算を行うことが困難な場合がある

 

四半期財務諸表の作成にあたって入手している情報は、年度に比して限定的な情報であり、四半期財務諸表においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を合理的に見積もることが、年度に比して困難な場合がある

ことが考えられます。

 

このため、四半期財務諸表や中間財務諸表の作成においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を合理的に見積もることが可能かどうかについては、追加的な検討が必要であると考えられており、以下の代替的な会計処理が認められています。

四半期財務諸表及び中間財務諸表においては、実務対応報告第6項の定め(=年度における取扱い)にかかわらず、当面の間、当該四半期会計期間等及び当該中間会計期間等を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができる(第7項)

 

 

 

4.グローバル・ミニマム課税制度に関する開示


 

 

(1)貸借対照表における表示

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、法人税等会計基準の定めにかかわらず、固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示する(第11項)

 

 

(2)連結損益計算書における表示・注記

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示する(第9項)

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記する(第10項)

 

 

(3)個別損益計算書における表示・注記

 

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、いずれかの方法によって表示する(第11項)

法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって表示

・法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し、当該金額を注記

 

※ただし、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合は、注記を要しない(第12項)

 

 

(4)四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記

 

実務指針第7項(グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しない取扱い)を適用するときは、その旨を注記する(第13項)

 

 

 

適用は、グローバル・ミニマム課税制度の適用が始まる2024年4月1日以後開始する連結会計年度(事業年度)からとなっています。

 

適用対象のところで触れた通り、収入金額が一定金額以上の企業に適用される制度ですが、該当する企業の経理の方は、是非内容をご確認ください。

 

 

 

あすかコンサルティング株式会社

【会計コンサルティング担当】津田 佳典

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