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国際税務会計・ファイナンス・監査2025.05.07 【国際税務】海外子会社に対する財務チェックと税務リスク

グローバル企業にとって重要な業務の1つである「関係会社の管理」。
中小企業・中堅企業にとってはマンパワーを割くことも難しい中で、海外子会社の財務状況に問題が無いかどうか、または海外子会社があるこのにより日本親会社で生じ得る税務リスクを効率よく確認・把握したいニーズがあるように感じます。
そこで今回は、海外子会社の財務チェックをするときや、海外子会社に関連する日本親会社の税務上のリスク把握についてポイントを絞って解説したいと思います。

 

 

1.海外子会社の財務チェック


 

海外子会社の財務が適切かどうかの確認方法は様々手法があると思います。
あくまで概括的に決算書や試算表数値が正しいかどうかを確認する場合は、「貸借対照表」を中心に確認することをお勧めいたします。

 

(1)チェックする基準日
「決算書や試算表」と「証憑や実態」とを照合する(擦り合わせる)ことで財務諸表が適切かどうかを確認することが出来ます。
よって、どの「決算書」「試算表」をベースにするのか、つまり「いつ時点の資料」を基準としてチェックするのかを決める必要があります。
お勧めは「直近決算書」と「直近試算表」の2つをベースにする方法です。
「直近決算書」は確定した数値であり、また証憑も揃っている可能性が高いため適切かどうかのチェックがスムーズになります。加えて「直近試算表」のうち主要な項目だけ確認するのが一番良い方法だと思います。

 

(2)各項目毎のチェック方法
基準日(照合する基礎資料)が決まったら、次は貸借対照表に計上されされている各項目をどのようにチェックするか、です。
以下項目毎にチェック方法を列挙いたします。

・現預金:預金等の証憑との照合
・売掛金、未収入金、買掛金、未払金:基準日の翌月以降の動きを確認して滞留(消し込み出来ないもの)が無いかどうか確認
・在庫:在庫把握方法の確認、価値が下がっているものの確認(評価損検討)
・有形固定資産:資産台帳と現物との照合、償却漏れ有無のチェック
・有価証券:実在性確認、時価と会計数値が乖離していないか確認
・保証金等:実在性確認
・未払税金:未納が無いか確認

 

 

2.国際税務に関する税務リスクチェック


 

グローバル企業にとって、海外子会社があることにより生じる国際税務リスクがあります。
どんなリスクが生じ得るのか、特に重要と思われる3つのトピックにしぼってご案内します。

 

(1)寄附金課税
海外子会社の業務を手伝ったものの、その適正対価を海外子会社に負担して貰っていない場合は「海外子会社に対する支援」と考え「寄附金課税」の対象となります。
人件費負担・旅費交通費負担などが対象となるイメージです。
「日本親会社の得意先に係る現法(海外子会社)」を営業目的で訪問する場合など、注意が必要です。当該得意先の現地子会社と日本親会社が直接取引をしていれば、その出張旅費は全額日本親会社が負担することに合理性がありますが、例えば「当社の海外子会社」と「得意先の海外子会社」が直接取引している場合、その取引による利益は「当社の海外子会社」に帰属します。その場合に日本親会社が負担した出張旅費は、海外子会社の営業活動を支援したと見做され寄附金課税の対象となり得ます。
役員が兼務であるケースや海外子会社設立間もないタイミングなどが特に要注意で、二国間での役務提供がどの程度・どのような内容で行われているのか正確に把握し、適正対価を請求出来ているか確認するようにして下さい。

 

(2)移転価格税制
A社(外国法人)→海外子会社→日本親会社→B社(日本法人)の商流があったとします。
海外子会社は日本親会社に100で商品を売却する一方で、グループ外のC社には130で売却していたとします。グループ外取引に比べてグループ内取引の方が安い価格で取引するケースが普通なように思えますが、税務の世界では、原則としてグループ内取引とグループ外取引について同じ利益率で取引するべき、と考えます。
何故このような考え方をするかですが、例えば海外子会社の所在地国の法人税率が15%、日本の法人税率が35%だったと仮定します。全世界での税金コストを最小化しようと考えると、海外子会社での所得を増やしたく(つまり日本親会社の所得を海外子会社に移転したく)なりませんか。
それは課税上問題があるので、適正価格(利益率)で取引するように税務上制限をかけるのが「移転価格税制」です。
移転価格税制については論点が沢山あり、その税務リスクを全て把握・対処するのは大変負荷が掛かりますが、まずは海外子会社との取引についてその取引価格がどのように決まっているのか、またその価格は適正なのかどうかを検討頂く必要があるように思います。

 

(3)タックスヘイブン対策税制
最後の留意点として「タックスヘイブン対策税制」について簡単に説明します。
これが一番盲点になりやすいのでは無いかと思います。
タックスヘイブン対策税制とは、いわゆる「ペーパーカンパニー」に該当する海外子会社がある場合は、その海外子会社の所得を日本親会社の所得に合算して日本で課税しますよ、という制度です。
「ペーパーカンパニー」の定義は実務的に結構難しい判断基準になりますが、分かりやすく言えば「その会社が独立した会社(つまり日本親会社に支配された会社では無く)」であったら通常あるべきことがなされていない会社となります。
例えば会社運営する上での物理的な拠点(事務所等)が無い場合や、人員が配置されていない会社等がペーパーカンパニーに該当する可能性があります。
現状の法律はもう少し判断が厳しく、海外子会社が実体を伴っていても(ペーパーカンパニーに該当しなくても)、「その海外子会社では無く日本親会社でも同様の所得が得られるビジネス(受動的所得)」について日本で課税できる仕組みになっています。
実務的には、下記2つの視点で該当する海外子会社がないかどうか検討するのがお勧めです。
・ペーパーカンパニーはないか?
・どこでも稼げる所得(貸付利子、使用料収入・為替所得等の受動的所得)が2,000万円以上無いか?(税負担率20%未満の場合)
これらに該当する海外子会社がある場合は、国際税務の専門家に相談して対応方法を検討するのが良いと思います。

 

いかがでしょうか。

中小企業や中堅企業のグローバル化はどんどん進む中、特に会計・税務の実務に携わる部署の業務に従事されている方の負荷が高まっているように感じます。是非信頼が置ける専門家にご相談されることをお勧めいたします。

 

あすか税理士法人

【国際税務・国内税務担当】高田和俊

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