3月決算の上場会社の皆様におかれましては、ちょうど有価証券報告書の作成時期に差し掛かっているかと思います。今年度の有価証券報告書を作成する際の留意点について、私なりの視点で纏めてみました。(その1から続く)
4.コーポレートガバナンスの状況等を記載する際の留意点
2024年度の金融庁による有価証券報告書レビューにおいて、「コーポレートガバナンスの状況等」の開示においても、いくつかの課題が識別され、有価証券報告書の作成・提出にあたっての留意すべき事項として取り纏められています。
取締役会、会社が任意に設置する指名・報酬委員会、監査役会等の開催頻度、具体的な検討内容、出席状況等の記載がない
提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会、企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会については、その活動状況として開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役・委員の出席状況等を記載することが求められています。
また、監査役及び監査役会等については、その活動状況として開催頻度、具体的な検討内容、個々の監査役等の出席状況、常勤の監査役等の活動などを記載することが求められています。
これらの点について、抜け漏れがないかどうか、今一度確認して頂くことが重要と考えられます。
内部監査が取締役会に直接報告を行う仕組みの有無に関する記載がない
内部監査の状況において、内部監査の実効性を確保するための取組について、具体的に分かりやすく記載することが求められていますが、この取組には、内部監査部門が取締役会や監査役会等に対して直接報告を行う仕組みの有無が含まれると明記されています。
当該仕組みがない場合には、仕組みがない旨の記載を行わなければならない点に留意が必要です。
政策保有株式の保有目的が具体的に記載されていない
政策保有目的の銘柄ごとの保有目的が安定株主の確保であるにもかかわらず、当該目的が記載されていない
政策保有株式の銘柄ごとの開示においては保有目的を具体的に記載することが求められています。また、保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の内容を含むとされていますが、この内容についても具体的に記載することが必要となります。
また、保有目的が「株式の持ち合いを通じた安定株主の確保」にある場合には、当該目的を記載することが求められている点に留意が必要とされています。
取締役会等における政策保有株式の保有の適否に関する検証についての開示と実態に乖離がある
銘柄ごとの政策保有株式の定量的な保有効果の記載が困難な場合において、政策保有株式の保有の合理性を検証した方法の記載が不明瞭である
政策保有株式の保有の合理性を検証する方法や個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容については、当然ながら実態に基づいて適切に記載する必要があります(開示と実態に乖離があることは避けられなりません)。
また、銘柄ごとの開示においては、提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報を関連付けた定量的な保有効果を具体的に記載する必要があり、定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法を具体的に記載する必要があるとされています。
政策保有株式から純投資目的への保有目的の変更に関する問題点
政策保有目的から純投資目的への保有目的の変更については、以下のように、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態となっている事案が確認されています。
✔ 売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で純投資目的の株式に変更を行っている
✔ 発行者から売却の合意を得た上で純投資目的の株式に区分変更したものの、実際には長期間売却に取り組む予定がない
2025年1月に開示府令等の改正が行われ、2025年3月31日以後に終了する事業年度から有価証券報告書において、次の開示を開示することが求められています。
当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更したもののうち、当事業年度末においても保有しているものについて
・銘柄 ・株式数 ・貸借対照表計上額 ・保有目的の変更年度
・保有目的の変更理由 ・変更後の保有または売却に関する方針
また、開示ガイドラインにおいては、純投資目的とは専ら株式の価値の変動または株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいい、発行者との関係において提出会社による妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないという考え方が示されている点にも留意が必要です。
各課題に対しては、開示の充実に向けて参考になると考えられる事項が示されており、今年度の有価証券報告書の開示内容を検討する上で、参考になるものと考えられます。
4.有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点
有価証券報告書を株主総会前に提出する場合、定時株主総会またはその直後の取締役会の決議事項となっている事項については、その旨及びその概要を記載することとされています。
このため、これまで株主総会後に有価証券報告書を提出していた会社が、株主総会前に有価証券報告書を提出する場合は、いくつかの点で報告書の記載内容に変更が必要であると考えられています。
(1)配当に関する事項
①主要な経営指標等の推移
最近5事業年度に係る1株当たり配当額が記載事項とされているが、当事業年度の配当額が確定していない場合は、決議する予定の配当額を記載し、その旨を注記する必要があります。
②配当政策
配当に係る情報(決議年月日、配当金の総額、1株当たり配当額)が記載事項とされているが、当事業年度に係る配当が確定していない場合には、決議する予定の配当に係る情報を注記する必要があります。(決議年月日のところに決議予定である旨の記載を行っている事例があるようです。)
③配当に関する注記事項(株主資本等変動計算書関係注記)
配当に関する事項として「基準日が当連結会計年度に属する配当のうち、配当の効力発生日が翌連結会計年度となるもの」の記載が求められますが、当事業年度に係る配当が確定していない場合には、決議する予定の配当に係る情報を注記する必要があります(報告書提出後に開催される定時株主総会の議案として、不付議する予定である旨の記載を行っている事例があるようです)。
(2)ガバナンスに関する事項
①コーポレートガバナンスの概要
企業統治の体制の概要(設置する機関の名称、目的、権限及び構成員の氏名等)の記載にあたっては、提出日現在の体制と定時株主総会で決議を予定している体制を併記することが求められています。
②役員の状況
役員に係る情報(氏名、略歴、任期等)の記載にあたっても、提出日現在の役員の状況と定時株主総会で決議を予定している役員の状況を併記することが求められています。
③監査の状況
監査役等の監査の組織、人員、手続等の記載にあたっても、提出日現在の状況と定時株主総会で決議を予定している体制の概要を併記することが求められています。
④役員の報酬等
報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法等が記載事項となっているため、役員報酬に関して、定時株主総会において何らかの決議が予定されている場合には、その概要についても記載することが求められています。
以上、2回にわたって、有価証券報告書の作成上の留意点について纏めてみました。有価証券報告書を作成される方のご参考になれば、幸いです。
あすかコンサルティング株式会社
【会計コンサルティング担当】津田 佳典
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