


中小企業の退職金制度はどれを選ぶべき?
「退職金制度を整えたいけれど、どれを選べばいいのか分からない」
そんな悩みを抱える中小企業は少なくありません。
制度の種類が多く、税金や社会保険の仕組みも複雑。間違った選択をすると、従
業員の将来の手取りが減ってしまうこともあります。退職金制度は、採用力や定
着率にも直結する重要な制度。だからこそ、制度の違いを正しく理解し、あなた
の会社に合った形を選ぶことがとても大切です。
この記事では、企業型DC・iDeCoプラス・iDeCo・中退共を比較しながら、中小
企業が押さえておくべきポイントや、見落としがちな“受け取り時の税金”まで解
説します。

《制度概要》
まずはそれぞれの制度の概要のご説明です。
🟦 企業型DC(企業型確定拠出年金)
企業が毎月掛金を積み立て、従業員が運用する“先払い型の退職金”。
掛金上限:55,000円
(企業が負担する掛金に従業員が上乗せするマッチング拠出という制度もありま
す。)
🟩 iDeCo(個人型確定拠出年金)
従業員個人が自分で積み立てる制度。
掛金上限:20,000円~68,000円
🟨 iDeCoプラス
中小企業向け。(厚生年金の被保険者300人以下の企業)
従業員のiDeCoに企業が上乗せして積み立てできる。
掛金上限:20,000円~68,000円
🟧 中退共(中小企業退職金共済)
国が運営する昔ながらの退職金制度。安全性が高く、事務負担が少ない。
掛金上限:30,000円
《メリット・デメリットを比較》
🟦 企業型DC(全額企業負担)
メリット
・企業は退職金の先払いとして掛金を経費とすることができる。
・従業員は運用で増やせる可能性
・福利厚生として魅力的
・退職金の“先払い”として制度化しやすい
デメリット
・元本保証なし
・導入・運営コストがかかる
・従業員の運用リテラシーが必要
🟩 iDeCo(全額個人負担)
メリット
・従業員が負担した掛金が全額所得控除(所得税・住民税の節税効果)
・運用益も非課税
・自分で投資先を選べる
デメリット
・60歳まで引き出せない
・一時金受取は退職金と同じ控除枠を使う
・従業員個人に手数料がかかる
🟨 iDeCoプラス(個人が負担する掛金に企業が上乗せ)
メリット
・小規模企業でも導入しやすい
・企業は退職金の先払いとして掛金を損金とすることができる
・従業員のiDeCoを強化できる
デメリット
・従業員個人に手数料がかかる
・従業員がiDeCoに加入していないと掛金を上乗せできないので不公平感が生じ
る可能性も
・元本保証なし
🟧 中退共(全額企業負担)
メリット
・国の制度で安心
・元本割れしにくい
・事務負担は比較的少ない
・企業が負担する掛金は全額経費にできる
デメリット
・利回りは低め
・長く続けないと給付が少ない
・早期退職(2年未満)の場合、支給されない場合や元本割れする可能性も
社会保険・失業保険・傷病手当金への影響は?
少し補足とはなりますが、給与の一部を企業型DC・iDeCoプラスの掛金として支
払う場合、 社会保険の対象となる給与額が下がり健康保険・介護保険・厚生年
金・雇用保険などの保険料負担が下がります。
しかし一方で、
などの受取る金額が減る可能性があるので注意が必要です。
ここでは受取方法や受取時の税金などについて説明いたします。
受取り方により税金等が大幅に変わることがございます。
《受取方法》
🟦 企業型DCの受け取り方
企業型DCは 一時金 ・年金 (5年~20年)・併用(一部を一時金、残りを年金)
の3つから選べる。
🟩 iDeCoの受け取り方
iDeCoは 一時金・年金(5年~20年)・併用(一部を一時金、残りを年金) の3つ
から選べる。
🟨 iDeCoプラス
iDeCoプラスは「企業が上乗せしたiDeCo」なので、受け取り方はiDeCoと同
じ。
🟧 中退共の受け取り方
中退共は基本的に 一時金 で受け取る。
《税金等について》
受取方により、税金など金額が変わります。
一時金で受け取る場合
・退職所得控除を使える
・退職所得控除後の金額を1/2した金額が税金の対象となる
・退職金と同じ年や受取の敷きが近いと控除枠が圧迫される可能性がある
・退職金については在職期間、DC等については加入期間が5年を満たない場合、
退職所得控除後の金額が300万円を超える部分については1/2することができ
ない(税金負担増)
など税優遇などがございます。受取るタイミング別にご説明いたします。
《DC等の一時金のみの受取りの場合》
企業からの退職金をすべてDC等で運用する場合などが当てはまるかと思います。
加入期間30年、受取金額1,000万円の場合
退職所得控除額は40万円×20年+70万円×10年=1,500万円となります。
受取金額が退職所得控除額より少ないので全額非課税で受取ることができます。
《DC等の一時金を受取った後、企業の退職金を受取る場合》
次に、DC等の一時金を受取った後、企業から退職金を受取る場合についてご説
明いたします。
⑴DC等の一時金と退職金を同じ年で受取る場合
在職期間30年、DC加入期間20年
企業退職金1,000万円、DC等の一時金1,000万円の場合
退職所得控除は40万円×20年+70万円×10年=1,500万円
となり、受取合計額2,000万円から1,500万円差引いた500万円を1/2した250万
円が税金の対象となります。所得税15万円、住民税25万円の合計40万円ほどの税
金の負担が発生いたします。
令和8年1月以降、退職所得控除が改正となり、企業から退職一時金を受取る前年
以前9年前にDC等の一時金を受取りがあった場合、退職所得控除の調整がかかり
ます。
定年を65歳までに引き上げられた場合などで退職した際に支給されるよりも前に
DC等の一時金の受取されている場合につきましては次の現象が起きる可能性が
ありますので注意が必要です。
⑵DC等の一時金を受取後、翌年以降に退職金を受取る場合
令和8年1月よりDC等の一時金を先に受取りその後、9年以内(改正前は4年)に
企業の退職金を受取った場合、退職所得控除の調整がかかります。
先ほどの受取額、加入期間を例に挙げますと
①DC等の一時金受取時
退職所得控除20年×40万円=800万円
(受取金額1,000万円ー退職所得控除800万円)×1/2=100万円が課税対象
所得税5万円、住民税10万円の計15万円の税金負担
②企業の退職金を受取時
退職所得控除(20年×40万円+10年×70万円=1,500万円)ー前回使用した退職所
得控除800万円=700万円
(受取金額1,000万円ー退職所得控除700万円)×1/2=150万円が課税対象
所得税7.5万円、住民税15万円計22.5万円の税金負担
①、②の合計が37.5万円となります。(少しだけお得)
従業員の方がiDeCoに加入しており、既に一時金を受取っている事実を知らない
まま重複している期間の退職所得控除まで控除(1,500万円)してしまうと税金
が発生しないので所得税・住民税の徴収もれとなってしまいます。
企業からの従業員の方へ退職金を支給される際、特に従業員の方がiDeCoに加入
されている場合、企業にて把握しきれない可能性(中途採用ど)もあるので要確
認ですね。
《企業の退職金受取の後、DC等の一時金を受取った場合》
先ほどの受取り方とは逆で、企業から退職金を受取った後DC等の一時金を受取
りした場合につきましては、DC等の一時金の受取年19年前に退職金を受取って
いる場合、退職所得控除額が調整されることとなります。
例えば60歳退職後、DC等の一時金の受取は70歳に受取った場合
先ほどと同条件として例に挙げますと
①企業より退職金を受取時
退職所得控除額20年×40万円+70万円×10年=1,500万円
受取金額1,000万円より退職所得控除額が多いので所得税・住民税は課税されま
せん。
②退職後、DC等については70歳まで運用した場合の一時金受取時
退職金受取時の在職期間と全ての期間が被っておりますので
退職所得控除20年×40万円=800万円ー800万円=0円
となってしまい、一時金受取額1,000万円×1/2=500万円が税金の対象となりま
す。(所得税60万円、住民税50万円計110万円ほど税負担)
DC等の一時金を受取る際には受取る順番に注意が必要となります。
また、この制度の改正の関係もあり、令和8年1月以降に支給されます企業から支
給されます退職金につきましては、1月に税務署へ提出いたします法定調書合計
表の退職金の支払調書の提出が必要となります。(以前は役員のみが対象)
また、退職所得の受給に関する申告書の保存期間も7年から10年の保存と改正さ
れました。
年金で受け取る場合
DC等(中退共除く)の一時金を一括ではなく5年~20年までの期間にて分割
受取することができます。
・公的年金等控除が使える。
・退職金と受取時期が重なっても問題なし
といった、税優遇がございますが、年金として受取る場合の注意点がございま
す。
例を挙げますと65歳より厚生年金を年240万円受給される方が、確定拠出年金を
給付総額1,000万円を10年間(100万円/年)で受取る場合、年金所得が130万円か
ら227.5万円となります。
この所得の増加により所得税5万円・住民税10万円ほど税金の負担が増加しま
す。10年間で150万円負担増となる可能性がございます。
また、企業を退職した場合、国民健康保険や介護保険に加入することとなりま
す。この保険料の負担も増額することとなります。自治体によりますが、おおよ
そ15万円ほど負担が増える可能性があり、10年間で150万円負担が増える可能性
がございます。
さらに確定拠出年金の受取金額が多くなると70歳以降の国民健康保険の医療負担
割合が増える可能性がありますので、一時金とどちらが負担が増えないか検討し
ていただければと思います。
以上、中小企業の退職金の運用の概要、受取時の税金負担などのご説明になりま
す。参考になれば幸いです。
あすか税理法人
白川 達也